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ご褒美は素直に貰えない

「チヨリ、騎士団のとこには朝に行かなきゃだめなんだろ? 起きた方がいいんじゃないか」


 誰かが僕に呼び掛けている。知らない家の匂いだ。実家じゃないし、ホテルでも、おばあちゃんの家でもない。というか床が硬い。なんか身体も痛い。

 まだアラームも鳴ってないのに、誰が僕を起こしてるんだ……? 僕はこんなことをしてる場合じゃなくて――


「チヨリ!」

「どひゃあっ!?」

「うわっ!?」


 一気に意識が覚醒し、飛び起きるように目覚めた。さっきまで僕は何を考えていた? ここは夢か?


「お、おはようチヨリ。悪い夢でも見てたのか?」


 この人は……リックさんだ。そう、僕のスキルを鑑定して、家に泊めてくれた人。夢じゃ、ない。寝て目覚めて、僕はここに存在している。手は動くし指も自由自在。ほっぺをつねっても痛い。


「おはよう、ございます。あー、すみません。ちょっと混乱してたかも」

「覚えてるのか? 騎士団の所に行かなきゃなんだろ?」

「そうでした!」


 顔洗って朝飯ぐらいは食ってけよ、と彼はいい、台所へ向かった。僕も例の水が出る杖を使うため、リックさんについていく。ハムはない! と宣言された。何も肉を期待してたわけじゃないんだけどな。

 水を飲んで、顔を洗って、今ここが現実であるという実感が出てくる。水は冷たくもなくぬるいが、意識をさっぱりさせるのには効果的だった。


 今日は待ってろ、と言われたので、毛布のそばに座って様子を見守る。薄く切ったパンに、目玉焼きと何かを挟んでいる。色からして、チーズかな。


「肉は切らしてるからないぞ。これに昨日のスープの残りで、俺の世話は最後だ」

「何から何まで、ありがとうございます」

「んじゃ、食べようぜ」


 うんうん、なんだかこういう朝食はすごく馴染みがあって嬉しくなるな。多分、ここに来る前も似たようなものを食べていたんだろう。懐かしさを感じながら、全ていただく。

 やっぱりチーズだった! と、口にしてから気が付いた。パンは硬めで変わった味をしているが、卵とチーズのおかげかそれほど気にならない。スープも平らげて、朝食の時間を終えた。


 それから後片付けを手伝い、この家を出る時がやってくる。また会えるとは知っていているので、寂しくはない。なんなら、買い物をして鑑定が必要になったらすぐ戻って来るつもりだ。

 袋を肩にかけ、靴を履き、灯が消えたランタンを持ったら、あとは別れの挨拶をするだけ。扉の前で、いくつかやり取りを交わす。


「今日は休みだから、何かあったらまた戻ってこい。どーしてもっていうなら泊めてやるが、俺としちゃ鑑定の方が歓迎だな。いや、金があるんだから宿に行けって話か」

「懸賞金を貰ったら、またここに寄りますね。まだまだ常識に欠けてるので、また色々教えてくれれば嬉しいです」

「まあ、それぐらいなら。んじゃ、またな。いつでも鑑定……あー、いつもは鑑定所で待ってる。受付に一言通してくれ」

「はい! ではまた!」


 鍵を開けてもらい、外に出る。日の光と共に、新たな町の姿が目に入った。


 日の出からすぐに外に出たら、これほど騒がしくはないはず。少し寝すぎてしまったかな、と考えつつ、様変わりした大通りを歩いていく。

 昨日の昼よりも賑やかなんじゃないか。小さいと思ってたけど、町は町だ。押し流されるほどじゃないけど、気を付けて歩かないと。


 人の足音と声だけで音楽が流れているような。歩いているだけで体力が持っていかれるな、と思い、一度路地に進むか考える。だめだ、ただでさえ町の構造が頭に入ってないのに、路地なんかに行ったら絶対迷う。


 広間に向かっていくにつれて人通りのピークが訪れ、騎士団支部へ向かう時には若干落ち着いた。それでも昨晩を思うと驚くほどの人通り。こちらが本来の姿なんだろう。

 気になったのが、時折僕を怪訝な目で見てきたり、避けようとする視線が向くだけじゃなく、僕を見て驚く人がいたこと。今のところ気が付いてないけど、一目見て珍しいと思うポイントがあるのかもしれない。


