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無能力者の魔法名

新人なのでお手柔らかに(笑)

 非科学。それは、科学であって科学ではない。矛盾しているようだが、確かにそうなのだ。非科学と言われて連想するのが、魔法や超能力だ。魔法も科学で支配できる時代だ。魔法は、「じん」という魔法を展開させる際に必要な術式をその対象の物体に描かないといけない。それを人間が描くとほとんど場合は不発に終わる。運が悪ければ、自爆することもある。それを阻止するために開発されたのが、LPというコンピューターがレーザーを使いあらゆる陣をその対象の物に刻むという装置だ。これがあるからこそ、人間は魔法というものを使えるようになるのだ。逆に言うと、これがなければ魔法は使えなかったということになる。科学がなければ、魔法が使えない。これが、今の非科学の現状である。超能力も同じような事だ。今の非科学は科学に支配されている。                                   

 東京魔法能力警備高校。通称、「魔能校まのうこう」。ここは、東京の臨海部に浮かぶ広い土地に建てられた学校である。この学校は名の通り、魔法や超能力を育成し、それをガードマンやSPの仕事に役立てるための学校である。そして、実験校でもある。そこに去年入学した俺なのだが・・・。                                           

 (能力検査スキルスキャンめんどくせぇー!)                                           

 能力検査スキルスキャンは、読んで字のごとく能力や魔法のレベルを検査するのだ。それによって組み分けが決定される。俺達二年生(今年からだが)は、入学式の前日にこの検査をしなければならない。俺は今、その能力検査が行われる魔能校の体育館へと向かっている。しかし、とても足取りが重い。なぜなら俺は、ただの一般人だからだ。魔法には、二つの種類がある。一つは、自分自身の魔法。自分が生まれた時から体のどこかに刻まれている陣を使い展開させる魔法、特性魔法スキルマジック。ちなみに、陣がないのに能力を発揮できるモノを超能力シックスセンスという。もう一つはLPで何かに刻んだ陣を展開する魔法、人工魔法ヒューマンマジック。俺は、人工魔法ヒューマンマジックしか使えない。だから、一般人だ。現代の人々は、魔法の一つ二つぐらいは展開出来る。なのに俺は、この魔能校に入学した。普通、人工魔法程度の魔法使い《マジシャン》がこの学校に入学出来るわけがないのだが・・・。                                                                                        (我ながら、よくこの狂った学校に入学したもんだ・・・)                                                                    

 こんな怪物どもが集まる学校に俺が入学した訳は、とても単純だ。俺がまだ中学一年生だった頃、俺はある人に助けられた。その人は、俺を連続殺人犯か救い出した。犯人はすぐさま逮捕されたが、その人もただじゃ済まなかった。俺を庇い、背中をナイフで刺されたのだ。そしてあの人は、救急車に運ばれる最中俺にこう言った。「君は、自分を責めてるかい?」と。俺はもちろん肯定した。俺を庇って傷ついたのだ。責めないわけがない。するとその人は、「だったらやめてくれ。私は好きで君を助けたんだ。私自身に非があるしな。それでもまだ、自分を責めるかい?」と言った。また、俺は肯定する。「だったら、一つだけお願いを聞いてくれるかい?魔能校に入ってくれ。たぶん、君は強くなるよ。だって、そういう目をしてるんだから」 俺は、このお願いを守っているだけだ。そして、この学校にいたはずのあの人に改めてお礼を言う。このために俺は、魔能校に入学したのだ。単純な理由だが、何故か普通に合格してしまった。                                                                               

(面接で言った目標が良かったのかな?)                                                                                                                                     

 と、人生を振り返ってるうちに魔能校の体育館に着いた。普通の体育館より二倍程度大きい広さだ。そこに二年生全員が集まる。結構、早く着いてしまったのであまり人が少ない。あと一時間ちょっとある。とここで、体育館から一人の少女が出てきた。その子の第一印象は、アニメに出てきそうな美少女、だ。あちらの方もちらっとこっちの方を見てきたのだが、こっちが見つめ返すと顔を赤らめてどっかに行ってしまった。なんだったんだ?アイツ。                                                        まぁいいや。とりあえず俺は体育館の中に入ることにした。中に入っても暇なものは暇だが。すると、そこへ・・・。                                                              

