解釈はあなた次第
「これは、様々な能力が複合した特殊なスキル。ユニークスキルと呼ぶべきだろう」
「あ、そこからなんですね」
小さな個室で、テーブル越しに会話を交わす僕たち。これからややこしい説明が来そうなので、覚悟しつつ耳を傾ける。
「簡単に言うと、職業に就いたものに対して絶大な力を発揮できる、ってことだな。実際どれくらいかは使ってみないとわからんが」
「なるほど……? わかるような、わからないような」
スキルの説明には謎が残るが、あのとき盗賊に襲われた時に力を発揮したのは、『ジョブ・キラー』によるものだろう。
「スキルって鑑定して開花とやらをしないと使えないんですよね? ちょっと使えた気がするんですが」
「そうなんだよ。あんたのスキル、中途半端に使えるようになってて驚いたんだ。大体3割ぐらいかな」
3割!? あの時の力は、完全に開花する前の3分の1だったってことになる。これ、ちゃんと加減できないと確実に問題を起こすぞ。その辺は訓練が必要なのかな。
「力加減も自由自在。けど前提として、最低でも相手を超える程度の力を得るらしい。……はあ、俺、そこそこスキル鑑定してきたけど、こんな説明書を読んでるような結果は初めてだ」
「うわあ、そんなに長いんですね」
「俺だって、見ただけで理解できたわけじゃない。全部説明すると日が暮れるし、俺が魔力を切らして過労死しそうだから、ざっくりいくぞ」
一瞬、彼が面倒くさくなったのかなとも考えたが、鑑定した際の負担を考えると、冗談を言っているわけではないのだろう。
そこからは、説明書とも呼ばれた複雑な内容を、彼なりに解釈して説明してくれた。
『ジョブ・キラー』は、職に就いたものに対して絶大な力を発揮するユニークスキルである。
職に就いたものから敵意を抱かれたとき。または自分が攻撃する意思を持った時に発動する。
重大なデメリットを背負っているため、魔力を消費せずとも使うことができる。……らしい。
「正直、完全に判明したものの、大半の情報に意味があるのかないのか判別できない。鑑定でわかることって女神様が決めてるらしいんだけど、その女神様が俺をからかってるみたいだ。『大事なことは手紙に』とか、意味わかるか?」
「手紙? そんなもの貰って……いや、まさか」
心当たりはある。ポケットにしまったあの紙。何が書いてあるのかわからなかったが、今なら。
「あの、もしかしたらこれのことかもしれません」
「へえ〜、ラッキーだな。……っておい、この手紙ヤバいぞ。なんで読むのに鑑定スキルが必要なんだよ。何をやったらこうなるってんだ? 誰からもらった?」
「気づいたら持ってたんです。誰からかはわからなくて」
「ツッコむと厄介そうだな。まあ、妨害はそんなに高度じゃないからなんとかなるが。読み上げるぞ」
彼は開かれた紙に手をさっとかざすと、数秒黙った。その後、持っていたカバンから小さな紙とインク、羽根ペンを取り出した。
書き写してもくれるのか、と思った直後、彼は手紙の中身を読み上げ始めた。
『結果を決めるのは神であっても、解釈を決めるのは人である』
『この世界は平等ではないが、困難は平等に与えられる』
『世界を失い、記憶を失い、試練を背負うことで、初めて生まれ変わることができる』
『異世界へようこそ』
『素晴らしき縁あれ』
彼はそう言って読み終えた。僕は内容を聞いていて、不思議と安心した気持ちを抱いている。この手紙を書いた人は、どうやら僕のことを知っているようだ。
「俺は全く意味がわからなかったけど、どうだ? チヨリは何かわかったか? 特にさあ、異世界にようこそって謎だよな。ここ異世界じゃないし」
「まあ、なんとなくですけど、ちょっとは」
最初の文は、おそらくスキルに関してのことだろう。僕が解釈を考え続けろ、ということかな。生き延びるために、神様に言い訳を沢山用意しておかなくちゃ。主に、これは仕事じゃないっていうものを。
それ以降の文は、僕について書かれているはず。
この通りであるなら、僕は姿をそのままに生まれ変わって、異世界へと転生したのだろう。
で、そうなったということは、元の世界にいた時の僕は、生まれ変わらないといけない状況だったと。
これを書いたのは誰かもちろん気になる。しかしまあ、スキルの説明に手紙の存在が仕込まれていたこと、何も持っていない僕が手紙だけを持っていたことを考えると……