 そこそこ歩いて、ようやく騎士団支部に到着。人は多くてもここに向かっているのは僕以外にいなかった。たまたま朝だったからだろうけど、平和だという証かも。


 両開きの扉は開かれていたので、そのまま建物の中へ。中に居た騎士の人に声をかけ、昨晩のことを軽く尋ねようとしたら……


「ああ、あなたがチヨリさんですね。すぐにソフィアさんをお呼びしますので、こちらへどうぞ」


 物凄く話が速かった。僕が寝てる間も仕事尽くめだったのだろうか。心の中で、お疲れ様です、と念じておく。

 昨晩とは別の廊下に案内され、部屋の前に進んでいく。中でお待ちください、と言われたので、ドアの中から部屋を覗いてみた。


 わっ、とつい言ってしまった。なんというか、ちょっぴり豪華だったのだ。応接室というか、客人を迎える場所なのかも。椅子の代わりにソファーが置いてあるし、テーブルも石で出来ている。窓もついていて、日当たりも良かった。


 こういう場所があるなんて。緊張してきたので浅くソファーに座りながら、ソフィアさんを待つ。何を言われるかドキドキしながら、数分待っていた。

 軽いノックの後、ドアが開かれる。ソフィアさんと目が合い、すぐに会釈した。


「おはようございます、チヨリさん。ちゃんと懸賞金をお持ちしましたよ」

「おはようございます……」


 対面のソファーに座ったソフィアさんは、テーブルにずっしりとした布袋を置いた。じゃらじゃらと音が聞こえる。中には相当な枚数の貨幣が入っているのがわかった。

 ただ、僕はまだ動かない。まだソフィアさんの“お話”があるような気がして。


「ここに来るまで、誰にも声をかけられなかった? すぐ噂が広まって大変だったの」

「噂、というと?」


「ピンクの服を着た謎の男が、闇の頭領を捕まえた~なんて」

「……幸い、誰にも話しかけられることはなかったですね」


 そういうことかぁ。色々と身分をぼかした結果、服の色だけが独り歩きしているのかも。確かに、町行く人にこれだけ派手な服装の人はいなかった。だから驚かれたのか。


「それぐらい、みんな不安がってたのよ。代表するみたいだけど、改めてお礼を言わせて。本当にありがとう」

「いえいえそんな。賞金目当てだったんですが、結果的に平和へ貢献できてよかったです」


 ソフィアさんはちらりと金貨が入った袋の方に目をやった後、布袋の隣にひとつの指輪を置いた。気になったので観察してみたが、指輪に付けられた平べったく小さな宝石に、ひびが入っている。


「昨晩、騎士団の鑑定士に、盗賊の持ち物をだいたい鑑定してもらったの。装飾品はほぼ盗品をつけていたようだけど、これだけ持ち主がいないみたいなのよ」

「これって、一体なんなんです? ただの指輪ってわけじゃないんですよね」

「その通り。壊れていたから力は少し失われているけど、立派な魔道具よ」


 うわーっ、また新しい単語が。考察でしかないが、スキルが付与された道具の名称が魔道具なんだろう。多分。だから、杖から火とか水とかが出てくるアレも魔道具。

 じゃあ付与ってなんだよと悩みが尽きないが、今は話を聞くのを優先しよう。


「落とし主の届け出がないし、騎士団で預かるより、あなたが持っていた方がいいんじゃないか、って提案したの」

「それは……ありがとうございます」


「この指輪は“帰還”のスキルが付与されているみたい。壊れてるから完全ではないけれど、人1人を往復させるぐらいなら十分じゃないかしら」

「まさか往復というと、瞬間移動ができるみたいなものでしょうか」

「ええ。行ったことのある思い出の場所に、一瞬で移動できる優れものよ」


 おお、と無意識に声を発してしまう。そんなものを渡されるなんて、僕は結構すごいことを成し遂げたんじゃないか? 今更になって照れてくるというか、金銭の価値を知らない現状、すごい物品を見るとテンションがあがる。


「あなたのことを称えて、この帰還の指輪もあげちゃう」


 ぱあっと僕の表情が明るくなったと思う。それを見て、ソフィアさんはくすくすと笑った。


「ただし、私との手合わせで勝ったらね?」


 あっ、全然信用されてないなこれ。鏡を見なくてもわかる。僕の顔から一瞬で笑顔が消えた。

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