 「おーい。カズ!」                                                                                                                                

 「…なんだよ?お兄ちゃん」                                                                                                                  

 「…その言い方やめろって。この年で、お兄ちゃんはお前も俺もイタイんだからさ」                                          

 このいかにも保健室の先生っぽい人は、義理の兄だ。もっと詳しく言うと、俺の姉と結婚した生田斗真さんだ。たまたま俺が入学した時期に、たまたま赴任してきたらしい。絶対にブラコンの姉に頼まれたと思うが。                                                                                                               「で、どうしたんだよ?」                                                                                               

 「どうしたって…。お前、早く能力検査スキルスキャン終わらせたほうがいいだろ?だから、みんなが来る前にしたほうがいいだろうと思ってだなぁ…」                                                                                                                                         

 早く終わらせたほうがいい。それは、俺がたいした特殊魔法スキルマジック持っていないからだと思う。俺は、ある程度の人工魔法ヒューマンマジックしか使えない。さっきも言った通り、この学校は普通の魔法使いは通えない。それぐらい、危険な学校であることがご存知いただけるだろうか?しかも、ここにいる皆はこの学校にいることを誇りに思っている。当たり前だ。努力して磨き上げてきた魔法をこの学校に受かる事で証明されたんだ。それに、このチカラで誰かを助けられる仕事に就けるのだ。誇らない奴はいないと思うね。それなのに、無能力者の俺がのこのことこの学校に入学してきて、根に持たない奴がいる訳がないだろう。約束一つで入学する俺って一体…。という訳で、俺は斗真兄さんの言葉に甘える事にした。                                                                                                                                                       

「いつもいつもすまんなぁ…」                                                                                                                                         

「いつもじゃないけどな。さて、じゃあ移動するぞ?」                                                                                                                

 俺は、斗真お兄ちゃんと一緒に検査場に向かった。検査場と言っても、カーテンに仕切られてる所だ。内科検診の時みたいな感じでな。そこで能力の種類に分かれて検査をする、そんなところだ。ちなみに俺は、能力未開発スキルエラーという、落ちこぼれの検査場に連れて行かれる。カーテンを潜り、斗真兄さんが席に着く。                                                

 「よし、始めるぞ。まずは、視力検査からだ」                                                                                                                                                         

 もちろん、10m先の1cmの文字など見える訳がない。                                                                                                                                    ※※                                                                          

 「そういえば、和夜。お前、友逹いんのか?」                                                                                            

 斗真兄さんが、検査の結果を書いている途中に話しかけて来る。それにしても、デリカシーのない言葉を発するな。色々な意味で。                                                                                                                                      

 「俺の過去を知ってて言ってんのか?」                                                                                                                                       

 「まぁな。火夜かよから聞いてはいる」                                                                                                                                       

 火夜とは、こいつの嫁、つまり俺の実の姉だ。あの野郎……。勝手にペラペラと喋りやがって。                                                                                                                 「ああ。一応、火夜を責めないでくれ。俺から聞いたんだ」                                                                                                                    

 「何で、聞いたんだよ?」                                                                                                              

 「そりゃ、義理の弟が一年の宿泊研修のときに、どこに居ても一人だったら心配で誰かに聞くだろうよ」                                                                                                                                                              

 「…終わったことじゃないか」                                                                                                                                         

 泣きそうだ。                                                                                                                                         

 「それで、友達はできたのかね?え?」                                                                                                                                       

 「ちっ。俺の事分かるなら、知ってるだろ。俺は、味方を作りたくないんだ。だから、友達も作らないし、家族とも関わらない。最近、家族で喋ったのはアンタぐらいだ」                                                                                     

 「それは、いくらなんでもヒドくないか?家族にも関わらないなんて」                                                                                                                       

 俺の家は、代々最凶の剣術、「夜月桜流ヤズキ・サクラリュウ」の当主を長男がやることになっている。俺は長男だが過去に色々あって心の病になり、家族の下した決断が、「あの状態では我らの剣術は、弱くなってしまう。次期当主は、次男の逸夜いつやにする」とね。なんせ、俺はあの頃引き籠ってたしな。まぁ、そんなこともあって家族とも少し距離を置くことしているのだ。一部を除いてな。                                                                   

 「もういいだろ?こんな年頃なんだよ。ほっといてくれ。」                                                                                               

 「これが、反抗期か…。子供出来たら大変そうだなぁ」                                                                            

 

 「作ること前提かよ」                                                                                                  

 姉貴は、この男のどこに惚れたのかたまに分からなくなる。姉貴は、自分より強い奴じゃないと相手にしない人だ。もちろん、俺達弟を除いてな。そんな姉貴が惚れるのなら、コイツは絶対に強いはずだ。なのに、闘気や殺気、魔力の量などが全く感じられない。いや、これは逆なのか。隠している、と行った方がいいかもしれない。コイツはやはり、強そうだ。                                                                                           


