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黒髪で派手な服を着た人を探しています

 ……ある地点に赤く印がついていた。よそ者がパッと見てわかるような地図じゃない気がする。どちらかに尋ねるべきだけど……。


「用事があるんなら、ここで解散ね。セラ、アンタは見てて危なっかしいから、もう少しあたしと勉強しなさい」

「は、はい! 私はここで経験を積もうと思います。チヨリさんもお元気で!」

「お世話になりました。セラさんも、シルフィーナさんも、お元気で」

「チヨリもね。また依頼があるなら、冒険者協会を探せばいいわ」


 ……いやいや、別れる流れになっちゃったじゃないか! 言い出しづらい! 案内とか地図の見方とか!

 今更引き留めることもできず、建物を出て、表口に回っていく2人を見送るしかできなかった。僕もとりあえず外に出て、地図と周辺を見比べてみる。


 久方ぶりの独り旅。突っ立って地図を確認するわけにもいかず、とにかく道の端、立ち止まっても邪魔にならない場所を探す。空は赤みがかっていて、空の色に急かされているように感じる。宿を探すべきか、地図の印に向かうべきか。


 何をするにも、場所を理解するのが重要だ。焦りを感じ、自分はこれほど孤独に耐性がなかったのか、と気が付く。常に現地の人……いや、勝手を知っている人と一緒だったからな。知らない場所で1人なのは、森で目覚めた時以来か。


 最終手段として、冒険者協会にガイドを依頼するのを考える。騎士団はあるかわからないし、そもそも場所を知らない。

 まずは一度頑張ってみよう。建物の隙間を探し、路地に少しだけ入って地図を広げる。僕の両手で広げて、ちょうど顔ほどの大きさになる地図には、町の南東を詳しく記されていた。


 南門から町に入った僕たちは、曲がらずまっすぐ冒険者協会に向かっていったはず。少し掴めてきたので、道の端に戻り、地図と照らし合わせてみる。パズルのピースがはまるように、風景と地図が噛み合う。嬉しくて、表情が緩んだ。


 今度は道を歩きつつ、赤い印を目指してみる。地図からして、東門の外から少し外れたところで待っているらしい。町の外、というのが少々気にかかるけど、話を聞きに行きたいという思いが先行する。


 それからは、日没までに到着できるかという焦りと、今晩はどうやって過ごすのかの不安を抱え、できる限り早歩きで進んでいた。町の中央を経由し大通りを進んで、主要な施設の場所を覚えつつ歩く。

 焦燥感もあり、一発で覚えられるかは怪しい。けれど、なんとなくでいいから見ておくのが大事。そう考えよう。


 食料品というよりかは旅のために加工された品、服よりも鎧。冒険者のための施設がこれでもかと並んでいる。広場に行っても、立ち並ぶのは武器屋やポーション屋など。きっと、一般人のための店は別にまとまってある。


 冒険者を相手に商売をするのは、よほど儲かるんだろうな。これも近くにあるらしい遺跡のおかげかも。そう思っていたが、広場を曲がって東門へ向かってしばらく、景色が変わってくる。


 建物が石造りじゃなくなってきた。シエルで見た住宅地より、少し小さい建物のように思える。道行く人も少なくなり、服装が変わった。年季が入っているというか、はっきり言ってしまうと安物の服に見える。


 早めに抜けようと歩いていると、ぴりぴりとした敵意があちこちから向けられていることに気が付く。特に、前からやってくる僕の胸ほどある痩せた男の子。視線を合わせることはないが、態度はあからさまなほどだ。

 すれ違うのは少し危ないか。そう思い、ぐっと横に距離をとってみる。彼は去り際に、軽く舌打ちをしていた。


 走るべきか、とすら考える。清潔感もなく、あまり居座りたいと思わない。だが、それ以上に胸を刺すのは、容赦のないほどの敵意。


 結局、僕の荷物を狙ったスリは、東門に着くまで5度現れた。全員別人で、4人は子供。こんな気持ちになるなら、別の道を通るべきだった。そう後悔しつつ、南より一回り小さな門をくぐっていく。


