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第90話「敵の敵は味方として」

 空中を熱核エンジンの轟音が切り裂く。

 

無人偵察機システム(FFRS)、一時空域を離脱。近接航空支援到着まで、残三分」

 

 「食事処 げん」から少し離れた高層ビルの屋上で兵士達が展開し、「食事処 げん」(ターゲット)を義体により観測装置と化した瞳で睨んでいる。

 

 この時代、爆撃はただ目的地に飛んでいって目分量で爆弾を落としてくる、などということはない。そんな必要以上に人の命を奪う戦い方は終わって久しい。企業歴(C.E.)と呼ばれるようになったこの時代の爆撃は爆装したマルチロール機(戦闘機)による精密なピンポイント爆撃だ。

 

 爆弾——統合直接攻撃弾(JDAM)を源流とする精密誘導システムを導入した精密誘導爆弾の投下は指揮所、観測員、パイロットの連携によって行われるのはこの時代も変わりない。

 

《バラクーダ・ワン、高度七百メートル、方位(オー)-(セブン)-(ナイナー)より侵入せよ》

了解(コピー)。方位(オー)-(セブン)-(ナイナー)より進入する」

 

 屋上に展開する観測員の言葉にパイロットが応じる。

 

「バラクーダ・ワン、オンコース」

 

 別の屋上に展開する観測員が、そこからバラクーダ・ワンという無線上の呼び名(コールサイン)で呼ばれた戦闘機の航路を確認し、その航路が正常であることを確認する。

《バラクーダ・ワン、攻撃進路よしクリアード・フォー・アタック

了解(コピー)、バラクーダ・ワン攻撃進路よしクリアード・フォー・アタック

 指揮所からの攻撃命令にバラクーダ・ワンのパイロットが応じる。

 CEOから直接下された「食事処 げん」の爆撃命令に思うことがないと言えば嘘になる。しかし、そんなくだらない感情で命令を無視することは徹底的に訓練されたパイロットにはありえないものだった。

 BMSがデータリンクに接続しているため、視界に拡大表示された目標のビルとターゲットマーカーが映し出される。ターゲットマーカーがターゲットに重なり、ロックオンが完了する。

 躊躇うことなく、パイロットの指は爆弾投下のためのスイッチを押していた。

爆弾投下(ボムズアウェイ)

 開かれた爆弾倉(ウェポンベイ)から精密誘導爆弾が投下され、数秒後、各所の小型スラスターによって進路、角度が微調整されて「食事処 げん」に向かって飛翔する。

《着弾まで十秒(テン・セカンズ)

 パイロットのコールを受け、観測員が投下された精密誘導爆弾を観測、カウントダウンを開始する。

弾着(インパクト)

 観測員の言葉と同時に、目標地点で爆弾が爆発、激しい爆炎を上げるのがパイロットの視界にも映る。

爆撃損害評価(BDA)確認》

 爆発の報を受け、指揮所からも指示が飛ぶ。

 やがて、爆炎が晴れていく。

 まもなく、標的となったビルが崩れた様子が見えるだろう。観測員とその護衛を務める兵士たちはそう考えていた。

 

 

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

 

 

「やべえ、こっちの降伏も確認せずにぶっ放しやがった!」

 

 ペッパーフィッシュ社の所有軍の管制システムに割り込んでいたヨシロウが叫ぶ。

 

「ええええええええええ!!??」

 

 早い、早すぎます! と狼狽えるアンノ、「死ぬならその前にゲンジの飯を一口でも食う!」とフードプリンタに駆け寄るニンベン屋、そして悔しそうに唸る用心棒たち。

 

 ここにいる人間で唯一、対抗策が打てそうなのがヨシロウだったが、爆弾が投下された時点でもうどうすることもできない。

 

 精密誘導システムに干渉して飛翔ルートを変える——そんなことをしても焼け石に水だ。ここは駅近くということもあって高層ビルが密集している、下手をすれば近隣のビルに直撃もあり得る。

 

「ここまでか」

 

 静かな声で源二が呟く。

 流石にここで焦ったところでもう打つ手はないのだから、かどうかは分からないが、それでも心はなぜか静かだった。

 

「焦らないのかよ!」

 

 そう言ったヨシロウの手も完全に止まっている。

 もうだめだ、あと数秒でこのビルは倒壊する。運が良ければ助かるかもしれないがそんな奇跡が起こるわけがない。

 

「——俺の運もここまでだったってこった」

 

 源二の頭の中はぐるぐるとトーキョー・ギンザ・シティに来てからのことが走馬灯のように回っている。

 もしかするとここに来た時のように元の時代か別の時代に転移することも一瞬は考えたが、その原理が分かっていない以上同じことが起こるとは考えにくい。

 

 一瞬、天井を見上げ、源二は覚悟を決めて目を閉じた。

 

——この時代、なかなか面白かったな——。

 

 遠くから何かが飛来するような音が聞こえる。

 直後、轟音が響き——。

 

「……?」

 

 不思議そうに源二が目を開けた。

 爆発音は響いた。それなのにビルが揺れることも崩れることもない。

 

「どういうことだ?」

 

 確実に爆発したのに何も起こらず、ヨシロウが店の外に飛び出した。

 源二も弾かれたようにヨシロウに続いて外に出る。

 

『——っ!?』

 

 外に出た源二とヨシロウが同時に息を呑んだ。

 「食事処 げん」が入っているビルを包むように広がる青白い光の膜。その膜が爆弾の破片も爆風も全て明後日の方向に受け流している。

 

 その分、近隣のビルが破片や爆風で被害を負っているようだが、直撃を受けたわけではないので窓ガラスが割れたりホロサイネージの投影機が破損した程度で済んでいる。

 

