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天槍のユニカ  作者: 暁子
第2章 籠の中の争い
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9.審問・青金冠(3)

 体調が戻りつつあると、王太子に与えられた部屋での暮らしもなかなか快適になってきた。


 ユニカの部屋に出入りするのは、クリスタ、それからエミという侍女に決まったようだった。ティアナも朝に一度やって来たが、毒消しの薬を置いて挨拶していくだけだ。多分、ユニカの様子を王太子に報告するため確認しに来るのだ。


 西の宮から移ってきたリータとフラレイは引き続きユニカの世話をするようエリュゼから指示されたらしいが、王太子の侍女たちの前では少し緊張気味である。以前のように暇を見つけてはおしゃべりに興じることがなく、指示を出すエミ、新人ながらにテキパキとその手伝いをするクリスタの仕事ぶりに圧倒されているふうだった。


 自分への審問会が開かれていたことなど知らず、今日はエリーアスも来なかったので、ユニカは一日中寝たり起きたりを繰り返していた。夕食のために呼ばれ、やっと寝室から出る気になったところだった。


「王太子殿下がお見えです」


 発熱のせいで汗ばんでいた身体をエミに拭いてもらっていると、フラレイがちょっと浮ついた声で言いながら寝室に入ってきた。


「え? ま、待って。中へ入れてだめよ」


「あ、はい……」


 フラレイの笑みがわずかに引き攣る。また勝手に部屋へ入れたな、と思いながらユニカは急いで服を着た。ドレスを着るような時間も元気もないので、袖を通したのは新しく用意されていた寝間着だ。それに、王太子が差し入れてくれたという毛布のようにふかふかで温かいガウンを羽織る。


 ユニカが寝室から出てくると、ディルクが見守る中でテーブルの上には食事の準備が整いつつあった。


「こんばんは。顔色は悪くないが、気分はどうだ?」


「おかげさまで」


「また夕食をご一緒しようと思ってね。粥ばかりも飽きただろう? 食べられるものがあったらなんでも食べたほうがいい。果物もあるよ」


 挨拶もそこそこに、ユニカはディルクに手を引かれて席に着いた。


「食事が終わったら少し外へ行きたいんだが……歩けそうか?」


「外?」


「温室へ。寒いだろうけど仕方がない。もっと厚着して行こう」


「どうしてそんなに寒いところへ……?」


「君の部屋へ近衛が押し入ったことから今日まで続く続く騒動の件で、君に伝えたいことがあるんだ。陛下もいらっしゃる」


 嫌な予感がする。ユニカは曖昧に頷きながら、何とはなしに違和感を覚えていた。そしてその違和感は、一度も王太子が目を合わせてこないせいだとすぐに気がついた。


 人の目を覗き込んで、心まで覗き込むような魅惑的な笑顔を浮かべるのが、相手と思い通りに会話するためのこの人の常套手段だ。なぜそれがないのか。


 ユニカはむくれながら前菜のキッシュを切り分け始めたが、ディルクは苦笑を浮かべているだけで、何も問わないユニカには何の説明してくれなかった。



 


 温室に入るのは久しぶりだ。近くで襲われて以来、ずっと避けてきたせいだ。


 あの時ユニカを襲った騎士とは対面を果たしたが、そういえば彼がどうなったのか、どういう処分を受けるのか聞いていない。そして、彼の血縁であったというテリエナについても。


 けれど今はそんな雑談が出来る雰囲気ではなかった。食事を終えると、ディルクは侍女も騎士も伴わず、ユニカだけを連れて東の宮を出た。明かりは彼が持っているカンテラ一つなので、ユニカの足元は暗い。見えない代わりにディルクが手を引いてくれている。


 やがて暗闇に慣れてきた目は、前方にドーム状の硝子の屋根を乗せた建物の陰をぼんやりと捉えた。


「凍っている。気をつけて」


 温室の扉に続く短い階段は積もった雪でかちかちに凍っていた。その上にまた積もり始めた新しい雪には、先ほどついたばかりと思しき足跡がある。二人分あるように見えたが、何しろ暗いので定かではない。


