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私の最高の弟  作者: アパッチ
1章
8/13

回想2。


 「ママ!!」


僕は涙や鼻水でぐちゃぐちゃになったかっこ悪い顔を見せるのも厭わずに、ママの顔をもっとよく見ようとうずめていた顔をすぐさま上げた。


「ううっ、ぐすっ・・・ママぁ、ひっく・・・なんだよう。ぐすっ・・すごく、すっごくじんばいしたんだがらぁ~~!」


僕は盛大に泣きながら、半ば言葉にならない言葉を、感情をママにぶつけていた。



僕はママの懐で泣き叫んで、その間ママは黙ったまま頭を撫でてくれていた。


そしてしばらくして僕が落ち着いてくると、ママは撫でる手を止めずに僕をいつもの優しい笑顔で見ながら話かけた。


「・・・ありがとう、空朱。そんなにママのこと心配してくれて。ママ嬉しいわ。」


「ママ・・・」


ママはその後もゆっくりとした、いつもより弱々しい声で言葉を続けた。


「空朱・・・これからママの言うことをよく聞いて。」


「・・・嫌。」


僕は本能的にママの言葉を拒否していた。


「空朱・・・お願い。いい子だから・・・」


「・・・・」


それはなんだか、その言葉を聞いてしまったら、ママとの最後の別れになるような・・・そんな気がしてしまっていた。


でも・・・


「・・・・うん。」


そんなのは僕の単なるわがままであることも、子供心ながらに分かっていた。


だから僕は、ママの言葉をちゃんと聞こうと思った。


「ありがとう、空朱。」


また頭を撫でてくれるママ。


どんなに悲しくても、幸せになれる魔法の手。


僕はやっぱりママが大好きだった。


「ママはね・・・もう空朱のそばにいられなくなっちゃうかもしれない。」


「そんなのわかんないよ。」


「ううん。・・・ママにはね分かるんだ。」


「そんなの嘘だよ。」


「そうだね・・・嘘になったらいいな。」


「もっと・・・もっとママと一緒にいたいよ。もっとママと一緒に遊びたい、ママのご飯が食べたいよ。」


「ふふふ、ありがとう空朱。・・・でもねママはもう満足してるんだ。」


「・・・え?」


「こんな体の弱いママでも空朱を生むことができた。・・・短かったけど、パパと空朱と3人で普通の生活ができて・・・これ以上望んだらママ、バチが当たっちゃうよ。」


「なんだよ・・・なんだよそれ!僕は全然満足してないもん!・・・もっと、もっとママといたいのに!」


僕は力のない拳でママを叩いていた。


そんな僕を申し訳なさそうな目で見るママ。


「うん・・・・だからごめんね。」


「謝らないで!・・・ママは・・ママは全然悪くないもん!」


「ふふっ、空朱は優しいね。・・・こんな子に育ってくれて、ママ思い残すことなんてないわ。」


「うっ、ううっ・・・」


「・・・空朱。」


「・・・ぐすっ。」


「ママがいなくなったら・・・パパのこと支えてあげてね?」


「・・・ひっく。」


「パパの言うことちゃんと聞いて、パパも空朱も幸せになってね?」


「・・・ママ、わがまま・・・」


「ふふっ、そうかもしれないね。・・・それでね・・・もう一個わがままいいかな?」


「・・・・・うん。」


「ありがとう。」


そういいながらまた優しく頭を撫でてくれるママ。


「パパはまだまだ若いし、それにパパカッコいいから、もしかしたら新しいママが来てくれるかもしれない。」


「新しいママなんていらない!ママはママだけなの!!」


「空朱。・・・嬉しいわ。・・・でも、空朱もまだまだ小さいし、やっぱりママは必要なの。だから・・・」


「パパだって、ママはママだけっていうもん!」


「・・・そうね。あの人、ママにぞっこんだからね。・・・でもね。あの人にも、空朱にもこれから先長い人生が待ってるわ。その人生を幸せに過ごし欲しいの。・・・分かる?」


「・・・うう~~。」


「そのためにもママがいなくなったら、ママのことは忘れて・・・新しいママと・・・新しい家族で幸せになって欲しいの。でもパパ、ママのこと思い出していろいろ遠慮したりしてまうことがあるから、その時は空朱がパパを支えてあげて。・・・そして、新しい家族が幸せになれるように、空朱にがんばってほしいの。ママを幸せにしてくれたように、新しい家族も幸せにしてげてね。・・・これがママの最後のわがまま。・・・聞いてくれるかな?」


「う~~~~っ・・・・・・・うん。」


僕は嫌々ながらも、ママのお願いには逆らえなかった。


「でもママ、わがまま多すぎ。・・・でもわがまま聞く代わりに僕・・・ママのこと絶対忘れないもん!絶対忘れてやるもんか!!」


「空朱・・・」


「それにママはまだここにいるもん!僕とおしゃべりしてくれるし、頭も撫でてくれるし・・・あっ、きっとこのまま、また元気になるもん!」


「・・・ふふっ。ぐすっ。」


そんな、僕の何の根拠もない言葉に僕もママも目に涙を浮かべていた。


「ありがとう、空朱・・・」


そしてママは優しく僕を抱きしめてくれた。



「そうだ!・・・ママが目を覚ましたことパパに知らせないと!」


「そうね、お願い空朱。」


「うん!」












そして僕はパパを呼びに病室を後にした。












それがママとの最後の瞬間になるとも知らずに・・・

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