これまでのお話と、出会った人のこと
今日はシエルの町で過ごす最後の夜。床よりかはだいぶ寝心地がいいベッドの上で、ぼーっと考え事にふけっていた。ここで無事に過ごせていることに感謝しつつ、これまでの出来事を思い返してみる――
『これまであったこと』
気が付いたら森の中に立っていた僕は、森の外を目指そうとふらふらしていると、盗賊に襲われているセラさんと出会った。この時点でわずかに開花していたジョブ・キラーを活用し、どうにか切り抜けることができた。この頃に覚えていた前世の記憶は、今になると思い出せない。
反射的に頭に浮かぶ単語以外は、全て忘れてしまったのかも……。もはや、思い出そうとしても何も残っちゃいない。
シエルの町に着いた僕たちは、一緒にスキル鑑定を受けに行った。そこで出会ったのが、鑑定士のリックさん。要するに出世のため手柄を独占したかったわけだけど、悪い人に見えなかった僕は、彼に協力した。結果的に泊めてもらえたので、よかったのかも。
判明したスキルについては……謎が多い。また後で考えよう。
冒険者協会へ行くセラさんについていった僕は、それはもうカンカンなシルフィーナさんと出会った。今は多少落ち着いたが、この時は本当にブチギレていた。理由を考えてみたが、彼女が盗まれたという指輪、あれが相当大切なものだったのかも。犯人は捕まったし、取り戻せていたらいいけど。
結局シルフィーナさんを止めるために戦うこととなった。協会も騎士団も、喧嘩ぐらいじゃ関わってくれないのだろうか。この時なんとなく実感したのは、スキルが武器を伝う感覚。僕が強くなるように、持っているものも強くなっている気がする。
どうにか落ち着かせることに成功した僕は、彼女から神託と闇の頭領について聞いた。女神様からのメッセージ。それがこの世界においてどれほど重大なのか、いまだに半信半疑だ。
その晩、リックさんの家にお世話になった後、僕はお金のために賞金首の闇の頭領を捕まえにいった。接敵していたシルフィーナさんを発見できたおかげで捕まえることができ、そのまま騎士団支部へ運んでいく。多分、指輪を取り返そうと外に出ていたのかも。
無事に闇の頭領を騎士団に引き渡す。そこにいたのはソフィアさん。王都から来た騎士団の方で、多分偉い人。というか、そもそも騎士団ってどんな組織なんだ。必要になったら、誰かに質問するべきだな。
翌日になって、賞金を貰うついでに何故かソフィアさんと手合わせすることに。まったく敵意を感じなかったことに驚いたけど、騎士も立派な職業らしく、スキルのおかげで勝つことができた。僕は全力だったけど、まだ彼女は本気を出していない気がする。
それから賞金を分けて、買い物をして、今に至る。女神様は本当にこの世界にいるんだろうか? やり取りをする方法は? 不安は色々あるけれど、まずは手掛かりを得るしかない。
『セラについて』
セラさんは僕がこの世界にやってきて初めて出会った人……なはず。レアスキルの「治療」を授かった冒険者で、町の近くにあった村からやってきたらしい。
初めて見た時に髪の色が独特だと驚いた記憶がある。でも、町を歩いていると結構色々な髪の人を見かけるから、すっかり慣れてしまった。
彼女は一体どうして冒険者を目指したのだろう? 最高の冒険者って一体なんなんだろうか。ランクが高いこと、偉業を成し遂げること。果てしない高見を目指しているのか、それとも目標が定まっているのか。
教養がある。いや、僕とくらべたら全員がそうだけど、村で育ったというには物事をよく知っているような。スキルに関することは、それくらい常識なのかもしれない。
声や華奢な身体から受ける印象より、ずっと正義感があるようだ。初対面の時とはまた違う気がする。もしかしたら、授かったスキルがセラさんに勇気を与えているのかもしれない。
観察力があるというか、状況を見て判断するのが上手な気がする。いざ魔物と戦ったとしても、足を引っ張ることは無さそう。
『リックについて』
リックさんはどこか近寄りがたい印象だったけど、今はすっかり慣れた。彼の持つスキルはもちろん「鑑定」なんだろうけど、それを授かった人の中でもひときわ強い力を持っているはず。もっと大きな場所で働いていてもおかしくはないと思ったけど……なにか事情があるのかな。
この世界で出来た友人の中で、一番家庭的な面を見たのがリックさんだ。料理上手で、家も綺麗だし、生活の知識に長けている。すっかり世話になったけど、今後はできるだけ頼らないように努めたい。いや、いざとなったら泊まらせてもらうか。
身長は高いし顔立ちも整っている方だと思うけど、仕事モードの胡散臭さがかなり悪さをしていそう。いつもの時とのギャップを見ると、驚く人も多そうだ。綺麗な人と台所に立てる日は来るのか……?
世界一の鑑定士になる、という夢は、この町に居て叶えられる夢なんだろうか。いつかは都会に出て、独立して鑑定業を……やってるかなぁ? 実力はありそうだし、個人でやった方がいいのかも。
『シルフィーナについて』
高飛車で、プライドが高くて、名前も長い。あっ、これは絶対言っちゃダメだ。「風魔法」に関するスキルを持っているはずだけど、ランクまでは知らないし、詳細を聞いていない。いつか教えてくれるだろうか?
王都で活躍している冒険者だけど、1人で行動するのを好んでいるのかな。二つ名からして孤高らしいし。そもそも、性格上誰かと行動するのは合わないのかも。そう考えると、今の彼女は特別機嫌がいいのかもしれない。
はきはきと喋るし、男勝りな面もあるけど、ガサツなようには全く見えない。服装や見た目にもかなり気を使っているような気がする。他の冒険者よりも、外見の面で目を引く存在ではあるな。
神託を聞いて王都から南へやってきたようだけど、結局何が目的だったのだろう。お宝? それともお金? 隠しているようには見えないが、はっきりとした目標や夢は、まだ知らない。いつか聞いてみよう。
『自分のスキルについて』
そういえば、僕にはふたつスキルがあるんだったか。知らない以上なんともできないけど、もう少し汎用的なものだったら嬉しいな。
もう片方の問題児に関しては、とても謎が多い。強さの面では間違いなく信用できそうだけど、一体どうやって仕事に就いていると判断しているんだろう? 女神様に任せてるのかな。
もうひとつ特徴的な点として、解釈次第である程度融通が利く。自分の身体だけじゃなく、持っている物も強くなる。相手がスキルを使っても、問答無用で手が届く。1回ぐらい賞金を貰うのはセーフ。自分の発想が強さに直結しているのだろうか。
……そろそろ限界だ。明日も早いだろうし、次の町までは危険な道のりになるかもしれない。全身にぐっと力を入れて、息を吐きながら力を抜いていく。誰に届くわけでもないが、おやすみなさい、と心の中で思った。