「もういらしてるようだ。行こう」


 温室の中は昼間の暖気が残っているのと風が入らないのとで、外に比べればほんのり温かい気がした。凍らないせせらぎの音だけがちょろちょろと響いていて、植木や花の茂みの影は真っ黒く無言だ。


 その暗い世界の中に、ぽつんと灯りが浮かんでいた。せせらぎの上に設えられている蔓薔薇の四阿に人がいるのだ。

 灯りの中に浮かび上がる姿は二つだった。ユニカとディルクがやって来るのに気がつくと、人影の片方――エリュゼが立ち上がって迎えた。


「待たせたかな」


「いいえ。ユニカ様、お身体の具合はいかがですか? よかった、もうお顔の色は悪くありませんわね」


 エリュゼには二日会っていないだけのはずだが、彼女の印象はすっかり変わっていた。侍女をしていた時には着けていなかった大きな宝石のついたイヤリングや髪飾りのせいだろうか。しっかり化粧もしているようだ。


 クレスツェンツとエリュゼの関係をもっと詳しく聞きたい。そう思っていたユニカだったが、慣れ親しんでいた侍女の雰囲気が消えたエリュゼを相手にたじろいでしまう。それが相手にも伝わったのか、エリュゼは少し寂しげに笑った。


「陛下がお待ちです。お席へどうぞ、殿下」


 エリュゼは叩頭して四阿へ上る階を指し示した。ディルクに言ったのかと思ったが、彼女が手を取ったのはユニカだ。


 ディルクは後ろからカンテラを差し出してユニカの足元を照らしてくれる。そうして丁重に大理石の椅子まで導かれると、ユニカはこの三人が何か示し合わせているのだということに否応なく気づかされた。


「私の周りで起こったことについて、ご説明いただけると聞いてきましたが……」


「ああ、それぞれ詳しく知っている事情があるものだから、君の問いにはすべて答えられるように皆で集まった」


「そうですか、難しいお話なのね。でもここは温かくもありませんし、長話はやめておきましょう。私からは何を聞けばよいのか分かりません。どうぞどなたからでも、お話をなさってください」


 ユニカまだ痺れの残る左手を手袋の上からさする。冷えると痺れがひどくなるようだ。そうでなくても早く戻りたいと思った。他人のいるところで王と顔を合わせるのは気まずいのだ。


 特に、彼の命を欲していると打ち明けてしまったディルクの前では。


「それもそうだな。まずは近衛の小隊が君の部屋を捜査……荒らし、君を捕縛しようとした件について話そう。結果的に言えば、あれは君を陥れようとする者が近衛隊長を装って出した偽の命令だった。ただ、君が捜査と捕縛の対象になった理由はある。……君にはクヴェン殿下を暗殺した疑いがかかっている」


「なんですって?」


 ユニカは眉を顰めながら顔を上げた。何か聞き間違いをしたらしい。


「君に、クヴェン殿下暗殺の容疑が」


 淡々と、再び告げるディルクを見つめ返すが、彼は冗談を言っているふうではなかった。少し間を置いてじわじわと胃の辺りが熱くなってくるのを感じた。


「クヴェン殿下を、私が? どうして? 殿下は事故でお亡くなりになったのでしょう? 私が殿下のご薨去を知ったのは二日もあとのことなのよ。それにクヴェン殿下は、王妃様が誰より大切にしていらしたたった一人の御子なのに、どうして私が――!」


 声を荒らげるユニカの唇に、ディルクはすっと人差し指をかざして微笑んだ。


「分かっている。この疑いがでっちあげだということは掴んだ。君の部屋から証拠品を押収したと告発人は言っているが、その証拠もすでに出どころが知れているんだ」


「証拠?」


「公子様からだと言って、テリエナがハーブのブーケを持ってきましたでしょう? あれは公子様からの贈りものではなかったのです。わたくしがあの時によく調べていればこのような事態にはいたりませんでした。申し訳ございません」


