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NETWORK LOVERS  作者: ユウ
1/2

前編

バレンタイン企画用に密かに執筆していた短編小説…のはずだった。区切りが良いので、連載扱い。全部書ききったら短編にまとめる予定です。

ぶっちゃけ自分は何を書いているんだろうと思いながら書いてる一作品。

まだ最後まで書いていませんが、今はきっとネガティブになってるんだろうなーって。

 ――残りの余命は、あと半年。

 ある日、僕はそう宣告されました。

 僕の名前は浅川勇気。普通の県立高校に通う、普通の十七歳の男子高校生です。学校での僕はというと――正直、友達はいません。いるはずがないのです。

 名前だけがそこにあり、存在そのものはそこになく。今の学校に、僕を友達と呼んでくれる人もいないし、ましてや僕の名前を、覚えてくれている人なんかいないはずだ。

「――おい、空を飛ぶってどんな気分なんだい?」

 僕は入院している病院の窓から見える、大木に止まった小鳥に話しかけた。

 だけど問いかけに小鳥が答えてくれる事はない。あるいは答えてくれているのだろうけど、僕は――いや、僕達にはそれを知る術が無い。

 最近よく思う事がある。相手の気持ちが読める、わかるようにならないか、と。勿論、できるわけがないし、そんな事ができても、人道的に正しくないのもわかっている。

 ――でも、でも僕にはそうしたいと思えるような出来事がある。それは今から二ヶ月前の事。ネガティブに言うと『死刑宣告』を出された僕は、何故か今までの自分が、やらなかった事、やってない事をやろうと思った。だがスポーツなどの激しい運動はできない。だから室内でも、この病室という名の監獄の中でも、できる事をやろうとしたのだ。

「父さん、母さん……僕さ、やってみたい事があるんだ」

 父さんと母さんは、僕の言葉に揃いも揃って、同じ返事をした。余談だけど、僕は仲の良い夫婦である二人が好きだ。

「ネットゲーム……っての、やってみたいんだけど……」

 結局、僕が残る余命に選んだのは、ネットゲーム。普通に考えれば、馬鹿みたいに思える選択肢だけど、今の僕には丁度良い。人と接しなくなってから長いし、何よりもこんな状態では人に会えない。ネットという媒体を使い、人と接する事ができるのは、とても素晴らしい事なんだ。

 さて、話を元に戻そう。どうして僕が、人の考えがわかるようになりたいと思ったのか、それは恥ずかしい話だけど――僕はそこで会った一人の女の子に恋をした。後々に知った事だが、いわゆるネット恋愛というものらしい。最も片想いだけどね。


 そんな出来事の発端の話がこれだ。

 まだネットゲームをやり始めたばかりの頃、ちなみにMMORPGなのだが、

「うわっ、モンスターだ! えと、武器は……いや、それ以前に攻撃ってどうやるんだ!?」

 完全にパニクっていた。ある程度、公式サイトの説明を見たつもりだったけど、完全に甘かったみたいだ。そのエリアでは、どんな初心者でもやられる事はないぐらいの、弱いエリアらしい。だけど僕は、そのエリアでやられかけている。

 心なしか、周りの僕を見る視線が、やけに馬鹿にしているように感じる。

「う、うわああぁぁぁ!」

 ただ叫ぶ事しかできなかった。あまりのリアルさに、コントローラの握る手は、汗ばみ震えていた。

「――やぁ!」

 その時、残り体力少ない僕に、攻撃をしかけてきていたモンスターは、奇声をあげて突然消えた。

「おいおい、大丈夫かい? 若葉マーク君」

 やや小馬鹿にした態度に感じられたが、差し向けられた手の向こうには、とても優しい笑みを浮かべた少女がいた。

「あ、あの……」

「うん? チャットも上手くできないのかな。良いって良いって、焦らずにゆっくりやりなって!」

 その人の言葉に甘えて、僕は深呼吸をして、ゆっくりと文字を打っていった。まだ手が震えている。これはモンスターとの戦いの余韻なのか、それとも人との久しぶりすぎるくらいの、ふれ合いからくるものなのか。

