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護衛依頼をしよう

 無事金貨を受け取ってもらえた後、僕たちはもう少し会話を続けていた。これ以上引き留めるのも悪い、と伝えたが、今日一日くらいは休憩したって問題ないと言われた。……たしかに。さっき一日ぐらい余裕で過ごせる金貨を渡したんだった。


「そういえば、おふたりはどうして一緒に行動を?」

「えっと、チヨリさんが昨日酒場から出た後に、ご飯をご馳走してもらったんです」


 そんなことが。いや、でもその後も一緒にいたような。


「そしたら、同じ宿で隣の部屋だったんです。闇の頭領を捕まえにいくから、手伝いなさいと言われまして」

「ああ、だから一緒にいたんですね! 実際、戦っていたんだから驚きです」


 アンタがいなかったら逃げられてただろうけど、とシルフィーナさんはぼそりと話した。「見つけられたのはの2人のおかげですよ」と返すと、彼女は顔を背けて不機嫌そうに肘をついた。なぜ不機嫌に。


「私も先輩の冒険者さんから色々教えてもらおうと思って、今日の朝もご一緒させてもらっていたんです」

「そういうこと。こいつに雑用を全部任せて何か依頼でも受けようかと思ってたのよ」


「ええっ、シルフィーさんそんなつもりだったんですか!? 治療スキルはいたら便利だからって仰ってたじゃないですか!」

「あーもう、うるさいわね。そうよそうそうその通り」


 あからさまに返事が適当になっている……。雑用に関しては照れ隠しだろう。結構人柄がわかってきたような。かっとなりやすいけど、根は悪い人じゃないのだろう。


 気になっていたこともわかったので、別れを告げる前に伝えたいことを話そうと考えた。ちょっと姿勢を正して、これからのことなんですが、と切り出す。


「明日にはこの町を出ようと思います。一応、挨拶はしておこうと思いまして」

「そう。行く当てはあるの? 一番近くてもグリンヴェールの町だけど」

「一旦そこを経由すると思います。実は、女神様に会おうと思っていて。いるのかわかりませんけど」


 ふたりの視線が一気に集まり、少々焦る。まあ、変なことを言っていると思われても仕方ないだろう。


「北にある大聖堂、っていうところに手掛かりがあるかもしれなくて。そこを目指します」


「……知ってたけど、だいぶ変わってるわよね、アンタ」

「私もそう思います……」


 今日一日で準備して、明日には北へ出発する。それくらいしか決まっていないざっくりとした計画。まあ、金貨が25枚もあればどうにかなるだろうという楽観的な視点は否めない。


「ここから北って、魔物も結構出てくるのよ? アンタのことだから戦闘する分には心配してないけど、相応に準備が必要になるわよ。そこそこ距離あるし」

「まさか魔物って、道を歩いてるところでも襲ってきたりします?」

「するわね。……何にも知らないの?」


 知らない。魔物というのがどういう生き物なのかもわからない。呆れられるのは知っていたので、畳みかけるようにこう話す。


「全然知らないです。あと、僕のスキルって、魔物に対して無力なんですよね。だから戦えもしないです。……護衛の人を雇った方がいいかも」

「嘘でしょ!? じゃあ何、人間にしか効果がないの? 流石ユニークスキルねぇ」


 シルフィーナさんの大きなため息に、僕も面目なく感じる。うーん、こういうところでお金が必要になるのか。残った金貨で足りるのか。護衛依頼の相場は? 右手で頭を抱え、ぐるぐると思考が止まらなくなりそうな時だった。


「私たちが、次の町まで護衛しますよ!」

「……あたしが護衛してあげてもいいわ」


 2人が同時に口を開く。彼女らはお互いに目を向け、セラさんは笑い、シルフィーナさんはぷいっと顔を逸らす。

 そうだ、この2人に頼めばよかったんじゃないか。王都で有名な冒険者に、新人とはいえ治療スキルの持ち主。彼女たちといれば安心だ。……どちらも女性なのがちょっと気まずい旅になりそうだけど。


「ぜひお願いします! そうですよね、お願いすればよかったんだ!」


「明日出るんでしょ? じゃあ、とっとと準備するわよ。セラ、アンタは初めての依頼なんだから、流れをしっかり見ておきなさいよね」

「はい! 頑張って覚えます!」


 こういう時に経験者は頼りになるなぁ。実績のため正式に冒険者協会に依頼をして、それを受けたという記録を残しに行くとのこと。席を立って、先導するシルフィーナさんについていくことになった。


 宿を出て、また冒険者協会へと戻っていく。ずんずんと先導するシルフィーナさんからは、人混みだろうと遠慮せず進む胆力を感じさせられた。


「酒場とくっついてる方が掲示板もあって人気だけど、こっちでも受けられるのよ」


 彼女はそう言って、酒場に併設された建物へ入っていく。……うん、逆かこれは。元々協会の建物に酒場が併設されていて、僕は酒場の方にしか目がいかなかったと。中は酒場ほど広くはないが、複数の受付があり、人も少ない。どうしてみんなこっちを利用しないんだろう。


「結局人の集まってる方が人気なのよ。ほら、ついてきなさい」


 疑問が顔に出ていたか。言われるがままに、受付へと案内される。間違いをしないよう、胸に手を当てて深呼吸をする。いざこうして他人に物事を頼むとなると、緊張で手が止まっちゃうな。まあ、やらないと次の町に行けないだろうし、手続きをする。


 隣でアドバイスをくれる高飛車冒険者さんのサポートもあり、スムーズに事は進んだ。報酬などは前払いしており、あとは護衛をするだけ。期間もなく、無事送り届ければそれでいい、という条件で依頼した。

 言葉に詰まったらちらりとアイコンタクトを送り、面倒そうな顔をしたシルフィーナさんから助言を引き出す。


「じゃあ後は受ける側の話だから。セラ、次はアンタとあたしの番よ」


 2人は手元から手帳を取り出し、受付に開いて差し出した。向こうの人がそれを預かると、ハンコを押し、何かを手帳に書いて、またこちらに戻す。

 いかにも冒険者っぽいやり取りだったので、おおだのわあだの声が漏れないよう、口を手で覆っていた。うん、正解だったな。ちょっと感動したし。


「終わったらさっさと外に出る! 後ろの人を待たせないようにしなさい」


 セラさんと僕は背中を押されながら、建物の外へと押し出された。……昨日初めて会った時はなんであんなにキレてたんだ? 別人か? 口調はきついが、つきものがとれたみたいに常識的になっているというか。

 こんなこと口に出したら、文字通りズタズタにされてしまいそうなので、もう少し聞けそうなタイミングで聞いてみるとする。


「次は買い物でしょ? さっさと行きましょ」

「臨時収入があったので、いろいろ買えそうですねっ」


 セラさんがこちらを見て、にっこりと微笑む。あまりに自然な笑顔だったので、どくん、と心臓が跳ねる。顔に出ないように、動きに出ないように。そう思った僕は、もう一度口を手で覆っていた。


「だ、大丈夫ですか?」


 大丈夫です、とだけ伝える。まっすぐな笑顔に慣れていないとは、人に向けて言うべきではないだろう。恥ずかしいし。

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