 ディルクの向かいに座るエリュゼが悄然と項垂れた。しかしユニカも同時に気まずい思いをする。贈りものに浮かれて、エリュゼに確かめる暇を与えず部屋に飾るよう命じたのはユニカ自身だ。


「ブーケには牛馬を興奮させるハーブが混ぜてあったらしい。クヴェン殿下の落馬事故は、君がそのハーブを殿下の馬に与え故意に引き起こしたもの、という筋書きだが、もう対処したから心配することはない。ただ……」


「そなたは審問会に出席し、ハーブを所有していた経緯を説明せねばならぬ」


 ディルクが言葉を濁した先を、王が続けて言った。しかしユニカはせせら笑い、ほのかに揺れるランプの灯りを挟んで王を睨み付ける。

「私は公の場には出られません。いないのですから」


「そなたはこの王城の中に確かに存在する者として、今日公表した」

「ご自分が囲っている娘とでも?」


「いや。そなたは、我が王家に迎えられた養女。王族の一人であると」


 クヴェン王子暗殺の件を伝えられた時以上に、ユニカの頭の中は空回りした。目を丸くするだけのユニカに構わず、王は続ける。


「クレスツェンツが、死を前にそなたを養女にと望んだのだ。余とプラネルト女伯爵がそれを承認し、籍の書き換えは済んでおる。分かっていようがそなたに王位の継承権は認められぬ。すでに王太子が決まっているゆえ、近いうちにに王家からも出ることになろう。身元はエルツェ公が引き受けてくれることに決まった」


 シヴィロ王家は、近隣諸国に類を見ないほど『王家』の規模を小さく保っている。理由は単純、王家の維持には金がかかるからだった。


 王子や王女が複数いても、王位継承者が決定したあとは、ほかの王の子達は成人すると同時に『王族』の身分を取り上げられ、貴族の養子になるか、女子であれば他国へ嫁ぐか、あるいは僧侶として教会へ入ることになっていた。そして王家と他家や宗教勢力、外交のための架け橋となるのだ。


 そして今は世継ぎとして迎えられたディルクがいる。王室典範に則れば、ユニカは王家を出ていなければならない。今日の審問会では驚きうろたえるばかりだった貴族達も、次はそれを指摘してくるだろう。


 とはいえ、審問会の間くらいはクレスツェンツが用意した『王族』の身分でユニカを庇える。その後のことも、王とディルクは決めてあった。


「どういうことですか? 王妃様が、私を養女に? 籍の書き換えは済んでいるって、それでは、私は……」


 言葉が途切れた。ユニカのそんな様子を見ているディルクたちには、なぜ彼女がこれほどうろたえているのか正しく推察することは出来ないだろう。


 ユニカが打ちひしがれる理由を、彼らは思いつくはずもない。


「王妃様は、ユニカ様に施療院の事業を引き継いでいただきたいとお考えでした。それゆえ、正式にご自分の娘としてお迎えになるとお決めになったのです。ユニカ様が施療院にとってなくてはならない存在になっていれば、ユニカ様が王族のご身分をお持ちのまま施療院を導いてゆくことも出来るのではと……今は、それだけの時間の猶予はなくなってしまいましたが……」


「無理だわ、そんなの……」


 エリュゼの熱っぽい訴えにも、ユニカは声が震えるのを抑えて弱々しく答えるのが精一杯だ。


 ばかげている。辺境の村で生まれ育った、それも多くの民を殺した娘が王族だなんて。


 施療院のことにしてもそうだ。いかに敬愛していたクレスツェンツの思惑とはいえ、目の前に彼女がいれば泣いて断りたい。


 ユニカはクレスツェンツの存命中、一度も施療院には近づかなかった。そこに集まる病人が怖いのだ。


 ユニカが癒しの血を持つ『天槍の娘』であると知られたら、その血を得るため彼らは〝また〟ユニカを取り囲むのではないか。ユニカや、ユニカの周囲の人を傷つけて血を奪おうとするのではないか。


