プロローグ2
プロローグの2話目です。
この世界では『神』と云うものをあまり信じられていない。『困った時の神頼み』と言う言葉はあるが、神そのものを信仰するものは希だ。そして、一人の科学者が『神』についてこう定義する。『思念体で出来たプラズマ』・・・意思を持ったエネルギー論は世間を大いに湧かせた・・悪い意味で。その科学者の研究成果は笑いものにされ、罵倒され、ついには研究所から煙たがられ追い出されてしまった。ごく一部の研究者が彼は正しいと訴え続けたが大多数を占めていた結論には勝てずその一部もいつの間にかいなくなってしまった。そして世間で笑いものにされた科学者はひっそりと『神』の研究を続け一つのエネルギーにたどり着く。
「や、やったぞ!このエネルギーには『意思』がある!!これで世界の奴らを見返せる!!」
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「異論のあるものはいないな!!これより神々と共にこの世界を取り戻すぞ!!とつげ・・」
「おっと、まずは我らの主の力を見てからでもいいじゃろ?」
進撃を指示しようとした軍曹の言葉を宙に浮く茶碗が制した。
「・・・はい、正直『神』という存在すらまだ信じられてませんから。できれば見せていただきたい。」
「その画面とやらをよく見ておれ。主の強さを。・・・そして、こ奴らは雑魚、いわば相手の力量を計る物差しじゃ。」
「こ、こいつらが雑魚・・・」
「そうじゃ。」
「・・・考えたくありませんが、もっと強い本陣が後ろに待ち構えていると」
「そういうことになるの。」
画面には戦場を駆ける赤鎧の異形が敵を破壊している。拳を振れば大気を切り裂き敵を二分し、蹴りを放てば大地は割れ敵を破壊し残骸をその中へ引きずり込む。今起きている光景は常識を大きく外れている。100体いた敵が数分後には壊滅。そしてものの数十分で敵は全滅した。
この光景は司令塔を介し全兵士が持っている端末に映像、音声で送られ『神』という存在を目の当たりにした。これを観て『神』を信じない『人』は誰一人いない。
「す、素晴らしい!!この世界の神はここまで凄いものだったのか!!」
彼は蜂型偵察機から送られてきた映像を見て子供のように驚きはしゃぐ。
「おいおい、そんなんで驚くなよ。まだまだ実験続けるんだろ?」
彼の後ろで声がした。
「ああ、続けるとも・・・続けるさ!!これからが本番だ!『神』の力はこんなものではないはずだ!この実験で世界を見返してやる!!」
「そう、そのいきだ。俺もサポートするぜ。」
「ああ、頼む!」
『それ』は彼、チャールズの後ろでククと歪な笑いをし闇の中へ消えていった。
戦場はこの勝利に大いに湧いていた。殆んどの者が信仰すらしていなかった『神』が突然現れ、一方的に負けるはずだった戦をものの数十分でひっくり返したのだ。
「か、神様―!バンザーイバンザーイ!!」
「お、俺神様の信者になります!」
「ず、ずる~い!私も!!」
「・・・戦場では兵士たちが喜びを上げています。」
「くそ、まだ本陣が出てくるんだぞ!『兵士全員に本陣が出てくる。褌締め直せ!』と伝令しろ!」
「ぐ、軍曹。女性兵も多くいるのですよ。」
女性オペレーターが軍曹の方に顔を向け意見した。
「そんなことはどうでもいい!!早く兵士たちに注意を促せ!!」
「っ、そうでした。各兵士たちに伝令!!敵本体が出てくる!野郎ども褌締め直せやー!!」
さっき意見した女性が言い放った。
「お、おいそこまでは言ってないぞ。」
「何か軍曹?」
「・・・いや、いい。」
神信仰が戦場に浸透し始めた時、彼チャールズの研究所から男性を模したアンドロイドがアリの大群の如く溢れ出してきた。
「飛行監視機からの映像です。・・・ここまでの規模は想定していませんでした。」
「一旦後退するか・・」
軍曹が兵に後退をさせるか迷っていると
「ちょ、ちょっと貴方勝手に突撃しないで!!」
一人の指示を出していた女性オペレーターが叫ぶ。
「大丈夫です。僕達は神様方の加護があります。あんな奴倒してそれを証明してみせます!!」