 「で、俺の能力の結果は?」                                                   


 「お前、何で自分の能力使わなかったんだ?」                                                        

                                                   

 俺の質問に答えた斗真兄さんの第一声がこれだった。                                                                              

 

 「…なんの話だお?」                                                                                    


 「すっげー表に出てるぞ」                                                                                                

 語尾に「だお」付けっちまったじゃねーか。                                                                             


 「お前、一年の時の能力検査スキルスキャンlevel【ノヴァ】じゃないか。昨年の一学年でお前だけだぞ?」                                                                                                    


 俺達の学校は、能力の段階をlevelに分ける。その内容は、【ヒューマン】から【ノヴァ】までの五段階。俺は一年の時、ある能力を使って最高段階の【ノヴァ】まで辿り着いた。まぁ、その能力が身に付いたのは入学式の前日くらいだったからな。面接で見せられなくて残念だとあの時は思ったが、今は見せなくてよかったと思っている。あんな能力、「友人一人救えない男」が使う能力じゃない。あんな能力なんていらなかった。あの時の俺は、心のどこかで舞い上がってたんだ。この能力があれば、なんでも出来るってな。でも、友人一人助けられなかった。この能力はただの幻想、これが現実だ。こんな幻想を信じていた俺に言い聞かせてやりたいね。「お前は、なんにも出来ない」ってな。                                                                                                                                   

 「まぁ、今年もこのお前と同じ喰くらいすごい奴が来てるがな」                                                                                                       

 「へぇ」                                                                                           

 

 斗真兄さんは、話をずらそうとする。これは、たまたまなのか故意的にやったのか分からないが、感謝しておこう。それにしても、俺と同じ【ノヴァ】だと?確か、新入生の能力検査で【ノヴァ】を取ったのは歴代で、俺一人と聞いたんだが。ソッコーで二人目が出来やがったな。                                                           

 「直接見たの?」                                                                                      


 「まぁね。さっきまでいたようだったけど?」                                                                                                              

 「あっ」                                                                                                      

 あれか。体育館の前で、俺と目が合って顔を伏せていなくなった奴。ちょっと、イメージと違ったがあれで間違いないだろう。あの子がlevel【ノヴァ】か。あんな美人な子がこの学校の五本の指に入るなんて、世の中は見かけによらないよな。しかし、俺には関係ない。あんな子が【ノヴァ】だから何だ?ただの驚愕で終わりだ。それ以上のことは何も感じない。まぁ、少し興味が湧いたけどな。                                                                                                        

 「見たのか?」                                                                                             


 「まぁな。意外に可愛かったな」                                                                                             

 「お前、あんな子がタイプなのか?火夜に報告しないとな」                                                                                                  

 「してみろ。お前の、パソコンにあるフォルダのエロ画像姉貴にバラすからな」                                                           


 「ウイっす」                                                                                        


 と、気づいたらもう生徒たちが体育館に集まる十時前を指していた。そろそろ、ここを出ないと早く検査をやった意味がない。                                                                                     


 「で、結果はなんだよ。早く行きたいんだけど」                                                                                

 

 「…落ち着いて聞けよ」                                                                                    


 「なんだよ。早く言えって」                                                                                     

 

 「最低段階の、【ヒューマン】。xx組で、担任がこの俺だ」                                                                                                     

 「……」                                                                                                   


 俺は、運命に嫌われているようだ。                                                                                                                                

 ※※                                                                       

 「にゃー」                                                                                           

 「喋ろよ」                                                                                           

 「にゃー?」                                                                                 


  俺は、黒猫に話しかけている。別に俺は、最低クラスのxx組になったから気が狂ったわけではない。断じてない! とりあえず、この猫は本当に人間の言葉を話せるのだ。なんたって、「猫又ケットシー」だからな。                                                                                                 

 「喋ろ」                                                                                      

 「えー」                                                                                            

 「急に喋るな。びっくりするだろ」                                                                         

 「儂にどうしろと!?」                                                                                           

 

