明るい服が似合うよ
シエルの町の中心部、鑑定所などがある広場から、いくつか幅の広い通りがある。そのうちまだ行ったことない方には、多くの店が立ち並ぶ場所があるとのこと。
僕は先を歩く冒険者2人についていきながら、改めて周囲の景色、特に、どんな店があるのかを注目しつつ歩いていた。
この世界にやってきてまだ一日だが、酒場や協会に集まる人を見たり、店の売り物を観察したりしていると、冒険者という職業がとても人気な仕事であるとわかる。
多くの人が出入りしているあの店、外から内装は見えないが、看板には絵が描いてあった。ガラス瓶に入った液体だろうか。
「ポーションから買うの? 割れ物は最後にした方がいいと思うけど」
「なんですかポーションって。……まさか、薬?」
「アンタすごい顔してるわよ。店の人に失礼だからやめなさい。……その通り、薬よ。傷を治したり、力を強くしたりするみたいな」
「えっ、何が入ってるんですかそれ。飲んで大丈夫なんですか。そもそもどうやって作ってるんですか」
「どうしたのよさっきから。興味深々なのか引いてるのかどっちの感情なのよそれは」
私の村でもみんな使ってましたよ! と振り向いたセラさんが話す。ついでに、色々と教えてくれた。
材料を集め、専用のスキルが付与された魔道具を使えば、誰にでも作れるとのこと。しかしあくまで簡単なものであって、店に並べるような効果のあるものは、錬金術のスキルを授かるとか、専門の知識を学ぶなどをしないと作成はほぼ不可能らしい。
「いやあ、スキルの力ってとんでもないですね。すごいですよこれは」
「できれば自分が使ってるスキルの異常さで気づいてほしかったわね」
鋭い意見が僕の心に刺さる。仰る通りです。
とにかく、僕が言いたいのは、やっぱり思っていたような生活の品のみが売られているわけじゃないってこと。
食べ物、生活用品、服、娯楽。それと同じくらいに、旅をするための道具や、戦うための武器などが売られていて、それを求める人がいる。この異常さ、新鮮さ。誰かに共感してほしいが、この世界に分かってくれる人はいないだろう。
その後、まずは荷物を入れるにはちゃんとしたカバンを買うべきだと言われ、歩き回ってカバン屋を探す。
「どうせお金持ってるんだからいいのを買っときなさい」というアドバイスの通り、見つけた店内で金貨を2枚と銀貨5枚の背負いカバンを買った。魔物や動物の皮が適切に使われている分、丈夫で大容量とのこと。
銀貨がないので金貨を3枚で払ったところ、銀貨が5枚帰って来た。つまり、銀が10枚で金1枚。なるほど、覚えておこう。
買い物に時間をとるわけにはいかないと、女性陣の案内はスピードを増す。火種や簡単な寝具、携帯食料など、僕の旅というイメージと真っ先に結び付くものを買っていく。
「当たり前だけど、あたしたちの分も用意しとくのよ。こいつは依頼人であたしらは護衛なんだから」
「思ったんですけど依頼人の僕に対して当たりが強くないですか……?」
「優しくしてほしいんなら他を探すべきだったわね」
実力は確か……というか、こういう性格でもやってこれたのだから、今更依頼人に優しくすることもないのか。それか、舐められないのが第一なんだろう。次の町までに必要な物資の目安は、見ての通り彼女に頼りっきりなので、黙っておくことにしよう。
「直前に買うもの以外はまあ大体揃ったわね。他に買うものはある?」
立ち並んだ店を渡り歩き、もう少し専門的なものや、大通りでは見かけないような道具まで探しにいくかの話題になった。危険な魔物を討伐するわけでもないので、対策にお金をかける必要はないらしい。あくまで興味があるかという話だった。
主要なものも碌に知らないのにな、と思いながら、周りにあるお店を眺める。何か忘れているような。そう感じていた僕の目に入ったのは――服屋だった。
雷に打たれたような衝撃が走る。今、僕は(おそらく)そこそこお金を持っている。そして、持っている服はこの上下一着しかない。買える。何も気にすることがなく、服が買える。
「チヨリさん? どうされました?」
「セラさん、僕はそこで服を買ってきます。セラさんも一緒にいかがですか?」
「服ですか? えーっと」
セラさんは僕の服とズボンを見た後、困った顔で返事をする。
「私は何着かあるし、や、やめとこうかなぁ……」
「そうですか……。じゃあ、シルフィーナさんはいかがですか?」
「アンタこの流れでよく誘えるわね。嫌よ」
「ええっ!? なんで!?」
冒険者というものは、ただの衣服を着ることは少ないのだろうか。例えば、スキルが付与されているものを着るとか、丈夫な服を着るとか。そういうことだと思っていたが、その願望はあっけなく破壊される。
「じゃあ、あたしたちを連れてって何をするか言ってみなさい」
「そりゃあもちろん、とびっきりの明るい服をおすすめしようかと思ってましたが」
「そういうとこよ。そういうとこなのよ」
「な、どうしてですか! おふたりには明るい色の服がきっと似合いますよ!」
そう言って、ちらりとセラさんに助けを求める。ちょっと頬を赤らめているが、僕の言い分もわかってくれるだろう。くれるよね。
「チヨリさんのセンスはちょっと、その、変わっていますので……」
「うぐっ!」
「女性を買い物に誘うのなら、もう少し段階を踏むべきね」
「たしかに!」
……僕の負けだ。もう服以外のものは揃っているし、自由時間にして、明日集合しよう。僕はこの町における最高に明るい服を探す旅に出よう。1人で。
やさぐれるのはここまでにして、2人には同じ宿に泊まること、明日の朝迎えにいくことを伝え、自由時間としてもらった。
今が何時かなんて確認もせず、飛び込むように服屋へ駆け込んでいく。
「変よね、アイツ」
「私もすごく……そう思います……」
何か言われている気がするが、今は服を選びに行かせてもらおう。
入店した直後、ずきんと一瞬頭が痛み、昔の記憶がよぎる。ここはいわゆる建物の中にあるタイプの店ではなく、商店街にあるような、ドアがなく個人の経営する店に近い。人の行き交う風景がおぼろげながら頭に浮かび、泡のように消えた。
なつかしさ、だろうか。僕はここを全く知らないが、忘れかけていた景色と結びつくものがあったのかも。外にある森の中に立っていた頃と比べ、かなりの記憶を失ったという自覚はある。今はもう、住んでいた国や生まれた場所の名前すら思い出せない。
こうしてふと無意識に思い出す以外に、覚えていることはあるのだろうか。販売されている服を眺めながら、過去に思いをはせた。




