神と赤子
ようやく話が動き出します。
しばらくして城の外にある門が見えてきた。ふと城の状態を確認するため振り返った。そこには城らしきものがあったとしか分からないガレキの山が佇んでいた。柱の残骸、大きな石畳の破片等々が山のように折り重なっている。
「ガキのお遊びにしては規模がでかいな。」
ふと俺はそう言葉を出した時、がらがらと目の前のガレキから女の魔族が出てきた。女の魔族の顔は埃まみれだったが、他人から見れば一瞬息を呑むような妖艶で綺麗な女性だろう。しかし俺は全く興味が持てなかった。人間なら直ぐ魅了されかねないが神の俺にはなんの感情も生まれない。女は赤子らしきものを抱えていた。が、俺には関係ない。無視し帰ろう。
「そこの御仁、待ってください。この子を一緒に連れて行って!!この子は魔王さまと私の子供です!」
「・・・」
俺は辺りを見回した。が、当然俺以外誰もいない。
「どうか!どうか!この子を連れてお逃げください!!」
「!!!」
俺はこの世界に来て初めて驚愕した。いや、神としてこれまで存在した中でが正しいだろう。この女は俺が見えている。誰にも悟られず、誰の目にも映らず立ち去ろうとした俺を見つけあろうことか声を掛けてきた。
「・・・なのでどうか、どうか、この子だけでも連れてここから逃げてください!」
「いや俺は・・ッそれよりなぜ俺が見える。」
「あの人が心配で隠れて戦いを見ていましたが、あそこまで一方的に敗れるとは思いもよらなかったのです!あの少年は危険です!!・・・私も直ぐ殺されるでしょう。ですが!この子だけはどうか連れて逃げてください!!」
俺の質問に構わず話しかけ子供を俺の両腕へ預ける女。ここから逃げろとこの女は俺に向かって言う。直ぐ気付いたが俺が神であることを女は分かっていなかった。まぁ遠からずここから去るのだが、この子供など俺には関係ない。女に返そうとしたが、
「はやくその子を___」
女は何か言おうとしたが、その続き(・・)はもう聞けない。白銀の鎧を纏った勇者がバスターソードで女の首と胴体を分離させたのだ。
「へっ!こいつ何もないところに話しかけてやんの。もう狂ったか?」
そう言うと勇者は剣の先にある女の顔を見て「うわっ、もったいない事したっ!」とちょっぴり残念そうである。
勇者の反応を見ても分かるように俺が見えていない。子供を守ろうとする母性本能か、あるいはただの奇跡か分からない。しかし、女は俺に子供を持たせた。そして俺が触れているおかげで子供は俺と同様勇者には見えていない。
「まぁいいや、何処かにもっといい人間の女がいるだろう。それに魔族なんぞ家畜以下だし、城壊すのももう飽きたからいいや。」
そう言うと勇者の体が青白く光りだし、突然空中に浮き猛スピードで何処かに飛んでいった。
俺は仕方なく子供を連れて祀られている場所へ帰ることにした。
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この世界『クライシス』は小さな島を中心に、大きな3つの大陸が花びらの形のように島を中心に構成され出来ている。3つの大陸は海で隔てられ、その周りの海には大小様々な島が点在している。中心の島から見て東南に位置する大陸は、大きな森、豊かな自然に囲まれ、ヒューマンや亜人が多く住む『リグレイ大陸』。この大陸の人々は自然との共存を主とし、様々な農業、林業が盛んな大陸である。西南には大陸の大半を暗闇に覆われ様々な魔術、魔法に特化した住民が住む『リュート大陸』。この大陸には魔素と呼ばれる黒い雲が存在し空を覆い光があまり入らない。その為、肌や髪は白く一見妖艶な容姿の生物が多い。その容姿から大陸の住民を『魔族』と呼ぶものも多い。魔素は魔術や魔法を駆使する為に使用する事が出来る。所謂車で云うガソリンのようなものだ。最後に北にあり荒野の大地が大半を占め魔素も少ない『フューリ大陸』。俺はフューリ大陸の『ガルガンダ』というころに祀られている。ガルガンダはフューリ大陸の一番端の荒野に位置し、周りには木々や川、山が少ない。そんな荒野の端に小さな林があり、そこに日本の長屋のような形に建てられた社がいつも俺が住んでいる家だ。