 ほら、喋っただろ? さっきも言った通り、コイツは、「猫又ケットシー」だ。猫又とは昔からいる妖怪のうちの一人(一匹)で、猫が年を取ると尻尾が二股に分かれ人を取って食う、という都市伝説みたいなものだ。まぁ、現にここにいるんだが。ようは、化け猫(本人は否定してるが)みたいなものである。俺は、この妖怪と入学式の前日に契約した。契約とは、人の命にも終わりがあるように妖怪にも命の終わりがあるようで、妖怪はそれを阻止するために自分の命と人間の命を同一化し、少しでも生きるための妖怪が使う手段だ。これに人間側のメリットはないと思いきや、契約した妖怪は人間と命を同一化するので、その妖怪の能力が手に入られるのだ。ちなみにこれは、魔法ではないので陣が必要ない。妖怪の能力は様々で、日本では必ず能力名は二文字で最後に、「詠」を付けなければいけない決まりになっているらしい。俺の能力は、「天詠アマヨミ」。一般名、「神々の書を視た者《Olymposbook readman》」。実はこの能力、俺も少ししか理解していない。俺が分かったことはまず、「これは、『怒り』『恐怖』などの『負の感情』によって能力が開放する」ことと、「この能力は一度『死』を味あわないと、本領を発揮できない」。また、「この能力は、能力者自身の反射神経オートエア運動神経ベクトルなどの体の一部の機能が飛躍的に向上する」この三つだけだ。                                                                                                                   

 (この化け猫が、あまの書を読んだってか?ただの猫にしか見えないいんだが…?》                                                                                                                                    

 などと、この化け猫さんの素性を考えていると、当の本人が喋りかけてきた。                                                                                                                                                                                                               

 「しかし、よく耐えてるのぉ、小童。中々いないと思うぞ?ここまで、能力を抑えられる人間は」                                                                                                                                  

 「俺はな、能力を抑えてるんじゃないんだよ。『負の感情』を生み出さないようにしてるんだよ」                                                                                                                 俺は訳あって、この能力を1年くらい押さえつけている。この能力は、誰も守れないし、誰も救えない。自分を守るだけの能力だ。話をもとに戻すが、この能力の抑え方は簡単だ。他人と関わらなければいい。ただそれだけだ。特に、異性。異性との関係は、嫉妬とかストレスとか色々な『負の感情』があるからな。俺は極力、女子と喋らないようにしている。というか、この一年で喋ったのは、さっきいた「白衣のお兄さん」とその他もろもろ。男女合わせて数名ぐらいだ。だからもちろん、クラスでは浮きまくりだろうな。あれ?なんか冷たいものが頬を流れてきた。汗にしては、おかしいな。                                                                                                                                

 「やめてくれ、小童!見てるこっちまで泣けてくる!」                                                                                                                             

 あれ?どうしたんだ化け猫?                                                                                                                                  

 「というか、人通りで喋るのやめてくれよ。さっき、すれ違った主婦が二度見したぞ」                                                                                                                                                        

 「うっさいのう。喋る猫なんて、どこにもいるじゃろぉ」                                                                                                               

 「断じていねーよ」                                                                                                                                      

 何と突っ込んでいると…。                                                                                                                                    

「何独り言喋ってだ?電波チャンよ?ははっはははー!」                                                                                                                         

「悪いけど、金貸してくれないかなぁ?一光年後に返すからさぁ」                                                                                                        

 最近、俺を財布代わりにしようとしている地元のヤンキーだ。というか、一光年って距離だぞ?どんだけ、頭悪いんだよ。                                                                                                                                                  

 「ほら、財布貸してくれよ。電波チャン?」                                                                                                                  

 「……ない」                                                                                                                                   

 「なんだってぇ?」                                                                                                                                       

 「財布持ってねぇんだよ」                                                                                                                             

 「ァぁ?」                                                                                                                                   

 DQN達の顔色が変わる。                                                                                             

 「テメェ、俺たちの財布のくせになめてんじゃねーぞ?」                                                                                               

 何で、不良って「なめてんじゃねーぞ」って言いたがるのかねぇ?                                                                                                                                     

 「よっしゃ、持ち物検査してやるよ。その財布野郎を連れてこい」                                                                                                                 


 リーダー格のヤンキー様が部下二名に指示をする。何が、「よっしゃ」なんだ?あれですか。ホモですか?ヤらないか、とか言いたいんですか?                                                                                         

 

 (さて、殴られてきますか)                                                                                                             


 能力を出さないため殴れれるのだが、その時は他の事を考えるようにしている。そうしないと、『負の感情』が湧いてくるし、マゾに目覚めそうだからな。                                                                                                              


 ※※                                             


 ちくしょう。何で、こうなっちまった?俺はただ、不良に絡まれただけだぞ?なのに何でここに、新入生で二番目にlevel【ノヴァ】のあの子がいるんだよ!?                                                        


