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なんでも答えてくれる

「それでも見過ごせません。何もしない人間に、こんなスキルは授けない。このいびつな力がどこかで役立つかもしれないんです。僕もなにか、できることを探します」

「……そうか。君がそう考えるのであれば、俺は全力を持って君を守ろう」


 人助けがしたいというと、少し違う。自分にある役割というのを、心の底から信じる。そうすることで、この世界で生きていられる気がしたから。

 今日はよく歩き、おまけに戦闘もしたので、早めに休むとしよう。その旨をザーディスに伝えると、渋々部屋を出ていった。何かと理由をつけて居座ってこなくて安心。

 明日は、ひとまずこの町の地理や情報を集めて、今後のことを考えるとする。整えられたベッドに横になると、すぐに瞼が重たくなった。



 窓から差し込む日光で、中途半端に覚醒する。誰にも起こしてもらえないし、目覚ましもないので、決まって数秒後には寝床から飛び起きる。今、何時なのかと。昼まで寝てしまったんじゃないか、という不安が、現状最高の目覚ましになっている。

 幸い窓から確認できる範囲では、日の出から少ししか経っていない。


 荷物をまとめて、すぐに出発の用意をする。着替えも何着目かのピンクカラー。この町での用事が済んだら、服を探してみてもいいかも。

 きちんと忘れ物がないかチェックしてから、ザーディスさんの部屋に向かう。鍵を開け、隣にある部屋へ。扉を軽くノックすると、すぐに彼が扉を開け、返事をした。


「おはよう。よく眠れたか?」

「おかげさまで。ザーディスさんこそ、寝ました?」

「もちろん寝た。何もなかったから、ぐっすり寝たつもりだが」


 本当か疑わしかったので、彼の顔を観察する。クマもないし、相変わらず表情は硬いが顔色はいい。徹夜するなんてことがなくてよかった。


「チヨリ君はこの町のことをよく知らないだろう。後日に備えて、今日は案内をするつもりだ」

「助かります」

「俺も全てを知っているわけではないからな。主要なところを見ていこう」


 ぐっすり寝たと言っているわりに、出発の準備は完璧。一体いつから起きていたんだ、この人は。2人揃ったので、簡単に朝食を済ませ、宿を出る。野宿続きだったので、すっきりした気分で朝を迎えた気がした。


 南門の近くに位置するこの宿から、昨日と同じように中央を目指すことになった。ひとまず施設を見つつ、広場近くにある騎士団支部を目指すとのこと。酒場が併設されているタイプで、人も多く情報が集まるらしい。


「北東の方は住宅地区だが、寄らないのが賢明だ。この町では冒険者に関われるかどうかで経済的に格差がある。通ってきたのなら、どんな場所かもわかるだろう」

「それは、まあ。あそこには何もないんですか?」

「施設らしいものはないと思っていいだろう」


 それはそうか。……改めて、こうして町を歩けているのは奇跡に近いと感じる。何かの歯車がかみ合わなかったら、生きていることもなかっただろう。


「まずは騎士団支部に情報を流す。組織の密偵はいるだろうが、基本的に騎士団は天敵だ。それに、グリンヴェールよりかは王都やシエルに密偵を配置するだろう」

「流したのがバレたら、計画が変わったりしませんか」

「元々真っ向から勝負を仕掛けて勝つ算段がなければ襲撃なんて計画はしない。備えは重要だ」

「そもそもなんですけど、騎士団って一体何なんでしょう。騎士っていうのはあまり馴染みがなくて」


 この際、気になっていたことを聞いてしまうことに。彼も僕の記憶がないことを知っているので、少しも表情を変えることなく説明してくれる。


「国の金で動く治安組織。人々の頼みを聞いたり、魔物を討伐したりするところは冒険者と同じだ。ただ、誰でもなれるような職業じゃない」

「訓練とか、そういうのが必要なんですか?」

「ああ。王都にある騎士学校を卒業したエリートが集まる。ある意味、努力して得られる特権階級だ。王都の本部にある部隊には、要人の護衛や町の警護など、彼らにしか任せられない仕事も多いと聞く」


 誰でもなれる冒険者。エリートの集まる騎士。同じ仕事をするなら、みんな騎士を頼るんじゃ? その疑問を察したのか、ザーディスさんはこう続ける。


「冒険者は国じゃなく、人の金で動く。そして自由だ。グリンヴェールのようなロマンに金を払う人間が多くいる町では、冒険者協会が幅を利かせている。国もわざわざこういった場所には金をかけない。最低限、治安を守れるだけの配置がされているのみだ」

「最低限? それって良くないんじゃ」

「その通り。だから、優位に立てるよう少しでも情報を流す。俺を見ればわかるだろう、冒険者は信用ならない」

「……僕は結構信用してますよ、あなたのこと。教えてくれてありがとうございます」

「すまない。俺の知識が役に立つのなら、いくらでも伝えよう。なんだって聞いてくれ」


 騎士団に入らないか誘われたことがあった気がするけど、はいと答えていたら学校に入れられていたのかな。読み書きできない僕には無理そうだけど。


 シエルの町と違い、騎士団支部は中央の交差点に沿うように建てられていた。訓練場もなく、一回り小さく見える。どうりで、町中で騎士っぽい人を見かけないわけだ。


 じっくり外観を観察する間もなく、ザーディスさんは自ら扉を開け、中へと入っていった。緊張とか、そういうことは感じないのだろうか。僕は正直、悪いこともしてないのにこういう場所に来るのは嫌なんだけど。

 中は案外というか、聞いていた話から予想するよりもずっと綺麗だった。シエルと比べ木造になっていて、無骨な雰囲気がいくらか緩和されている。なんなら、屋内なのに外より空気が綺麗な気もする。


 ザーディスさんは騎士団にも伝手があるのだろうか。疑問に思っていると、彼は近くの受付に向かう。そこって、生活に関することを相談する場所だけど。


「魔王軍についての話がある。通じる騎士と話をさせてくれないか」

「魔王軍? それって確か……つい最近いらした方も口にしていたような」


 想像よりずっと直球だった。大丈夫なのか、それで。生活のお悩みと全く関係ないが、それでも騎士さんは、困惑しつつ耳を傾けてくれた。僕たちに少し待ってほしいと伝えると、奥の階段を上ってどこかへ向かう。

 僕はこういう待ち時間が苦手だけど、ザーディスさんは本当に堂々としている。暇だということを全く態度に出していない。僕なんて、どんな建物なのかついつい目で追ってしまうのに。


 静かな室内に、コツコツと階段を下りる足音がふたつ。誰かを連れてきてくれたのかと、音のする方に目を向ける。こういう時に話を聞いてくれる人って、どんな人なんだろう。

 すらりとした長い脚、気品を感じる歩き方……目線を上げていくと、見知った顔が目に入る。


「それで私に、ねえ。その名前が出るなんて――あら? チヨリさん?」

「わっ、ソフィアさん。こっちに来てたんですね」


 印象的な桃色の髪を耳にかけ、軽く手を振ってくれる。恥ずかしくて手を振れなかった僕は、軽く会釈をした。思ってもみなかった再開。けれど、以前の件と確かなつながりがあると感じた。

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