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お話聞かせて?

 騎士団支部の中はかなり広く、入口の部屋からまっすぐ続く廊下が2方向に伸びていて、さらに階段まである。武装をした騎士が多く集まるのに加えて、業務をここで行うためだろうか。外から見た時にはわからなかったけど、冒険者協会よりもかなり大きそう。

 僕はその廊下の片方を進みながら、じっと内装を観察していた。掃除が行き届いているし、しっかりした組織、という印象は強い。


「ここよ。そこの椅子に座ってちょうだい」


 案内されたのは、鑑定を受けた部屋と同じく殺風景な部屋。テーブル越しに椅子が2つ配置されている、ってほんとによく見るな。2回目だけど。座っていいそうなので、とりあえず椅子に座って対応を待つ。

 同じく殺風景な部屋繋がりで思い出したことがあった。これからのことも考えて気になったので、質問してみる。


「ここ、防音のスキルが付与されてるんですか?」

「一生で誰もが利用する鑑定所じゃないから、町もそんなにお金を出してくれないの。普通の部屋よ」


 なるほど。しかしまあ、騎士団の中というだけあって、周りにいるのは騎士だけだろう。声が漏れたりするのはそんなに心配じゃない、というより、大きな声で会話することもないか。

 目の前にソフィアさんが座って、こちらを数秒見つめる。テーブルに置かれていた紙とインク、ペンをそばに寄せると、質問を始めた。


「私、あの盗賊を捕まえるためにここへ来たから、びっくりしちゃった。もう捕まってたんだもの。詳しく聞かせて?」

「はい。ええっと――」


 動機から、詳しく話していく。こういうのに嘘はよくないと思ったから、言う、言わないで情報の量をコントロールするように努めた。

 生い立ちというか、なぜこの町に来たかは言わず、単純に金貨が目当てで夜の町を歩いていたこと。運よく襲われている2人を発見し、スキルを駆使して捕獲に成功したこと。ざっくりとだけど、こういう感じ。


「なるほど。じゃあ、あなたは賞金稼ぎさん?」


 僕が喋ろうとするよりも先に、身体が勝手に口を開く。


「いえ。そういうのではないです」

「それなら、冒険者さん?」

「冒険者でもないです」


 かはっ、と軽く息を吐く。勝手に動かれると、本当に驚くのでやめてほしい。もう少しマイルドに否定させてほしいんだけど。

 彼女の表情は穏やかなまま変わらない。とっているメモの内容も読めないので、相手がどう受け取ったのかは察することができなかった。もちろん疑わしいとは思う……というかあらゆることが嘘に聞こえそうだけど、黙って座っておく。


「うーん。嘘をついてるようには見えないし、実際にあなたが捕まえたのはわかるのだけれど、ちょっと謎が多いかな」

「自分でもそう思います……」

「嫌でなかったら、あなたのことをもう少し聞かせて?」


 ソフィアさんは僕よりも座高が高く、テーブル越しの真正面に座っているのもあって、常にプレッシャーを放っているように感じた。

 信じてもらえるかは置いておいて、大人しく記憶がないことと、いつのまにか近くの森にいたことを伝えてみよう。ついでにスキルの内容も。証明書があるしなんとかなってくれ。


「気づいたら服以外何も持っていなくて、森の中に立ってたのね。それはそれで事件な気がするけど」

「どこかから拉致されたわけではない、と言いたいんですが、記憶も曖昧なんですよね」

「それに、ユニークスキルをお持ちなのね。うーん、それは納得かも」


 僕の服や腕を見た後、こう続ける。


「あなたって、全く戦えるようには見えないし、殺気もないから不思議だったの。とても強力なスキルみたいね」

「はい。多分、デメリットがある分は強いと思います……」


 もうほぼ圧に負けて、発言が尻すぼみになる。部屋の空気に緊張感はないのに、この人と会話するだけですごく疲れるな。目線を合わせて会話をするのも、できるだけ避けたい。余計なことを口走りそうだから。


「今晩、私たちが頑張って事後処理をするから、また明日の朝にここへ来てくださる? ちゃんと懸賞金をお渡しするわ」

「ありがとうございます。また来ます」

「ええ。今日は帰って大丈夫よ。また困ったら騎士団を頼ってね。生活の面でも助けてあげられるから」


 町の平和を守ってくれてありがとう。彼女はそう言って、扉を開ける僕を見送る。最後の発言には、不思議とプレッシャーを感じることはなかった。

 すたすたと廊下を歩いて入口まで行くと、すれ違い際に騎士から声をかけられる。セラさんはもう宿に戻った、という伝言だった。ランタンも騎士さんが持っていてくれたようで、今更僕も思い出す。そういえば渡したままだったような。


 火は消えているものの、原因の盗賊を捕まえたのだから、明るく広い道を進んでいけば問題なさそう。というわけで、騎士団支部を後にした。また来るんだから、道を覚えておかないと。


 リックさんの家から出て、どれくらい経っただろうか。日没した少し後から行動を始めたし、体感ではまだ深夜というほどではない。起きていてくれているとありがたいけど。


 騎士団支部から広場、広場から住宅地と、段階に分けて頭に叩き込む。夜中なので日中ほど風景を参考にできないが、明日は最悪誰かに道を聞けばなんとかなるだろう。

 今はとにかくリックさんの所へ戻れるかだ。記憶を失ってはいても、物覚えが悪くなってないことを祈る。


 行きは気にしていなかったが、僕は結構な距離を歩いていたことを、帰りに気が付く。リックさんの家に着くころには、かなり時間が経っているような気がした。歩いた分、ふとももが少し痛い。

 慎重に、力を入れすぎないようにノックをする。その後、チヨリです、と迷惑にならなさそうな程度で声をあげた。10数秒して、カチャ、と鍵の開く音がする。


「遅かったじゃないか。いつもなら寝てたんだが、結果が気になってさ。どうだった?」

「バッチリです。明日懸賞金がもらえるそうですよ」

「マジかよ!? っと、声がでかすぎたな。いや、ほんとに捕まえるとは」


 出迎えてくれたリックさんに、にこにこと出来事を伝える。こうして人に話していると、金貨100枚という(おそらく)大金がもらえることの喜びが湧き出てきた。ある程度は何に使うか決めているけど、詳しいことはリックさんたちに聞いておかないと。


 靴を抜いで、また部屋にあがらせてもらう。大部屋のど真ん中に置かれたテーブルの横に、毛布らしきものが敷かれている。


「悪いが、ベッドまでは用意できなかった。出てってる間に掃除しといたから、そこで頼む。今日はもう寝るぞ」

「わかりました!」


 異世界に来て1日目が、終わろうとしている。横になって、今日の出来事を振り返ってみる。色んな人の表情、声、仕草。見知らぬ町に建物。とても長い1日だった。

 いざ横になって眠れるのか心配だったけど、それ以上に疲れが上回った。寝床があることに感謝しつつ、重たくなったまぶたを閉じる。明日も良い日になりますように。

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