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極寒との激突

「デメリット、だったか?」

「……それをどこで?」

「上から聞いた。それだけだ」


 僕は自分の情報を、何人に話したか必死に思い返す。冒険者協会、それと騎士団は僕のことを知っている。けど、歩いて4日も離れているシエルの町での出来事だぞ。どちらかというと怪しいのは騎士団だけど、犯人を捜している場合ではない。


「あの、魔王軍って何ですか? 軍隊? 組織?」


 ザーディスと呼ばれた男は、座っている男へ目線を向ける。奥の男がこくり、と頷いたのを見て、会話を続けた。


「簡単に言うと、魔物を支配すべく立ち上がった組織だ。世界に蔓延り、人間を襲う魔物。奴らを完全に従えてこそ、真の平和が訪れると、ボスは考えている」

「魔物を従える? 倒すんじゃなくてですか。そんなことできるんでしょうか」

「可能だ。“テイム”、という魔物を従えることのできるスキルがある。ランクにより差はあれど、要するにテイムを授かった者が集まっている組織と認識すればいい」


「僕はそんなスキル使えませんよ」

「組織として活動するには、色々と必要らしい。俺のようにテイムを持たない者も、組織を支援するため募っている」

「闇の頭領も、ですか」

「……察しがいいな」


 魔物を従えるのは表向きの理由だろう、と話を聞いて思っていたが、あの盗賊も組織の一員だったとは。緊張が走る。完全に中へ入らなくてよかった。もう、僕はお呼びじゃなさそうだし。


「始末しろ、ザーディス。こいつはまた邪魔をする」

「……俺の仕事は勧誘であって殺しではないはずですが」

「帰還の指輪が欲しくないのか? 影の持っていたものはこちらが回収したと伝えたはずだが」


 ザーディスは強く眉をしかめた。そして、奥の男は嘘をついている。暇つぶしに試したことがあるから、僕が持っているのが本物の指輪なはず。それなのになぜ嘘をつく? このザーディスという人を従わせるために感じるが。


「……報告に、向かってください」

「いい選択だ。妙なことを考えるなよ」


 筋肉質の男は、僕と反対にある、裏の戸口から小屋を出た。追うべきか、指輪の存在を明かすべきか。考える暇もなく、男は去っていく。ザーディスが僕を逃がしてくれそうにない。


 しばらく、無言だった。きっと、これからどうするかをお互いに考えていたんだと思う。魔王軍は、善ではない。現状の限られた情報から導き出される結論。その後、先に沈黙を破ったのは、相手の方だった。


「俺は、俺より強い奴は全員嫌いだ。偉い奴もだ」

「……え?」


 唐突な告白に、気の抜けた声が出る。僕のことを気にせず、発言は続く。


「俺は強くなった。俺にはやりたいことがあった。それでも、人は俺の上に立ち、俺を使う。……奴らは俺に、道を外れろと言っている」


 癇癪を起こしているわけでもなく、嘆くわけでもない。ただ、淡々と心情を語っていた。


「君を殺せば、俺の願いは叶うと思うか? 父や母を悲しませてまで、願いを追うべきか?」

「……わかりません。でも僕は、まだ死にたくない」

「そうか。なら、俺を諦めさせてくれ」


 壁に立てかけられた一本の槍を手にし、僕へ振り向く。逃げるか、戦うかを決めなくては。とにかく小屋を出よう。そう思ったが、足に妙な違和感がまとわりついている。

 僕が目線を下へ向けるのと同時。感じたことのないほどの敵意が、僕の喉元に向けられる。逃げようにも足元は……凍りついていた。


「くそっ!」


 渾身の力で足を振り上げ、破片をまき散らしながら突き刺される槍を弾き飛ばす。もう片方もどうにか振りほどき、すぐさま小屋を飛び出る。その瞬間、僕は姿勢を大きく崩した。

 まるで氷を上を歩くような……つるりと滑り、立ち上がるのも困難。すぐさま周囲を確認する。


「なんだこれ!?」


 小屋の周辺一帯が、スケートリンクのように凍りついている。肌に触れると張り付きかねないほど、本物の氷が一面に張り巡らされていた。


 敵意を床から感じ取った僕は、どうにか転がってその場から離れる。信じられないほど鋭利な氷柱(つらら)が、僕の居た位置から生えていた。

 氷の魔法を使えるようになるスキル。だけど、シルフィーナさんの段階よりひとつ上にあるような気がする。環境にまで左右するなんて、間違いなく段違いに危険。


 体勢を崩した僕を狙うように、上から1メートルほどの鋭い氷柱が降り注ぐ。敵意を通り越して殺意じゃないか。一定の速度で滑る僕の軌道を予測し、正確に降って来る。

 先を僕に向けた円錐のような形状。どうにかそれを確認した僕は、寸でのところで氷柱を掴み、指をめり込ませる。それを力のままに振り回し、振って来るものを弾き飛ばした。


「やはり身体強化か」


 呟かれた声の方向を向く。槍を構えたザーディスが、氷の上を走って――いや違う! 自分の足元だけ元の地面に戻しているじゃないか!

 向こうだけ足の力を全て使える。機動力の差は、ジョブ・キラーがあってさえ明白だった。死の危険を前に極度に緊張しているからか、氷による寒さは感じない。それでも、死が迫るという現実によって背筋が凍るような恐怖はあった。


 凄まじい速度の突きだが、見切れる範囲。生き延びるため、全力で軸をずらす。武器を奪い取ろうと、槍の柄を掴み取った時。


「極寒」


 短い詠唱の後、槍を掴んだ僕の手首までが凍り付く。まずい、と脳が判断する頃には、氷でできたもう一本の槍がこちらに向けられる。

 気づけば、叫んでいた。全力を込めて凍った腕を動かし、ザーディスの身体をよろめかせようと企む。しかしそれは読まれていて、すぐに相手は掴まれた方の槍を手放した。


 互いの手には武器が握られる。眼光がぶつかり合う。お前がそのつもりなら、朝まで食らいついてやる。口には出さなかったが、それほどの気概はある。それを受けて、相手の顔はすこし歪んだ。


 変化を見せたのは、人ではなく地面の方だった。溶けて、いや、床の氷が消滅していく。スキルによる力で生まれた氷だからか、水になることはないらしい。

 維持するには力が持たなかったのだろう。床の氷が完全に消える前に、決着をつけにくる。僕が構えるのと同時に、氷の槍を構え突進してきた。


 搦め手はあるか。氷柱は生えてくるか。手足は凍っていないか。どうする。軌道はまっすぐ、敵意も他からは感じられない。打ち合うか、避けるか、弾くか。切っ先が迫る。ここで戦闘不能にさせるしかない。だが、この違和感は――


 氷の切っ先は僕の頬をかすめていく。今。そう思った時だった。背後から、獣の悲鳴が聞こえたのは。


「っ!?」


 前転し確認する。通常の何倍もの大きさの爪を持った、鳥の魔物。ザーディスの槍は、この魔物の胴体を突き刺していた。集中していて気付かなかった。いつからだ? なぜ攻撃した?


「……これが、奴らのやり方だ」

「助けたんですか? なぜ?」

「勝てないと思ったからだ。俺は、人殺しになりたくなかった」


 どすん、と魔物が地に落ちる音。力なく槍を手放した彼は、ひどく辛そうな顔をしていた。


「無理なんだ。俺には」


 全てを諦めたように、そう言った。

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