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僕はジョブ・キラー

 自分でも大雑把な言葉だと思う。正直、なんとかするという発言自体は、余裕を見せびらかすゴルドに一発かましてやりたかった気持ちの表れだ。もう話して問題なさそうなので、僕も我慢するのをやめ、頭を軽く抑える。


 増幅の指輪についての話を聞いた後、敵意の探知も強化されているかもしれないと考えた僕は、会話しながらこっそり試していた。結果、敵意だけでなく様々な感情が怒涛の勢いで流れこみ、頭がパンクしそうになる。

 魔物の感情までも読み取れるような気すらしたが、その認識は半分ほど正解だった。野良の魔物からは何も読み取れないが、“魔王軍に従っている魔物”の感情と位置がわかる。


「あなたは……デメリットを背負った身体強化スキルの持ち主だと聞いていましたが」

「ええ、そうです。ま、間違ってはないですよ。正確じゃないだけで……」


 身体への負担が激しくなり、会話もままならなくなってきた。無意識に地面へ座り込んだ僕は、上空だけを範囲に絞って意識を向けてみる。ちょっとはましになったかな。


「私と同じく2つ持っていると……?」

「さあ。あなたと違って、余裕がないので……僕からは、なんにも言えませんよ」


 今のゴルドの推察は正解だ。先ほどの出来事で確信したこと。敵意や感情を探すスキルというのは、ジョブキラーとはまた別のもの。今まで勘違いしていたけど、2つ目はこれだったんだ。

 一時、呼吸を整える。竜が留まっているのは真上ではあるが、やや北の方角か。多分、主要な人物が集まっているからだろう。


 指輪のおかげで無理やり力が増えたし、これで自分の殻を1枚破れたような気がする。ゴルドにグチグチ言われたからだとか、色々とスキルを見たからとか、理由は他にもある。けど、そうするのは癪だし指輪のおかげとしておこう。


 結局のところ、僕は解釈が足りなかった。想像力、発想が足りなかったんだと思う。僕の場合、説明をそのまま受け取ることしかできず、型に収まった使い方しかできない。

 けれど、この世界に生きる人々は、自然とその解釈を広げられるんだ。生きていれば色々なスキルを持つ人と出会う。ああしたい、こうしたいと天から受けた才を自分のものにしていくんだろう。


 どこかで言われたっけ。解釈は自分次第だって。もう少し都合良く考えないと、見えてこないものがあるんだろう。自分で考えるんだ。


「落ちてくる」


 反応が急激に動いた。落下地点もおおよそ予想通り。違和感が見つからないか空を見つめると、遥か上空に黒い点が見えた。……間違いない、今この瞬間に落ちてきている! 目で追える範囲に!

 対象以外の感情を探すのをやめ、立ち上がって竜らしきものへ強く意識を向ける。全身に力がみなぎってきた。視力、体力、聴覚……あれを止めるために全ての力が強まっていくのを感じる。


 僕が勝手に決めていたことだけど、ジョブ・キラーは魔物に対して発動しないのは間違いだった。解釈の広げ方は無理やりなものの、ゴルドの発言で思いついたことがある。“仕事を与えられた”魔物であれば、発動させられると。

 リックさんの鑑定を受けた時も、スキルが発動するのは人間だけとは聞かされていない。これぐらいの融通は利いてほしいところだ。


「やめておきなさい。あれを止めるほどスキルを強くしたら、魔力が持ちませんよ」

「普通なら、そうでしょうね」


「……は?」

このスキル(ジョブ・キラー)、魔力を使わないんです」

「そんな馬鹿なことが――!?」


 今はゴルドがどうリアクションしようとどうだっていい。既に発動して、指輪の分強くなっているこれは、僕の言うことを聞いている。

 僕は大きくその場を飛びあがり、最も近い建物の屋根の上に乗った。足への衝撃も特にない。体調の様子を見ながら、もう一度落ちてくるものに視線を向ける。


 間に合う。そう確信して、屋根を蹴った。

 走っては屋根の上を飛び移り、着地地点をより正確に考える。屋根が崩れないよう気を付けつつ、道を走るより速く北の居住区へ向かう。


 計算では落下地点を判断できない。ならばと、この北区域の近くで最も不安の感情が集まっている場所を探す。視線をそこに移すと、屋根の構造が他とは異なる、独特な建物を見つけた。