「神様が手紙をくれたのかもしれませんね」
「女神様が!? 大聖堂に持ってったら一大事だぜそんなの……」
僕は手紙をポケットに戻した。一応、内容の写しはスキルに関するものとして、リックさんが持っていてくれるらしい。
「もう一方のスキルに関しては、開花はしたもののさっぱりだ。どうやって発動するのか、そもそも何なのかはわからない。わかったらまた鑑定に来てくれ」
「わかったら、ですね」
「これで鑑定はおしまいだ。何か質問は?」
「あ、じゃあ魔力について教えてほしいです。魔法があるんですか?」
度々出てくる単語で気になっていたもの、魔力。
僕が質問した瞬間、彼は無言で髪をかきあげ、数秒頭を抱える。
「スキルと魔法を使うのに必要なのが魔力。スキルによって魔法が使えるようになる場合がある。誰でも知ってるぞ」
「うっ、すみません。ほんとに知らなくて」
「まあいいよ。スキル証明書の発行はしておくか? まあちょっと小細工しないといかんが」
「どんなスキルか示すものでしょうか。せめて仕事に就けないっていう証明は欲しいです。信じてもらえないかもしれないので。でも、半端な鑑定なのに証明書なんて発行しちゃダメでは?」
なんとかするよ、とリックさんは笑う。ごまかしたなこの人。なるべく目立たないように証明書を作ってくれるようだから、黙っておく。
「じゃあ、外出たら俺は仕事モードだ。夕方、鐘の音が鳴ったら鑑定所の前に戻ってこい。一日ぐらいは家で面倒見てやるから」
「本当に!? ありがとうございます! 何も持ってなかったので!」
思わぬ助け船に、彼の株がグンと上がった気がする。何度もペコリと頭を下げた後、僕たちは席を立って、僕は受付に。リックさんは胡散臭さを復活させながら、また別の部屋へ向かった。
扉を開けて受付に戻った時、確認するようにこう声をかけられる。
「その、リックさんってかなり変わった方でして。プライドが高いのか、儀式用の器具を全く使わず自分の力だけで開花させるんです……何か問題などは起こりませんでしたか?」
問題だらけだったよ! ……とは言えないので、「大丈夫でしたよ」と返しておいた。証明書の発行は一応あるようで、少し待ち時間が必要らしい。横の椅子に座って待っていればいいようだ。
実感はないが、これで僕はスキルを使えるようになったと。そして、仕事が禁止された生活も始まる。
これ、スキルを開花させなかったら仕事してもオッケーだったんじゃ? 一瞬そう考えるが、それを防ぐため、半端に開花させられていたのかも。用意周到。
「あっ、チヨリさん! どうでした? 鑑定結果は?」
機嫌がよさそうなセラさんだ。部屋の隅に置かれた、待機用の椅子に座っていたみたい。まさか僕を待っててくれたのか? 僕も彼女の鑑定結果が気になっていたし、ちょうどいいな。
「なんか、変なスキルみたいです。身体強化みたいな感じではありますけど」
「やっぱり! あの時使われていたスキルですよね。私はレアスキルの“治療”でした! すっごく嬉しいです!」
鑑定中の出来事が濃すぎて、セラさんと話すのも久々に感じる。ついさっきぶりなのに。
彼女の様子を見るに、変な鑑定士にも当たらなかったうえ、鑑定結果も上々だったんだろう。よかったよかった。実際、治療という単語からはすごい可能性を感じるし。逆にジョブ・キラーってなんだよ。
「これからどうされますか? 私は冒険者協会に行こうかなって思ってたんです」
これからどうするか、かぁ。考えてなかったな。鐘の音が鳴るまではまだ時間があるだろうし、ついていくのもアリか。なんか、そういう所って情報が集まっていそうだし。前世の勘ってやつだ。
「証明書を貰ったら、僕もそこに行こうかな。どんな場所か見てみたいですし」
「チヨリさんも冒険者に? もしそうなら、一緒ですね!」
冒険者。知識が武器になりそうな職業だし、記憶喪失の僕に務まるか不安はある。というのが普通の反応だけど、実際のところ断る一択だ。
「……僕、一生働けないみたいなので、冒険者は無理かも。スキルのデメリットみたいなんですが」
「え、ええーっ!?」
この目で見られるのは何度目だろう。この積みあがった変人ポイント、どこかで使えないかな。




