私の最高の恋人(弟)。
あの後、駆けつけた警察の人によってあの気持ち悪い男は捕まった。
どうやら普段は人のよりつかない廃倉庫の中に、裸足で尋常じゃない焦った様子で入っていく子供・・・空朱のことを見かけた散歩中のお婆さんが心配になって近くの親しい交番の警官に様子を見るよう頼んでくれたようだった。
それでなんで空朱が私のことを見つけられたのかは・・・空朱の話によると・・・
「えっと・・・なんかこっちの方にいるかもって思って・・・へへへ~~」
なんて考えなしも甚だしいことを、ちょっとムカつくほど可愛い顔の照れ笑いなんて浮かべながら言っていた。
そして今は、私と空朱は最寄の警察署の応接室にいる。
電話で出張中のパパとママに連絡をしたら、すぐに戻るということで、それまで警察署にいなさいということだった。
私と空朱が電話に出ると、ママは泣きじゃくり、あのパパでさえ涙ぐんだ声で「よかったぁ。ほっと~~によがったぁ~~」なんて、子供みたいに泣いていたのには少し笑ってしまった。
けど・・・本当によかった。
「・・・・」
「・・・・」
んで、状況とか気持ちが落ち着いて改めて気づいたのだが、こんな狭い部屋に二人きりになるのも初めてだったりして、お互い何を話していいのか分からずに無言になってしまっている。
・・・うっ、正直気まずい。
今まで散々、空朱に対して嫌がらせをしてしまったあげく助けられた身としてはなおさらに。
しかし・・・
私の性格上いつまでもこんな無言に堪えられるわけもなく、口火を切った。
「何で・・・・」
「ふぇ?」
間抜けな声で返す空朱。
・・・今までならムカつく以外の感情を抱いたことがなかったのに、今はなぜかそんな返事一つに頬が熱くなっている自分がいた。
「・・・何で私なんかを助けに来たのよ。」
「ごっ、ごめんなさ「あやまんな!」ひゃっ!?・・・」
「・・・・」
「・・・・」
また無言。
「・・・・そっ、そのおねえちゃ・・・あっ・・・・蒼華さんが心配で・・・」
---チクッ。
“蒼華さん”。
なんだかその他人行儀な呼び方が、心に突き刺さる。
「蒼華さんは家族だし・・・その・・・」
家族・・・
「家族だから?・・・家族だから嫌な奴でも助けたっての?」
「・・・・」
なんだ、そういうわけか。
「そっか・・・そうよね。私が事件に巻き込まれて、ひどい状態で帰ってきたら、家族がめちゃくちゃになって居心地悪くなるもんね!・・・はっ!」
「違う・・・」
何かを呟く空朱。
しかしあまりに小さい声のためか私には聞こえない。
「それともなに?あんたに対してこんな嫌がらせみたいなやり方でしか接することができない姉に同情でもしてんの?やめて「違うよ!」・・・っ!?」
しかし、私が今まで心の内に溜め込んでいた思いを吐き出すと、ついには空朱は大声で私の言葉をさえぎった。
「・・・じゃっ、じゃあなんなのよ!」
もう止められなかった。
「こんな・・・こんな嫌がらせばっかりする姉にいつも優しくしてさ!何良い子ぶってんのさ!その上あんな・・・あんな暗くて、怖くて誰もいないような場所に私を助けにきて・・・あんたは何がしたいのよ!!あんたさえ・・・あんたさえいなかったら私は、幸せに暮らせてたのに!ママの笑顔も私だけのものだったのに!!」
「・・・っ!?」
空朱は顔を伏せ、拳を硬く握り締めていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
私は気持ちのすべてを空朱にぶつけ、荒い息を整えていた。
もうこれでお終いだ。
もう空朱との間に開いた溝は埋まることはないだろう。
そんなことを思っていると、予想外にも空朱が口を開いた。
「やくそく・・・したんです。」
「・・・・」
ゆっくりと言葉を紡ぐ空朱。
「僕の・・・もう今はいなくなったママと約束したんです。・・・もし、パパに新しい家族ができたらそ、パパと新しい家族皆を幸せにするって・・・」
「・・・・」
「最初はそんなママとの約束を守るために蒼華さんと仲良くなりたいって、そんな思いでずっと今までやってきました。」
そして自嘲気味なヘタクソな笑みを浮かべる空朱。
「でも・・・僕にはやっぱり無理だったみたいです。・・・・少なくとも僕がいると、蒼華さんは幸せになれないみたいですから。だから僕はもう・・・」
「・・・何よ」
ムカつく。
「え?」
「なんなのよ・・・」
ムカつく、ムカつく・・・
「あっ・・・あの、蒼華・・・さん?」
「なんなのよ!っていってるの!!」
「ひゃっ!?」
「今まで散々、私に何されても、何を言われても、どんな時だって私と仲良くなるためにがんばってきたのに!今回だって、あんなデカクて気持ち悪い奴相手に私を守ったくせに!!・・・私がちょっと本音をこぼしたぐらいで何諦めてんのよ!!!」
突然大声で怒鳴りはじめた私に狼狽する空朱。
「あっ、あの蒼華さん落ち着いて・・・」
「嫌よ!」
私をなだめ様と手を伸ばす空朱。
私はその手を掴み強引に引き寄せる。
「わわっ!?」
バランスを崩した空朱は私の胸に飛び込んできた。
「・・・ちっさ。」
「はう・・・」
私の腕の中にすっぽりと納まる小さな体。
余程焦ってあちこちを探し回ったのか、体中に擦り傷が耐えない。
足元も、今は警察の人に手当てをしてもらってスリッパ貸してもらっているが、裸足で私を探し回っていたために、あの綺麗な肌の小さく可愛い足は見るも無残な姿になっていた。
こんな・・・こんなことまでされたら・・・・・もう・・・・・・
「・・きになるしかないじゃない・・・」
「・・・え?蒼華さん?何か言いましたか?・・・んぎゅ!?」
力いっぱい抱きしめる。
そして・・・
「好きになるしかないじゃない!!」
「・・・・ふぇ?」
私の腕の中で変な声をあげる空朱。
「こんな・・・こんな嫌がらせばっかりするアタシにあんな優しくして!いつのまにか料理まで覚えて!!私のためにあんなおいしいケーキつくって!・・・それに私のこと身を呈して助けてくれて!!・・・そんなことされたら、あたし・・・もう!・・・・んちゅっ~~~!!!」
「んむぅうう!?」
私は相手の了解も得ず強引に相手の唇を奪った。
それは雰囲気も何もない、ただ唇を強引に押し付けるだけのキス。
でも・・・生涯忘れることができないほどの熱いキス。
・・・そのまま何秒たったか、何分たったか分からなかった。
お互いの息が苦しくなって自然と離れる唇。
その二人間にはキラキラと輝く粘液の橋がかかっていた。
「・・・え?・・え?」
未だに状況がよく分かっていない様子の空朱。
「・・・諦めるんじゃないわよ。」
「・・・蒼華さん?・・・はっ、ぼっ、僕!?・・ごめんな「あやまんな!」・・はいいっ!」
そして私は言葉を紡ぐ。
家族としての終わりの言葉を・・・
「家族として・・・家族として私を幸せに出来ないなら・・・私を・・・」
「私を一人の女として幸せにして見なさいよ!!」
「・・・・えええええええええええ!!!???」