「あ、り……が、とう」

「うんっ、よくできました!」

 やはり小馬鹿にしたような、喋り方だ。でも笑顔は優しく、緊張からくる心臓の鼓動も、少しずつ治まっていっていた。

「それで……君、初心者だよね?」

「あ、はい、そうです。右も左もわからなくて……それに緊張しちゃって」

「今時、ネットゲームで緊張? あははは、ピュアな人もいるもんだねぇ。あ、私の名前はミラ。君は?」

 ミラという少女。名前的には外人なのだろうか。それにしては、日本語が上手だと素直に感じた。

「僕は――浅川勇気です」

 と、言ったのと同時に、ミラに口を塞がれた。

「ちょっと君、それ本名!?」

 やけに慌てた風に、見えてるけど僕には理由がわからなかった。

「えぇ、そうですけど……何か不味かったですか?」

「不味いも何もっ、こういうところでは普通、自分の本名は出さないんだよ!」

 そうなのだ。これも後々知った事なのだが、ネットではいわゆるハンドルネームというものを使うらしい。と、いう事は、このミラという少女も、ハンドルネームなのだろうと、僕は考えた。

「このゲームに登録する時にさ、プレイヤーネームを決めたでしょ?」

「プレイヤーネーム?」

「あっちゃぁ……こんな事もわからないド初心者だったのかぁ……。まぁ、良いわ、こうなったら私がみっっっちり、教えてあげるわ!」

 やけに力の入った『みっちり』という言葉と、そのやる気に満ちた顔に、僕は軽い戦慄を覚えた。

「あの……お手柔らかにお願いしますね?」

「勿論! スパルタ教育する程、私は怖い人ではないつもりですけど?」

「((((;゜Д゜)))」

「って、何でチャットも上手くできないし、ネームも知らない奴が、顔文字なんて使えるのよっ!」

 ミラは笑った。僕はそんな彼女の笑顔を見て、心臓が高なった。安っぽいかもしれないが、確かに高なったのだ。

「――それで、プレイヤーネームは簡単な話、ハンドルネームと同じといっても良いと思うよ。細かく分 別できるのかもしれないけど、私は細かい事は好きじゃないしね」

「へぇ、ミラさんは大雑把な方なんですねぇ」

「ちょっ、大雑把とか言うなっ!」

「あ、すみません……」

 変な意味は無かったのだけど、もしかしたら気分を害してしまったかもしれない。悪気はなかったけど、僕は申し訳なく思い、俯いた。

「あ、いや、私は気にしてないよ。だから――えと、それでネームは?」

「ネーム……えぇと」

 僕はステータスを試行錯誤して開き、自分のネームを見る。

「アサカワ、ユウキですね」

「そのまんまじゃない……本名系? てか、本名か。じゃあ私はユウキって呼ぶね、だからユウキも私をミラって呼んでね!」

「わかりました、ミラさん!」

「さん、はいらないよ」

 ミラはまた笑っていた。彼女につられて、僕も笑っていた。

 何のヘンテツも無い。何の運命性も無い。何の偶然必然も無い。それが僕と彼女――ミラとの出会いだ。


 そんなミラとの出会いから、早二ヶ月が経った現在。僕は元気とはいえない体調だったが、それなりにネットゲームを満喫していた。

 ミラ繋がりで、友達、いやここではフレンドもたくさん増えた。現実の世界で望んでいた事が、仮想とはいえ実現したのだ。

 ――僕のミラに対する気持ちも、仮想なのだろうか。

 程なくすると、ミラから誘いのメールが届いた。

『みんなでクエストに行こう! ユウキも来るでしょ? てか、行く!』

 という内容だった。

 強引な内容かもしれないが、引っ込み思案で内気な僕には、ミラの多少なりとも強引なところが、心地好かったのだ。

 その後、行くという方向でメールを返信すると、

『OK! ユウキは私と同じチームね! 早く来なさいよっ、置いてっちゃうわよ』

 と、返ってきた。

 僕がここまでメールを扱えるようになったのも、一重にミラのおかげなのだが。

 ――急いで目的地に行くと、ミラとフレンドの男性キャラクターがいた。凄く親しげに話していて、僕と話している時には見せない表情だ。

「……っは!」

 何となく、それを見つめる自分自身が嫌になった。今、僕はどんな顔で二人を見ていたのだ。僕はこんなにも黒い人間だったのか。

「あ、ユウキ! 遅いぞ!」

「へぇ、あいつがミライが教えてるって初心者か?」

「初心者っていっても、もう二ヶ月。立派なプレイヤーだよ、ユウキは」