 青ざめるユニカを見て、エリュゼは何も言えなくなったようだった。


「クレスツェンツ様やプラネルト女伯爵の気持ちは、悪いが今は置いておこう。まずは目の前にある問題を片付けなくては。いや、片付けるだけじゃない。これを機に君を排除しようとする者達の力を一気に殺いでおこうと思う」


「……何をなさるつもりなの?」


 好戦的なディルクの台詞に、表へ出たくないという思いが払拭できないユニカはますます顔を顰める。気分が悪い。目眩がしてきた。


「君を正当な存在だと知らしめるために、君への攻撃を不当なものだと主張する。幸いにも相手は法にそぐわない行為に手を染めている。それを糸口にすれば、この企てに加担した者は逆臣として処分できる」


「誰が中心人物であったか、殿下はもうご存じなのですね。ですが、あまりことを荒立てては廷臣の方々の反感も大きくなるのでは……」


「プラネルト女伯爵も、私が外つ国からやって来た王太子だと舐めているくちか? 心配してもらわなくても結構。私がまだまだこの国の事情に疎いことは自覚している。どこまで追求し誰を処分するかはきちんと陛下に相談したから、うまく収めてみせるよ」


 最後の言葉を、ディルクは蒼白になって黙っていたユニカに向けて言った。


「次の審問会は三日後。君はただハーブについてこう答えるだけで良い。『あれはウゼロ大公家の嫡子エイルリヒが贈ってきたものだ』と」


「でも、違っていたのでしょう? 確かめられたら……」


「エイルリヒは、『僕が贈りました』と言ってくれるさ」


 ユニカはもちろん、詳しい事情を聞かされていないエリュゼも一緒に、ただ怪訝そうに眉根を寄せた。


 王はすべてをディルクに任せているようで、何も言わない。



 

     * * *



 

 王妃様が、私を養女に。


 そんなことを考えていたなんて一言も話してくれなかった。彼女はいつでもユニカのことを『アヒムの可愛い娘』と呼んでいた。なのに、ユニカは『アヒムの娘』ではなくなってしまっている。


 クレスツェンツがいない今、養父の遺した手紙と日記、そして正式な手続きの上で養父と親子として結ばれているという事実が、ユニカにも家族がいたということが、心の支えだったのに。


 施療院のことだって。


 一緒に視察に行こうと誘われたことは何度もあった。けれど頑なに拒否するユニカを、クレスツェンツは無理に連れて行こうとはしなかった。なのにどうしてそんな言葉をエリュゼに遺していったのだろう。


 クレスツェンツに代わって施療院事業の指導者になる? あり得ない話だ。


 ユニカは辺境の村で生まれ、その故郷とともに多くの命を滅ぼし、ただ復讐の時だけを待っている生ける屍だ。生きようとする人々を支えることなんて出来ようはずがないのだ。


 結い上げられた髪が乱れないように気をつけながらそっと化粧台に突っ伏した。目許ににじんでいた涙が深い紺色のドレスの袖に吸い取られていく。


 次の涙が出てこないようにぎゅっと力を込めて目を閉じ、自分に問うてみる。


 私は何が欲しい? ――治世がディルクに引き継がれたあとでいい、王の命が欲しい。


 それが手に入るのは、あと十年は先のことだ。ならばその間、どうするのか。


(何にも動じることなく、待つのだと決めたはずよ)


