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発動するジョブ・キラー

 まず話が通じる方からなんとかしようと、セラさんとカンカンの女性の間に割り込む。血が落ちないよう傷口を気にしながら、こう話した。


「セラさん、僕は大丈夫ですから、落ち着いてください。その、怒ってくれてありがとうございます。今は事情がありそうなので、また後ほどここに来ませんか」


 気持ちが通じたのか、セラさんは「そうですね」と気まずそうな顔をした。ついカッとなってしまったんだろう。彼女の正義感の強さを垣間見た気がする。


 ここで間を与えてはいけないと、僕はすぐさま振り返る。


「僕らは、あなたのことを邪魔してやろうとか、馬鹿にしてやろうってことなんて考えてません。失礼しました」


 間を置いてからまた来よう。僕が口を挟むような問題じゃない。

 とにかく一旦帰る! 火に油を注がない! それがベストなんじゃないだろうか。


「はあ? 何許されると思ってんの?」

「……えっ」


「そこのアンタが謝りなさいよ。今、あたしってものすごく機嫌が悪いの。見てわからない? そこに噛みついたんだから、ただで帰れるとは思わないことね」


 セラさんを見ながら、彼女はそう言った。さらりと帰る作戦、失敗。

 ちらりと冒険者協会の受付に目を向ける。申し訳なさそうに視線を逸らされた。ちょっと助けてくれそうにないな、これは。


 この世界に来る前は、こんな怖い人に絡まれるなんてことなかったから、どう対処すればいいかわからない。いや、絡まれてたとしても覚えてないんだけど。

 セラさんの顔を見るに、彼女の怒りのスイッチがオンになるのは時間の問題だ。今のやりとりでわかる。セラさんも結構ガンガン口に出すタイプ。発言されたらまずい。


「大体、あんたら冒険者ランクはいくつなわけ? その見た目じゃ星1つがいいところね」

「……私は冒険者になるためここに来たんです」

「あははっ、そういうこと! バカのうえにザコなのね。救いようがないじゃない」


 ダメだって! 今もうカチッって音がした気がする! どうにか怒りの矛先を僕に向けられないか。相手の性格を考えろ。何に対して怒りやすい? 

 運がいいのか悪いのか、僕が怪我をしてもセラさんが治してくれる。治療スキルとやらの力次第だけど、喧嘩になるなら巻き込みたくない。


 シルフィーナと名乗った人物は、ひとしきり笑ったと思ったら、今度は急に真顔になる。瞬間、僕はぴりりとした敵意が発せられたことを察した。


「あたしね、舐められるのがすっごく嫌いなの。表に出なさい、骨は折らないであげる」


 そうはならんだろという段階までキレているじゃないか。こちらにも原因はあるにはある、しかしそこまでとは。このままじゃ危険なのは目に見えているので、口を挟ませてもらう。


 深呼吸。僕は演技もできる。おそらく演技もできる。


「あのぉ〜、その相手、僕が引き受けたいんですけど」

「あんたは黙ってなさいピンク男。何もせずこいつの醜態を見てればいいわ」


 ピンク男!? ……ここまでは想定内。セラさんに怒ってるのに、僕がしゃしゃり出ても相手にされないだろう。けど、こう言われたらどうだ。


「セラさんのスキルって“治療”なんですよ。戦うのに不向きだよなぁって思うんですよね。でも僕なら案外あなたにも勝てそうだなぁ~って」


 渾身の舐め腐った態度で相手を煽る。振り向きはしないが、彼女の歩みが止まった。舐められるのが嫌いって言葉を信じるぞ。


「しかも、もし怪我をしたって、セラさんが治してくれるんだから安心だなァ~」


 ……自分の演技が下手すぎて嫌になってきた。でも、こんなふざけた奴、相手は見逃してこないだろう。わざと演技しているのをわかったうえで、だ。乗って来ると感じた僕は、わざとらしい演技をするのをやめて、最後にこう話す。


「あ、怪我をするのはあなたの方なんですけどね」


 静かにざわめく店内。セラさんも怒るどころではなくなったようで、ドン引きしながらこっちを見ている。演技だよ、演技! 思ってるわけないでしょこんなこと!


「じゃあ、外にでるのはあんただけでいいわ。よっぽどこの子を庇いたいみたいね」


 来た。これでまあ、僕が仮にボコボコにされたとしても大丈夫だろう。セラさんが治せるレベルで済めばだけど。


「あんたをズタズタにしたら、次はあんたの目の前でこの子を切り刻んであげる」


 あっ、大丈夫じゃなくなった。犠牲者が増えただけだった。すたすたと酒場から出ていくのを見送ったあと、僕は大きく息を吐いた。覚悟を決めて、自分のスキルを信じるしかない。僕ならやれる、と思ったからやったんだ。

 急いで酒場から出よう。ついでに、セラさんへ弁明しておかないと。


「わざと言ったんですけど、やりすぎちゃいましたね。頑張ってなんとかしてみます」

「そんな、す、すみません。また巻き込んでしまって……」


 もうこうなったら誰が悪いとかじゃない。セラさんには今のうちに登録を済ませて逃げるよう伝えると、僕も酒場の外へ向かった。



 扉を開け、外に出る直前。全身を刺すような敵意を感じた僕は、勢いよく酒場の外へ飛びだす。

 びゅう、と音がしたかと思えば、扉の前にある石畳に、一本の切れ目が入っていた。


「ふーん」


 不意打ちかよっ。これは決闘じゃない、喧嘩なんだ。よーい、ドンで始まる戦いなんかじゃない。戦いに切り替えなければ。頭の中を。ジョブ・キラーは既に発動している!


 先ほどわずかに漏れた声を頼りに、シルフィーナと名乗った女性を探す。どこだ? そしてどんなスキルだ? 咄嗟に石畳を見て切れ目の方向を考える。まさか死角か!?


「くうっ!」


 転がるようにその場を飛びのくと、刃物のような何かが飛んで行ったのを感じる。目には見えなかった。けど感じ取れる。たしか彼女の二つ名は孤高の突風剣士……なら、風を操るスキル!


「勘はいいのね」


 こちらに手のひらを向けるシルフィーナが見えた! あの時と繋がる。手を向けるという予備動作が必要なんだ。ここから刃物のような風が直線的に飛ぶってこと。


 相手は冒険者、ちゃんとした職業だからか、スキルもしっかり発動している。身体能力はいつもとは比べ物にならない。攻撃を避けるだけならなんとかなりそうだ。


 一応酒場の前ということもあり、人通りが気になった。万が一喧嘩が見られたら騒ぎになる。相手もそれをわかっているはず。

 喧嘩が日常茶飯事なほど治安が悪いとも思えない。僕は風の刃を避けながら、都合の良さそうな路地を探す。酒場の脇から続いているのが見えた!


「待ちなさい! すばしっこいわねぇっ!」


 速っ!? 追ってくる速度も風のよう。どうしたって戦いが見られないよう、一足先に路地へと逃げ込む。

 勝つのも負けるのも、騒ぎにならないように。いや、負けちゃいけないんだ。自分の力を信じろ!

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