 外壁によって町と森が区切られているのは、こちらも同じようだ。しかし、西や南、北へ行くほどの需要もないのだろう。町と繋がっていない、深い森が続いているのかもしれない。自然と生活感の臭いが入り交じり、独特な匂いがした。


 明かりがないと地図も読めなくなりそうだ。最後にしっかり確認する。機能しているか怪しい街道から、さらに逸れていくようだ。目的地は森の中。引き返すなら、今が最後のチャンスだろう。

 そもそもが、怪しかった。今になって気づいたわけじゃない。探しているわりに迎えもよこさないし、僕のことを知っている割に不親切だ。僕を探し始めたのはつい先日だと聞いた。携帯電話もないのに、盗賊を捕まえたとどうやって知ったんだ?


 ……放っておくと、事態がこじれていくことも感じている。情報の伝達が速いのなら、僕が地図を受け取ったけど、向かわなかったということもバレそう。他人を巻き込むかもしれない。

 もう何度目かのため息をつく。東通りを歩いてから、複雑な心中になってばかり。行くしかないと、腰ほどの高さがある草をかき分けて進んだ。


 木々の隙間から、簡単な小屋が立っているのが見える。草木は伐採されていて、ひっそりと佇んでいるように感じた。早く用事を済ませて帰ろう。もしかしたら、泊めてくれるかもしれないけど。


 扉の正面に立ち、強めにノックをする。窓は無かったので、中を確認することはできなかった。扉越しから、野太い声で「誰だ?」と声がする。自分の名前を名乗ると、ギイ、と嫌な音を立てて扉が開いた。


「……ザーディス、例の」


 出迎えたのは、盗賊と見まがうほどのワイルドな恰好をした筋骨隆々な男性。部屋の隅には、物静かな男が1人床に座っている。座っていた男がぬっと立ち上がり、こちらへ向かう。


「こんな辺鄙な場所まで、使いもよこさず失礼した。事情は聞いての通りだ」


 静かで、重たい声。その目は僕を見ていたが、どこか遠くを見ているようだった。黒と灰の混じった服装で、覇気はない。だが同時に隙もなく、生気がない。なんなら、死を纏っているようにすら覚える。お礼をしたい、という感情を抱く人間には見えなかった。


「入ってくれ」


 それを聞いて、首を横に振るわけではないが、拒絶に近い反応をとる。


「ここじゃ、ダメですかね。今日はもう遅いですし」

「……まあ、そう時間もかからないしいいだろう。俺はザーディスという。冒険者だ」


 名乗ったのは大人しい男の方で、もう片方は名乗らず、入れ替わるように部屋の隅へ向かう。


「影を捕まえた人物がどういう奴なのか、興味があった。そこにいる男も同じだ。だから、いくつか質問に答えてもらいたい」

「……答えられることなら、どうぞ」

「影、いや、闇の頭領を捕まえようと思ったのはなぜだ? 奴は危険な男だ。腕も立ち、盗みも殺しもやる。怖くはなかったのか?」

「賞金があったからです。もちろん怖かったですよ」


 この人たちは、例の盗賊を()と呼んだ。言い分からして、被害者というより仲間といった方がしっくりくるな。きな臭くなってきた。


「そうか。その行動、俺の上司が高く評価している。勧誘しにきたというわけだ」

「勧誘?」


「魔王軍に入らないか、という誘いだ」


 ……なんだろう、それ。なんとなく悪そうな響きがするし、入りたいと思う気持ちが欠片も湧かない。敵役っぽい名前だし。というわけで、伝家の宝刀となりつつある文句で返すことにした。


「僕、仕事に就けないんです。なのでごめんなさい、お断りします」


 今回は口が勝手に動くことはなく、自分の意思だ。しかし、意外にも僕の発言はすぐに受け入れられる。断ったら襲われるのかと思っていたが――

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