 以前に比べてユニカの周りが騒がしくなっても、それは変わらない。


 心の中で呪文のように問いと回答を繰り返しているうちに、部屋の扉を叩く音が聞こえた。返事はしなかったが誰か入ってくる。ユニカは今一度目許をぬぐって身体を起こした。


 ここはドンジョンの一画で、東の宮に借りていた部屋でも、西の宮の自分の部屋でもない。


 用意されていたドレスに着替えたユニカは、侍女たちを追い出し一人になっていた。そこへやって来たのはエリュゼを伴ったディルクだった。


「ティアラを着けていないじゃないか」


 ディルクは箱に収められたまま鏡の前に置かれているティアラを見て首を傾げた。金の土台に、薔薇のカットを施した大粒のサファイアが燦然と輝く、あのティアラだ。


「……こんなに派手なものでなくても」


「だめだよ。今の君はまがりなりにも『王家の娘』だ。正装時には〝青金〟を身につけなくてはいけない。プラネルト女伯爵、着けてやってくれ」


「はい」


 濃緑のサッシュを着けたエリュゼは鏡の前にあったティアラを取り上げると、ユニカの頭に作られていたシニョンに添えてピンを挿していく。いつもユニカの髪を手入れしていただけあって手慣れたものだ。


 深い青は王家の色。石で現すならばサファイア。


 ウゼロ公国で産出される良質な金、特にウゼロ・ゴルトと呼ばれる黄金とサファイアの組み合わせは、王家にしか許されない宝飾品である。


 その青金のティアラが自分の髪に載っている。自分が王族だというのは冗談ではないらしいなと、ユニカは嘆息した。


 ユニカが着ているドレスにも仕掛けがあった。これはクレスツェンツのドレスである。紺地に、胸元には金糸と銀糸で薔薇が刺繍してあり、腰回りから裾に向かって星が降り注ぐように無数の真珠が散りばめられている。


 クレスツェンツが王家に輿入れした際、婚礼の儀式のあとで初めて公の場へ現れた時に着ていたドレスなので、貴族達の間での認知度も高いとか。それを形見としてユニカが着ている、そういう演出だ。


「似合うよ。綺麗だ」


 鏡の中では王太子が目を細めて笑っていた。彼がドレスの裾と同じほど長いヴェールに触ろうとしていたので、それを拒否するためにもユニカは勢いよく振り返った。


 触れさせてもらえなかったことを残念そうにしながらも、ディルクは最後の仕上げとなる小道具が収まった箱を化粧台の上に置く。


「今度はなんです?」


「もう一つ、王家の証だ」


 箱を開けると、盾の形をしたサファイアに、金で有翼獅子紋が象嵌された指輪が入っていた。ディルクの左手にあるのと同じものだが、箱の中にある指輪は少し古い。


「これは王妃様にお借りしようと思う。手を出して」


 ユニカが手を差し出さないので、ディルクはドレスを握りしめていた彼女の手を取り上げた。透けるような薄絹の手套に包まれた左手の中指に、もったいぶるようにゆっくりと指輪を差し込んでいく。


「少しゆるいか?」


 指輪が収まった左手を見つめながら、ユニカは小さく首を振った。


「王妃様の遺してくださった盾が必ず君を守る。私も、こんなに下らない茶番劇を開いて見せた者達を許さない。怖がらずに堂々としておいで」


 ユニカが震えそうになっているのを見抜いた囁きが悔しかった。けれど、力強く優しい声は、間違いなくユニカが今欲しかったものだ。


 彼がユニカの手を放すと、今度はエリュゼがユニカの前に跪いて、両手をそっと包み込んでくる。


 彼女は何も言わなかった。うつむくユニカの顔を静かに見上げていただけで。きゅっと手に力を込めたかと思うと、重ねた二人の手に静かに額を寄せて――ユニカから離れた。


 立ち向かう、なんていう表現は大袈裟かも知れない。しかし貴族達と相対しなければ、ユニカは欲しいものを手に入れられないようだ。


 二人に手を握られて、ユニカはやっとこの部屋を出て行く決心がついた。


 ――この世界にいるのは、ユニカの敵ばかりではない。多分、ディルクが言うとおりだ。


「議場で会おう」


 ディルクに頷き返したユニカは彼らの背中を見送り、遅れて静かに立ち上がった。


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