偏向障壁ディフレクターシールド!?」

 

 バカな、とヨシロウが声を上げる。

 

「ディフレクターシールドなんて使ってるのビッグ・テックくらいだぞ! なんでそんなものが——」

「いやそもそもディフレクターシールドって何」

 

 パラパラと瓦礫が光の膜の向こう側に落ちていくのを見ながら源二が尋ねる。

 ディフレクターシールドという名前自体は聞いたことがある。SFでは定番のバリア装置、一応SF的原理解説がされているサイトを見たこともあるが、そんなものが現実にも開発されていたと思うと改めてこの時代の科学力を思い知らされてしまう。

 

「いや俺も詳しい原理は知らねえ。重力子がどうのとかそれによる湾曲力場がどうのって話だったはずだ」

「あーそれ、俺の時代でもネタとしてあったわ」

 

 源二が呑気にもそんなことを呟く。

 

「——と、いうことは重力子自体発見されて、実用レベルになってるってことか……未来すげえな」

「いや呑気なこと言ってる場合じゃないだろ!」

 

 とりあえず第二射が来る前に避難だ、と店からゾロゾロ出てきたアンノたちに視線を投げながらヨシロウが源二を急かす。

 だが——。

 

《その必要はありませんよ》

 

 不意に源二とヨシロウのBMSに着信が入り、二人が通話開始をタップする前に通話が開始される。

 

《ここからはビッグ・テックにお任せください。『食事処 げん』を必ず守ります》

『は!?』

 

 視界に映し出された通話の相手に源二とヨシロウが声を上げる。

 特にヨシロウはハッカーによって強引に開始された通話に対する驚きも混ざっている。

 

《申し遅れました。私はビッグ・テックCEO、アーサー・エリオットと申します。以後お見知り置きを》

「今度はビッグ・テックかよ!」

 

 何が何だか、とばかりにヨシロウが喚いているが、源二は落ち着いた様子で視界のアーサーの顔を見た。

 

「ビッグ・テックがどうして『げん』を?」

《説明している時間はありません。とりあえず突貫工事で設置したディフレクターシールドが間に合ってよかったです》

「突貫工事……? 設置……?」

 

 アーサーの言葉に源二が首を傾げる。

 ディフレクターシールドの設置工事なんてもの、いつの間に——と考え、源二はあっと声を上げた。

 

「ここ数日の道路工事!」

《はい、ペッパーフィッシュに嗅ぎ付けられないよう道路工事に偽装するのは苦労しましたよ》

 

 そう言いながらもアーサーは手元で何かを操作する。

 

「ひゃいっ!?」

 

 源二の後ろでアンノが素っ頓狂な声をあげ、通話メンバーにアンノが追加される。

 

《シールド発生装置が破壊されない限りそのビルは安全です。それからアンノ、》

「は、はい!」

 

 アーサーに指名され、アンノが姿勢を正す。

 

《今まで匿名での監視活動、お疲れ様でした。今後、貴方をビッグ・テックと『食事処 げん』の正式な連絡役として任命します》

「え? ビッグ・テック!? 正式な連絡役!?」

「お前、マジで雇い主知らなかったのかよ」

 

 アーサーに直接指名されたことで慌てふためくアンノに、ヨシロウが呆れた声を上げる。

 いずれにせよ、ビッグ・テック社のおかげで最悪の事態は回避できた。

 

 ディフレクターシールドがどれくらい保つのかは分からないが、それでもアーサーが安全だというのならそれを信じた方がいい。

 

 爆撃により被害を受けた周辺のビルから逃げ出した人々が逃げ惑うをの見ながら、ヨシロウはパン、と両手を合わせた。

 

「ビッグ・テックのおかげで時間ができたならお礼参りさせてもらわないとなぁ!」

《『ゴーストファング』、お手伝いします》

 

 突然、通話に割り込みが入り、全員の視界に狐のアバターが表示される。

 

「うわっ」

 

 割り込みにヨシロウが声を上げるも、すぐに狐のアバターを見て「お前は」と声をあげる。

 

「お前、『スノウフォックス』か? なるほどな、あの時のサイネージジャックもお前の仕業なら納得できるわー」

「有名人なのか?」

 

 源二が尋ねると、ヨシロウがああ、と頷く。

 

「メガコープ御用達の量子ハッカーだ。腕は信頼できる」

《『ゴーストファング』に褒めてもらうとなんかむず痒いですね。とにかく、ペッパーフィッシュを止めるお手伝いをいたします》

「頼むぜ!」

 

 「スノウフォックス」が一緒なら心強いわーなどと張り切り始めたヨシロウ、そしてどうやらペッパーフィッシュの動向を事前に察知して対策してくれていたらしいビッグテック社に、源二は絶望で冷え切っていた自分の感情に火が灯っていくのを感じ取っていた。

 

 ヨシロウだけでなくビッグ・テック社が協力してくれるのなら心強い。全てが終わった後にはタイムマシンがらみで一悶着はありそうだが、それはその時考えればいい。

 

《——我が軍も到着したようですね。いや、これは——》

《CEO、空中にいるのはペッパーフィッシュだけじゃない、ベジミールとアジトモの航空勢力も来ているようです》

《そのようですね、連絡が来ました。『これよりベジミールおよびアジトモ統合軍はビッグ・テックと協力してペッパーフィッシュを撃退する』、と——》

「なんか話がクソデカくなったなぁおい!」

 

 まさかのベジミール社とアジトモ社の介入に、ヨシロウが呆れ果てて叫んだ。

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