 (落ち着け、逢坂和夜。今までの出来事を振り返って見るんだ。)                                                                                       

 

 うん。なんか、ヤンキー共にタコ殴りにされてたらそこにいる可愛い子が、「クソ弱い奴らね」とか言って出てきて、DQN達が、「ァぁ?」みたいな感じでケンカを買って、ソッコーで不良二人組(下っ端)が風の魔法で飛ばされて撃沈しちゃって、リーダー格の男が拳銃で少女を狙ってるの。はい、和夜ちゃんよくできましたぁ。                                                                                  

 (――――ってそんな事考えてる場合じゃねぇ!今、この場で少女一人殺されそうなんだぞ!?いくら強い風の魔法でも、拳銃に叶うはずがねぇ!!)                                                                                                                                 

 いや、大丈夫なはずだ。魔法が使えなくても、相手は素人のはず。狙撃は俺の得意分野だから分かるが、素人は手も震え、緊張で筋肉が硬くなってしまい、ほとんどの場合失敗に終わる。だから、だから。最悪な事態は免れるはずだ。                                                                             


 俺の頭の中と心の中で、あの過去がプレイバックする。走馬灯のように。                                                                              

 ――少女が――屋上から――落ちて――死ぬ光景が。                                                                                                        


 全身に、嫌な汗が流れる。大丈夫だ、と体に言い聞かせても震えが止まらない。俺は、絶対に大丈夫と思っていた。だが、運命は最低だった。                                                                                             

 (アイツ、手が震えてない、だと!?)                                                                           


 手が震えてない。つまり、経験者。人を撃ったことがある。人を傷つけた、あるいは殺した。その証。                                                                                                                        

 (やめろ……)                                                                                                          


 標準は少女の頭。当たると、間違いなく死が待っている。                                                                                                      


 (やめろ)                                                                                                                                          


 少女は、身動が出来ていない。こんな狭いスペースだ。風を使って何かをしようとしてもできないのだろう、後ろに後ずさりしている。                                                                                                                


 (やめろ!)                                                                                                       


 今、引き金が引かれる。                                                                                                                         


 「やめろおぉぉぉぉォォォォォォォぉお!!」                                                                                                                          


 少女を庇うように飛び込んだ俺の、頭、に、発砲、さ、れた、銃弾、が、、突き、刺、さる、の、を、俺は、確かに、確、認、した……。                                                                                                                                  


 ※※                                   


 少女と不良は呆然としていた。二人共、和夜が死ぬとは思わなかったのだろう。うつ伏せの状態で死んでいるであろう、和也の頭から、信じられないほどの血液が溢れ出していた。                                                                    


 少女の名前は、皐月澪さつきりょう。魔能校では新入生で二番目にlevel【ノヴァ】で入学してきた少女だ。彼女が買い物がてらに散歩していると、路地裏で不良三人組が一人の魔能校の生徒をリンチしているのを目撃していた。最初は疑問に思っていたのだが、勝手に足が動いていた。助けられるつもりだった。私は、魔能校で一番トップなのだ。優秀なのだ。しかし、それは勘違いだった。逆に守られてしまった。こう言ってしまえば言い訳なのだが、地形が悪かった。確かに、銃弾は風なのでは防げないだろう。しかし、気流を操り自分、もしくは相手の体を少しでも移動させれば勝機はあった。しかし、この路地裏はとてつもなく狭いのだ。しかも風が入りにくい。最悪の環境だった。本当にただの言い訳なのだが、今更言っても意味ない。死んだのだ。澪を庇って撃たれた少年が。澪が助けようとした人に助けられてしまった。すぐに駆け寄っても息はしてない。脈も動いてない。もう、この世にいないのだ。なんにも出来ない自分が悔しくて、憎くて、澪は泣いた。                                                                                                                  

 「うぁあああああああああぁぁぁぁんん!!」                                                                                


 しかし、運命の歯車は止まらない。拳銃を持った不良のリーダーが標準を今度こそ、澪に向ける。彼は、数名の人間を過去に殺してる。その手に狂いはない。今度こそ、銃弾が澪の頭に突き刺さる刹那、金属音が鳴る。キンッ。その途端、澪にめがけて飛んできた縦断が両断された。二手に分かれた縦断は、澪の両頬のギリギリ当たらないラインを描き通り越す。また、二人は呆然としていた。今度の理由は、死んだはずの和夜が、ムクリと立ち上がり、不良の一人を睨みつけているからだ。しかも、その右手にはナイフがある。あの縦断は、和夜が斬ったのだ。澪の方は、なんだか分からに様子だった。 すると、和夜が澪の方を向いて口を開いた。                                                                                     