「俺、子供育てたことないんだが・・・」
ふと俺は魔族の女性に渡された赤ん坊を抱え呟いた。そのままガレキの中に残し他のものに拾わせたほうがこの赤ん坊の幸せだったかもしれない。
「まぁ、仕方がない。少し育てて後は人間に任せるか。」
修羅はこの世界に多く干渉しないと決めていた。あまり干渉が大きいとその世界と繋がってしまい、その世界に影響を出してしまう可能性があるからである。修羅は力が戻ったとき今度は自分の力で新たな世界を作ろうと考えており、この世界と繋がったままではお互いにどんな影響が出るか分からない。この世界の最高神ミスラは「気にしなくていいよ~」と軽く流すが、今の修羅は他の『もの』に迷惑をかけたくなかった。・・・この考えも今の体に成った為である。
「フム、しかし困った。この赤子を育て他に任せる時期まで干渉しても影響はあまり出ないと思うが・・」
『おぎゃ!おぎゃ!』という赤ん坊の鳴き声で修羅の言葉は遮られた。
「ん?赤子よどうした?」
修羅は赤ん坊に話しかける。普通なら「何してんだ?」「おしめか?」「お乳か?」「それとも寂しいか?」などと話しかけるが、
「フム、わかった。」
修羅はそう答えると何もない空中から哺乳瓶を出し、赤ん坊に食事を与えだした。
「んぐ、んぐ、んぐ」
「ム、そうかそうか。それはよかった。」
修羅は赤ん坊が伝えようとした事が分かる。赤ん坊は自分がしてもらいたいことを強く思い声を出す為、その思いを多少読み取ることが出来る。その為、はたから見ればちょっと危ない人に見える。(但し、赤ん坊や小動物など思考の簡単な存在にしか出来ない。)
「・・・しかし、どうしたものか。必要なものは俺の『空間』から出せばいいが、どんな事をしていけばいいやら・・・」
修羅は一通り考えを巡らせ一つの結論を出した。
「フム、多少の事は一人で出来、生きていける程度まで育てるか。」
修羅は一人でも飢えない知識と技術を教えていこうと決意する。
「あぅあぅ、あう。」
と赤ん坊が修羅の腕に哺乳瓶を押し付けた。
「ん?なんだ俺にくれるのか?大丈夫だ食べなくても俺は死なないし、問題ない。」
修羅達『神』は食べる行為を行わなくても問題ない。あえて食べる事を趣味としている神もいるが、修羅は食べないほうだった。
「うぁ!あぅ!」
赤ん坊は修羅の腕の哺乳瓶をさらに強く押し付けてきた。
「ム、分かった、分かった。そう睨むな、俺はこっちを食べる。」
そう言うと修羅はまた何もない空中から赤い果実を取り出しかじって見せた。
「あっあぅ!」
赤ん坊は目を輝かせながら修羅に小さな手でしがみついて来た。
「ん?これか?俺の世界の『りんご』と言う果物だ。そして別の空間からものを出しただけだ。・・・これは俺にしか出せんぞ。こういう空間は神なら誰でも持っている。」
赤ん坊は目を輝かせたまま修羅の腕を掴んで離そうとしない。
「好きなだけ掴んで構わない。一人で色々出来るようになるまでは面倒を見よう。」
「うだぁ!」
赤ん坊は強い眼差しで修羅を見つめていた。
(あまり懐かれないようにしないとな。)
少し赤ん坊から距離を置こうと思った修羅だった。
ありがとうございました。