「……ふぅん」

 その男性キャラクターは、僕に近づいてくる。とても強そうな見た目――というか強い。とても威圧的な目で、僕を見ていた。

「あ、あの、どうも……」

「おう、まぁ宜しく頼むわ。レベルが低いクエストなら、俺がマジになる必要もねぇだろ、俺は抜けさせてもらうぜ」

「あ、ちょっと……。全く、行っちゃったよ、あいつ」

 その人は行ってしまった。そんな流れを、追うように見てるしかなかった。

「ごめんね、ユウキ。せっかく誘ったのに、あいつ……」

「いや、僕は気にしてないけど」

 これは本心だ。変な下心は無いけど、ミラと二人っきりになれる。ここ最近は二人でクエストをこなしたり、チャットする事も無くなっていたのだ。

「あいつさ、前々からあんな感じなんだ。弱いクエストっていうか、初心者嫌いなところがあってさ。とにかく強い所に行って、良いアイテムを入手しにいく、効率重視系プレイヤーなんだよ。……良い奴なんだけどね」

 呆れたような口調の、ミラの話を黙って聞いていた。

「あの人と……ミラは一体……?」

 意識もしていない、無意識な言葉を出していた。言ってしまってから、聞かなければ良かったと後悔する。

「ん、あぁ、付き合いの長いフレンドかな。もう一年にもなるかなぁ」

 一年。僕との二ヶ月とは、えらい違いを見せつけられる。やはり聞かなければ良かった。左胸にチクチクと見えない針が刺さる。

「そっ……か」

「あ、だからって変な感情は持ってないからね。誤解しないでよ!」

「うん……!」

 出来る限り元気よく返事をしたつもりだけど、そうできていたであろうか。

「さっ、クエスト行こう! あの馬鹿は行っちゃったけどさ、私がマンツーマンで鍛えてあげるわよ」

「うわぁ、おっかないなぁ……」

 言葉の本心の中に、ちょっとの嬉しさがある。こんな程度の事で喜べる。何て単純で馬鹿なのだろう。そんな自分を見つめ、画面の前で、一滴の涙を流していた。

 ――それからクエスト開始から数時間。ミラに遅れを取らないように、僕は必死で戦い、そしてクリアしていた。

「ふぅ……」

「どうしたの、ユウキ! この程度でへばった?」

「あはは……こう見えても、体力の無さには自信があってね」

「ぷっ、それ普通逆だよ?」

 クエストクリア後は、その場で笑い話をしていた。好きな事、嫌いな事。彼女の価値観は、僕とは違っていて、でもそこが参考にもなっていた。

 そんな価値観に触れても、僕はミラに一切の嫌いな感情を持たなかった。当然、それは僕が彼女に好意を抱いているからに過ぎないのかもしれない。

 ――恋は盲目、何故かそんな言葉が、頭の中に出てきていた。

「――そういえばさ、ミクっていうんだ」

「え、何が?」

「私の名前」

「だってミラはミラじゃ……?」

「違うよ、本名。東城未来っていうの」

 突然の言葉。目の前の少女は、会った時からミラであり、東城未来という名前とのギャップがある。

「未来……ミライ……そうかっ!」

 ミラのフレンドが呼んでいた、ミライというのはこの事だったのだ。

「私だけユウキの本名知ってるのは、フェアじゃないしね。ユウキは信頼できる人だと判断したから、だから教えるの!」

「ミラ……」

 心の底から、マグマのように沸き上がる衝動を感じている。歓喜の為なのだろうか。僕のコントローラを持つ手は震えていた。

「だからって、うっかり本名で呼ぶとかないようにね!」

「し、しないよ、そんなうっかりミスは……」

「どーかな、ユウキならありえるよ!」

「言ったなぁ!」

「アハハハ、ごめんごめん。調子に乗りすぎました」

 久しぶりにミラは笑っていた。いや全く笑わないわけではないのだ。ただ、僕にとってはその笑顔は輝いていた。

 彼女が笑っていてくれると、僕も最高に嬉しい。他人が笑っていてくれる事を、他人が幸せでいてくれる事を、望んだのは初めての事かもしれない。願わくば、そこにいるのは僕でありたいと願う。しかし、現実という名の真実は、そんな密かで小さな願いすら打ち砕いていくのだ。

キャラの特徴とかは書きません。(予定)

物語進行と心情をメインにいこうと思っています。


誤字脱字、改行ミスなどがありましたら、お気軽にお知らせください。

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