オペレーターの指示を無視し一人の男兵が無謀にも一体のアンドロイドへ向かっていく。
「だめぇー!!」
女オペレーターの声が司令室に響く。そして彼女は目の前を両手で覆いうつむいた。
「・・・お、おい今の見たか?」
「あ、ああ見た。す、すげぇ!」
周りの反応が兵士の死ではないことに気付き、彼女は恐る恐る覆っていた手をどけ映像に目をやる。
「う、嘘!」
目の前に映りだされた光景驚くべきものだった。
「あの人何体敵を倒してるの・・」
目の前に映りだされたのは先程まで一人では手も足も出せなかった相手を素手で屠る兵士の姿だった。
その姿に感化された兵士たちが敵へ向かって行く。戦車の砲撃で100以上の敵が殲滅、上空の戦闘機の弾丸が敵の上に降り注ぎ穴だらけにする。数十もの敵を銃で破壊し、剣や素手で次々と敵をガラクタの塊へ変貌させていく兵士。これは、使用している武器と身体の性能や強度が神の加護により大幅に上がったためである。兵士たちは、これまでの悲しみ、恨み、様々な感情を乗せ敵を倒していく。・・・今の彼らには敵はない。全兵士が『一騎当千の猛者』になっているのである。
「いや~凄いね。『神の加護』ってこんなに性能を底上げ出来るんだ。」
「おいおい、そんなに呑気でいいのか?こっちは負けているんだぞ。」
『それ』はやれやれと言った感じでチャールズに話しかけた。
「いやいや、そこが狙いだって。あれほどの戦力差ひっくり返してくれる『神の加護』。この映像だけでも論文が書けるよ!」
「君は根っからの科学者だね~。」
「ああそうだよ。僕はこのためだけに世界の三分の二を壊したんだよ?この映像が記録で出来たんだ。満足してるよ!」
「やれやれ、この状況を作るために何億、いやどれほどの犠牲を出したと思っているんだい?」
「関係ないね。逆にこの実験に携われた事を誇りに思うべきだね。・・・それに君が提案したことだよ。今更何言ってんの?」
「いやいや、今の状況をどう思っているのか知りたくてね。」
軍曹は今の状況を「おかしい」と感じている。あれだけの戦力差をひっくり返されたのに相手はまだ抵抗しようとしている。いや、攻撃させていると言ってもいいだろう。最初から「何かおかしいと」思う節があったがここにきてようやくそれ(・・)に気付いた。
「おい、医療班!死者数は何人だった?」
「は、はい。238名です。戦死者の家族にはそれ相応の対応を・・」
「もういい。」
「は、はい!」
「やはり」と軍曹は顎を右手の親指と人差し指で撫で、空中に漂う茶碗に問いただした。
「神よ、この違和感には気付いていましたか?」
「おぉ、ようやく気付いたか。」
「・・・では。」
「ああ、お主が思っていることでまず間違いないじゃろう。」
「では何故止めないのです!」
「止めたいが、相手の出方がまだ分からん。そのまま退いた場合、いい『的』になってしまう。・・・少しでも相手を知って出直すのが無難じゃ。」
「ぐ、軍曹。何の話でしょう?これだけの功績を上げているのに・・」
オペレーターの女性はまだこの状況が分からないらしい。
「まだ分からんのか女よ!・・・まぁこの状況を見て分かる者は多くいないと思うが。儂から話そうか?」
「いえ、私から。・・・いいかまず敵のアンドロイドの性能を考えてみろ!」
「せ、性能ですか。・・・鼠と人ぐらいでしょうか?」
「例えは・・まあいい。我々が集団でやっと1体倒せるにも関わらず犠牲者が少なすぎる!」
「そ、そういえば!!」
「それに『神の加護』があったとしてもこれほど一方的な戦いになるとは考えられん!・・・敵も何か策を隠していることは明白だ!」
「す、すぐに全兵に連絡を!」
「まだだ!今伝えれば混乱が起き相手にも気付かれ被害が多くなる。・・・そして気づいている者は既に動いておる。今はこの先の状況を考え一番いい行動を考えるのを優先しろ!!」
「フフフ、いいねぇ~そういう賢い人もいたんだ。でももう遅いよ~君たちは袋の鼠だよ。」
司令塔の中に知らない男の声が響いた。
ありがとうございました。