 他より大きいし、何より周囲に騎士らしき人物が集まっている。すぐにそちらの屋根へ飛んでいき、まだもう少し猶予がありそうなのを確認してから、地上を見下ろす。


 ……いた! ソフィアさんだ。彼女がいるのであれば、ここは重要人物の家なはず。

 音を立てて移動しているからか、周囲の人物が空を見上げ始めている。騎士たちの驚きやざわめきが聞こえてくると、これが小さな出来事ではないと思い知る。

 多分、竜の大きさはこの建物と同じくらいはある。確実に家を押しつぶすだけの質量は用意していあるってことか。


 かなり無理をして首を曲げないと見えなくなってきたし、もうすぐ僕のジャンプで届く範囲に入りそうだ。

 少し時間がゆっくりに感じられるほどで、とても落ち着いている。周りの騒ぎや物音は耳に入って来るけど、全く気にならなかった。今この瞬間だけ、対象と一対一で向き合っているよう。


 今更できるかなんて迷うこともなかった。たった数秒なのにひどく長く感じる、呼吸を忘れるようなひととき。


 僕は飛んだ。竜は頭を下に向け落ちてくる。巨体から首が伸びている形状なのを、実際に頭とすれ違いながら確認した。ベストな位置。真上には豪邸1つ分はある胴体が迫るが、丁度首の根本が目の前に来た。ここだ、と脚に力が集まっていく。


 声にならない叫び声を上げながら、僕の全てを込め蹴りつけた。ぶつかった気はするものの、靴からは何も感触が伝わってこない。しかし無力ではないことを音が示していた。

 もはや純粋な筋力の強化ではない。爆発するかのような――魔法やスキルといった言葉でしか表現できないような轟音が響き、竜は軌道を真横に変えた。


 落下しながら竜がどこに落ちていくのかを目に焼き付ける。そびえ立つグリンヴェールの外壁を超え、北門の先にある森へと落ちていく。


「――止めた」


 声が漏れた。喜びよりも、驚きの方が大きかった。

 そのまま意識が一気に引き戻されて、僕は下を向いてしまう。これ、着地は大丈夫か。普通の人じゃ助かるか怪しい高さな気がするけど。


 命があればいいとダメージ覚悟で屋根へ落ちていき……足がついた瞬間、ガラガラと屋根瓦を粉砕していった。一応衝撃は来たものの、スキルのおかげか身体は平気。屋根はえぐれたみたいになっちゃったけど。


「うわっ!」


 突き破らなかっただけましだったか。当然止まるものがないので屋根から転げ落ち、悲鳴をあげつつ再びの着地に備える。――なんとか、横たわらずに地面へついた。

 そうだ、竜は。北に飛んで行ったけど、まだ生きているかも。落ちてくるわけじゃないから、冒険者や騎士がどうにかしてくれるかもしれない。このままスキルが継続するのなら、とどめを刺しにいける。


 あとひと踏ん張りだと気合を入れなおし、まずはここから簡単に情報を得るため、何かしらの感情が発せられていないか探ってみる。範囲は北にかなり広く――

 ふらり。意図していない方向に風景が動き、いつの間にか地面がもっと近くにあった。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 ……動かない。頭の中が情報で溢れているくせに、身体はぴくりとも動かせない。まさか探知に魔力を使いすぎたからか。今敵に見つかったら、まずいのに――



 ――――



 まっくらだ。何も見えないし、感じない。

 金縛りにあっているみたいな。でも、状況はまっくらでなにもわからない。


「どうしたの? わたくしを呼んだのはどうして?」


 誰かの声がする。聞いたことのない声だ。女の人みたいだけど、印象を考えるぐらいの余裕はない。


「ああ……その指輪を使ったのね」


 どうしてそのことを?


「そうだ、お仕事は見つかった? ……ううん、いいのよ。もし見つかったらどうしようかと」


 僕の声は聞こえてないのか?


「質問を変えるわ。あなたの役割は見つかった?」


 ……役割。

 なんとなく、思ったことがある。


 仕事にあたる行動はできないのに、今やったことはなにも制限がなかった。多分、()()なんだと思う。


 このスキルを使うこと。だから、きっと……


 僕はジョブ・キラーなんだ。


「……あら、そろそろお目覚めのようね。今度は直接会ってお話しましょう」


 あの、話……聞いてないのかな……


「こっちが喋ってばかりじゃ面白くないもの。またね。千縁くん」


 声が聞こえなくなった。けれどそのことに疑問を抱く前に、急に眩しくなって――

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