嫉妬
そして、それかの毎日は私の揺れる感情とは裏腹に、ごくごく平和に過ぎていきました。
ママの再婚相手である新しいパパは私のことを実の娘のように可愛がってくれるし、ママとの仲なんてこっちが赤面してしまうぐらいに仲睦まじい。
それにパパがいるおかげで生活面でも余裕ができて、その分ママは私たちと過ごす時間がとれて、私もママと過ごす時間が増えて・・・・何よりママの笑顔が増えたのが一番嬉しかった。
でも・・・
その笑顔を引き出しているのが自分だけじゃないのが嫌だった。
もちろんパパのことは仕方がない。・・・・というか今となっては、そんな経済面とかそういった理由じゃなくて、掛け値なしにパパのことが好きになっていた。
ちょっと悔しいけどパパと一緒にいる時のママの笑顔は、私たちに向ける笑顔とはまた違った魅力があって、そんなママの笑顔もパパがいてくれたおかげで見ることができたし。
私に対しても・・・まぁ、怒ると多少怖いのだが・・・・概ね優しく、時に厳しく接してくれる理想的なパパだったし。
だから・・・パパのことが嫌というわけではなかった。
「ママ・・・これ。」
空朱がママになにかを差し出した。
「??・・・まぁ♪」
それは、ママとパパと空朱・・・そして私の笑顔が描いてある一枚の画用紙であった。
「これ、くぅちゃんが描いたの?」
「うん・・・あの。・・・僕の家族になってくれてありがとうございまちゅ!・・・ううっ////」
「くぅちゃん・・・・うっ・・・・くぅちゃ~~ん!」
すると涙ぐみ始めたママは、勢いよく空朱を抱きしめていた。
そしてその顔には・・・今まで・・・空朱がくるまで私にしか見せたことのない、私だってそうお目にかかれない最高の笑顔を浮かべていた。
そう・・・あいつだ。
あいつが来てからママはよくあの笑顔を浮かべるようになった。
私にしか見せたことのない、私だけの“笑顔”を・・・
確かにママは姉弟が欲しくて、しかもその男の子はママの好みど真ん中の可愛らしい容姿に、中身も真面目で健気で・・・文句のつけようもなかった。
それがまた私をイラつかせていたのだが・・・極めつけはこれだ。
「あ・・・あの。蒼華お姉ちゃん・・・これ、お姉ちゃんのために作ったんだ。」
いつの間にかママの抱擁から抜け出した空朱は、その小さな手に不恰好な・・・しかし、小1にしてはよくできた玉子焼きを載せた皿を持っていた。
恐らくママに聞いたのだろう、私はママの作る甘い玉子焼きが大好きだった。
そして、私はママの手前良いお姉ちゃんを演じるため、その玉子焼きを一つほお張り、空朱が来てから身に着けた完璧な作り笑いで
「おいしい♪お姉ちゃん嬉しいわ。」
と心にもないことを平然と言ってのけた。
そんな私と空朱の姿を見て笑顔を浮かべるママ。
しかし、ママがいなくなると私は、
「・・・・ぺっ!」
口の中の玉子焼きを床に吐いて捨てた。
「・・・・」
もちろん空朱の目の前で。
しかし・・・
「ははは、ごめんなさい。うまく作れなくて・・・」
そう言いながら、申し訳なさそうに笑顔を浮かべながら黙って床を掃除する。
「・・・空朱。」
「あっ、あの・・・“ママ”には・・」
「キッ!」
「うっ・・・あの“ともえ”さんには言わないから。」
「・・・・」
私は無言でその場を後にしようとした。
「あの、蒼華お姉ちゃん!」
「お姉ちゃんって言うな!!」
「あっ・・・うう。ごめんなさい。」
「・・・ふんっ。」
私は空朱を一瞥すると、その場を後にした。
そう、私を一番イラつかせるのは空朱のこの態度だ。
これだけ嫌なことをする私にもずっとこの態度。
一度だってママやパパに私の嫌がらせを言いつけたことなんてないのだ。
ただただ私に対しても優しく接する。
そんなのママやパパのご機嫌をとるだけのただの芝居だ、すぐに化けの皮を剥がしてやるといきこんでから半年、空朱は一度だって嫌そうなそぶり一つ見せなかった。
それどころか、日に日に私にかまって来るようになっていた。
なんなのよ。
なんなんだよ!
そんな空朱の姿を見るたび、私の醜い部分がさらけ出されていくようで、とても・・・とても苦しかった。