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今日から始まるお仕事禁止

 とにかく、ここで過ごしていくためスキルを得ようと思ったところに、思い切り横槍を入れられた気分だ。夢か現か曖昧だけど、貰えるものは貰いたい。

 そんな僕のことを気にせず、彼はへらへらと話を続ける。


「いやぁ、ごめんね? まあここ防音スキル使われてるし、あんたがクレームを入れなきゃ仕事モードじゃないのもバレないしさ。そこんとこ頼むよ。すっごく疲れるんだよ、敬語って」


 おいおい、やばい店員を引いてしまったぞ! ここって全員こんな感じだったり? セラさんは大丈夫だろうか。


「まあそう焦らなくていいよ。俺はリック。世界一の鑑定士を目指してる」

「はあ、そうなんですか。僕は千縁(ちより)っていいます」


「あんた、見ない顔だし変な恰好だから、遠くから来たんだろ? 誰でも知ってるスキルのことなんか聞いてきたんだから、よっぽどの場所なんだろうな」

「お金も記憶も持ち物もないです。あの、鑑定できないのはなぜなんでしょう?」

「言った通りだよ。本来、スーパーレアを超えるようなスキルの鑑定と開花なんて、こんな設備も揃ってない町じゃなくて、王都みたいな都会じゃないとできない」


 ややこしそうなので、一応名前の部分だけを名乗っておく。 

 いやまあ確かにテーブルと椅子以外なんにもないなとは思ったけど、そういうことだったなんて。それに、変貌っぷりには驚いたけど、この人から感じる胡散臭さはなくなった気がする。いつもはかなり感情を抑えて仕事をしているんだろう。


「俺以外の鑑定士なら、ろくに鑑定できず王都に回すだろうな。けど俺は違う。あんたを一目見ただけでその才能を見抜いた才能がある」

「……さっきから何が言いたいんですか?」


「悪い悪い。要するに、“俺個人的に鑑定させてくれ”ってことだ。俺は“強いスキルを鑑定した実績がとにかく欲しい”。こんなこと、仕事モードじゃとても言えないんでね」

「結局、できるのかできないのかどっちなんです……?」

「5割はやれる。開花もさせると保障しよう」


 僕に常識がないからなのか、彼の言っていることがあまり理解できていない。多分、自分の欲望が先行して、説明を省いている部分があるのだろう。それはなんとなくわかる。


 僕のスキルは、ここでは鑑定できないほど強力らしい。で、王都という場所じゃ10割できる鑑定を、5割だけでもさせてほしいと頼んでいる。合ってるかな。

 話を聞くだけでやけに頭を使っている気がして、思わずため息が漏れた。


「まあ、これも縁でしょう。いいですよ。好きにしてください」

「助かる! もちろんだけど、この後わざわざ王都に行って鑑定するのはやめてくれよ。あんたの鑑定をするのは俺だけで十分だ」

「5割って全然十分じゃないと思いますけど」


 かもしれないな、と言いながら彼は髪をかき上げた。恰好つけるところ間違ってる気がする。


 リックさんは、制服の内ポケットから虫眼鏡を取り出すと、それ越しにじっと僕を観察し始めた。

 セラさんは表情が賑やかだったが、彼もまたコロコロ変わる。今の表情は真剣そのもの。こちらが気圧されそうなほどの眼差しで見つめていた。


 当然、僕も気になるのでリックさんの表情から自分のスキルを察しようとする。だが、無言で観察を続けるかれの額から、たらりと汗が流れるのが見えた。

 呼吸もだんだん荒くなってきて、目を見開いてきている。どう見たって体調が悪そうだ。


「リックさん? 大丈夫ですか?」


 彼は何も答えない。虫眼鏡は僕の胸あたりを覗いたままだ。手が細かく震えてきている。絶対にまずい。


「リックさん!」

「うわっ! す、すまん。集中してた」


「……大丈夫なんですか? 集中って言ったって、限度がありますよ」

「一気に魔力を使いすぎた。だが、色々わかったぜ」


 袖で汗をぬぐったリックさん。言わずもがな休憩が必要そうだったので、少し休憩をすべきと提案したが、断られてしまう。すぐにでも伝えたいらしい。


「良い知らせと悪い知らせがある。良い知らせは、チヨリがスキルを2つも持ってること。それと、そのうちの1つは完全に鑑定できたこと」

「悪い方は……?」


「あんたが仕事に就いたら、全てのスキルは無効になるらしい……ってことだな」

「なっ!?」


「スキルが無効になるぐらいなら、って思うだろ? なんと、仕事を辞めるまで、“仕事を辞める”こと以外できなくなるおまけつきだ。辞めたら使えるようになるのは安心だな」

「なーっ……!」


「デメリット付きのスキルなんて歴史上初めてじゃないか? ある意味神様からの『一生お仕事禁止』っていうメッセージなのかもな」

「うわーーっっ!」


 はたらけない……

 僕は一生、はたらけない……

 はっ、衝撃の事実に思考が飛びそうになった。

 

 こりゃあ、生きていくのは結構大変になるぞ。

 親もいなければ記憶もなく、見知らぬ場所で持ち物もない。仕事するのは禁止。うーん、例えば動物を狩って暮らしても、“狩人”と女神様に知られたらアウト、なんだろうか。


「生きてくのにお仕事禁止かぁ」

「……残酷だよな、女神様も。俺はここで働いて1年とちょっとぐらいだけど、スキル鑑定した後って、喜ぶ人より悲しむ人のが多いんだ。今回はちょっと特殊だけど」


 彼の声色が少し落ちる。同情してくれているのだろう。彼の人柄がほんの少しわかった気がする。気を取り直した僕は、わからないなりにこう考えた。


「いいんですよ、そういうものなら。一生人と喋るの禁止とか、人と関わるの禁止とかじゃなくてよかったです」

「おいおい、チヨリってそんなにおしゃべりが好きなのか?」


「おしゃべりは得意じゃないですよ。でも……」

「でも?」


「人はひとりじゃ生きていけませんから」


 流れる千の縁と書くのが僕の名前だ。これは覚えている。

 神様が本当に残酷なら、僕から繋がりを奪っていただろう。でも、そうじゃない。


「ま、結局誰かに養ってもらわないといけませんけど。なんにも持ってないですし」

「ははは、そうだな。けどまあ、忘れるなよ、チヨリ。あんたの持ってるスキルの説明はまだだぜ」

「手短に頼みますね」


 確かに。先にデメリットを知った分、ちょっと期待が重くなっている気がするが、それほど強力なスキルだと信じるしかない。リックさんはもったいぶる素振りを見せず、率直に名を告げる。


「“ジョブ・キラー”。それがあんたの持っているスキル、そのうちのひとつだ」


 はい、そうですか。……とは絶対にならないよな!? これだけでどうリアクションすればいいんだよ。とりあえず、リックさんの説明を待とう。

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