 「さっきはアリガトな。助けに入ってくれて。だから次は、こっち助ける番だ」                                                                                                   


 そう言い、和夜は不良の方向へ視線を戻す。不良は、目の前で起こったことが不思議で堪らないと言う顔をしている。                                                                                               


 「気にすんなって。俺はまだ死んじゃいねぇよ。ゾンビでもないし、偽物でもない。だけど、ちょっと強くなってるかもな!」                                                                           


 と言って、和夜は字の如く一瞬で、不良との間合いを詰めた。拳銃は近距離戦には不利である。拳銃で近距離戦出来る者もいなくはないが、数少ないだろう。そして和也は、これまた一瞬で右ストレートを放つ。思いっきり顔面に受けた不良だが、拳銃は離さない。そのまま狙いを定め、発砲する。しかし、和夜はそれを避けた。偶然ではない。ちゃんと視て、避けた。                                                                              


 「おいおい。こんな銃じゃ永遠に当たらねぇぞ? 拳銃は、こうやって撃つもんだ」                                                                              


 和夜はズボンのホルスターから、自分の拳銃を抜く。それを見た澪が止めようとしたが、                                                                    


 「大丈夫。ゴム弾だからな」                                                                                          


 と言って、不良に銃を向ける。不良は、ニヤリとしてから、                                                                


 

 「一応、俺もよけられるぜ?一発程度ならな。避けたら、カマしてやるからな。その脳天と心臓に」                                                                                              


 それを聞いて和夜も不敵に笑いながら、                                                                             


 「だったら、受けてみろよ。今まで、テメェが撃ってきた奴らの痛みの分の弾をな」                                                                                                                 

 そういった瞬間、和夜は発砲した。それは、見事に不良の右肩と頭、膝、腹の部分に命中した。                                                                                             


 「ヴぁおおおお!がはっ!ごほっ!おえェえ!」                                                              


 さっきまで、笑っていた不良の顔が苦痛に悶え苦しむ顔になる。                                                                                                                           


 「大袈裟だな。たかが、脱臼と膝骨折と腹パンとゲンコツを一気に喰らったぐらいの痛みだろ?」                                                                                                                 


 和夜は、拳銃をまだ不良に向けながら呟く。                                                                                               

 

 「死んだ奴の痛みは、もっと痛いぞ」                                                                                                                         

 そしてまた、銃声が鳴り響く。                                                                                                     

 ※※                                                                      

 とりあえず、俺は警察から逃げた。事情聴取とかめんどくさいし、顔も見られてなかったし。あの子もどっかいったみたいだし。逃げてもよかっただろう。くそぉ。久しぶりになってしまったじゃねーか。インベルゼモード。あれは、『死』を体験しないと発動しないからな。一番、なりにくいと思ったのに。話は変わるが、実は、さっきあんなに残酷に不良を懲らしめたのには訳がある。一つ目は、二度と不良達を俺に近づけないため。二つ目は、あの子を俺と関わらせないためだ。俺は、あの子の命の恩人と言ってもいいだろう。彼女、泣いてたしな。だから、これから色々と関わる機会が増えてくる。そうすれば、彼女はきっと、不幸になる。俺は、疫病神だ。何か、必ず嫌なことが起きる。だから俺は、あんなに残酷に懲らしめて彼女の心の俺という説明を、「命の恩人」から「ヒドイ人」に。これなら、彼女も近づくまい。しめしめ。ワシも悪じゃのぉ。                                                                                

 と、気づけばもう午後である。何か、色々あった午前だった。今日は帰って寝る、そう思った刹那。上空から、声をかけられた。                                                                                           


 「見つけたぁぁぁぁあああああ!!」                                                                                                                     

 「え?えええええええええええ!?」                                                                                                                                 

 

 上空からこちらに叫びながら向かってくるのは、正真正銘、心の中の俺の説明を、「命の恩人」から「ヒドイ人」にしたはずの少女だった。                                                                                                                                                  ―to be the continue-                                                                                                                                                                                                                                                                                                    


                                                             

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[一言] 改行が不自然だったりしますが、とても話が面白いです! お互いに頑張りましょう!!
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