引き渡すまでが戦闘
僕たちが戦っていた細い通りから、騎士団支部へのルートは2つあるらしい。路地などを無理やり通る近道ルートと、大通りを通る安全ルート。いくらセラさんでも路地を全て把握しているわけじゃないだろうし、大通りを使おうと提案する。
「騎士団って、聞くところ町を守っているんですよね? なら、夜の町を見回るぐらいはやってるんじゃないですか」
「万が一もあるし、できるだけ巡回してる騎士に出会って対処してもらいたいわね」
なら決まりだ、と言わんばかりに、駆け足で移動を始めた。僕だけでも担げはするが、地理に疎いのでどうしても案内がいる。
「というか、なんでセラさんってこの町に詳しいんです? 今日来たばかりですよね」
「スキルを鑑定してもらうのが楽しみで、絶対に迷わないよう町の構造を下調べしてたんです。まさかこんなことになるなんて……」
たしか彼女は地図も持っていたな。……ものすごくちゃんとしてるじゃないか。僕なんかなんとなくでしか頭に入ってないぞ。
案内の通りに進み、騎士団支部まで後少しというところまで来た。夜は外に出ないと徹底しているのか、大通りを歩いていた人も数えるほどしかいない。明るい建物はあるにはあるが、お店が開いている、なんてことはどこもなかった。
ずんずんと進んでいくと、ランタンを腰に吊るして歩いてくる人影が見える。こちらに気づいたようで、近寄りながら声をかけてきた。
「そこの方、何かありましたか?」
彼も明かりを持っているので、どんな姿かはすぐ確認できた。全身を覆う甲冑、というほどではないが、身体の重要な部分を守る箇所を覆う簡単な鎧を身に纏っている。手には槍が握られていて、歩く姿はかなり目立つ。
それを見て、僕は「わっ」と声が漏れそうになる。今日見かけた冒険者の人は、誰も鎧を着ていなかった。いざ目につくと、僕の中の常識が崩れていくのを感じる。そういう世界なんだ、と。
「闇の頭領を捕まえたので、騎士団に身柄を渡そうかと」
「なんだって!? ……俺は先に知らせにいくよ。支部はすぐ近くだ、念のため聞くが、場所はわかるか?」
「把握しています。2人を案内しているところです」
ついぼーっとしていたため、説明するのが遅れた。セラさんが全部言ってくれたのでいいんだけど、一々人の恰好を見て考え込むのも悪いな。気を付けないと。
巡回中の騎士さんは全速力で走っていく。そして僕たちは、それに人を担ぎながらついていっている。後ろのシルフィーナさんから「アンタちょっとペース合わせなさいよ」なんて文句が飛んでくるが、逃がす前に届けたいんだから仕方ない。ほぼ僕が持ってるから許してほしい。
すぐに騎士団支部の建物が見えてきた。商業施設と変わらず石造りだが、木造で増築してあるところもあり、中々の大きさだ。多分、広場から少々離れているのもあって、かなりの面積を占めている気がする。
交番よりも断然でかいな。……交番? いや、もう気にしない。前世語は。
息切れするセラさん、なぜか後ろにいる僕らに驚く騎士さん。半分ぐらいキレてそうなシルフィーナさん。色々言いたいことはあるだろうけど、今は身柄を引き渡すことが優先だ。ごめんね。
案内されるがまま騎士団支部へ入った直後に、鋭い視線がこちらへ向いたことに気が付く。一瞬のことだったので、きょろきょろと周りを見渡す。気のせいだったかもしれない。
中に入ってまず目に入ったのは、内装ではなく人だった。桃色の長い髪に独特な鎧を身に纏った、長身の女性。重装備には見えないうえ、おしゃれな服に鎧がついているような。しかも、どことなく……圧を放っている。
「ソフィアさん、この冒険者たちが闇の頭領を捕らえたそうで……」
「それ、本当? ……わ、本当みたいね」
ソフィアと呼ばれた……騎士かな。彼女は僕たちをちらりと見て、ごく自然にほほ笑んだ。綺麗な人だ、と思ったけど、違和感が残る。あくまで表面的には綺麗なんだけど、値踏みされているような、試されているような。
そして対応が早かった。数分もしないうちに、建物の奥から騎士が集まり、あれよあれよと頭領の身柄は騎士団に移った。
まずこの盗賊が身に着けている装飾品を全てひっぺがし、変わった拘束具を腕に取り付ける。これはあたしの指輪だとシルフィーナさんが反応したが、対応を待ってほしいと注意されていた。
騎士たちが闇の頭領を別の部屋に運んでいくのを、僕たち3人は「捕まったらこんな風になるんだ」と思いながら見つめている。隣の2人を見ても似たような顔をしていたから、多分そう思ってるはず。
「あれって、封印の枷よね。初めてみたわ」
「封印? まさかですけど、スキルが使えなくなるんですか?」
「そうよ。特に危険な人物を捕らえる時に使うみたいだけど、実際に見ることになるなんて」
捕まえたって影の中に入られたらすぐ逃げられるじゃないか、と思っていたけど、そういう便利な道具があるとは。そんなことを考えていると、ソフィアと呼ばれた騎士が、こちらに声をかけてくる。
「私が持ち込んだの。私、ソフィアっていいます。王都で騎士をやってるわ」
聞き入ってしまう大人っぽい声だ。じろじろと観察する前に、僕も名乗り返す。僕とセラさんが挨拶した後、ソフィアさんが口を開いた。
「それであなたが、“孤高の突風騎士”さんね。あなたが盗賊を捕まえようなんて、少し驚いたかも」
「捕まえたのはそこのチヨリよ、“怪力のソフィア”さん。事情はこいつらから聞いてちょうだい。あたしは帰るわ」
えっ、帰っちゃうのか。というか誰も引き留めないし。いいのかなと思ったけど、事情を聞くのは僕たちだけで十分と、ソフィアさんが判断したのだろう。どことなくこの人、地位が高そうな予感がする。行動に余裕がある。
しかも、シルフィーナさんとは王都に居た時の時点で知り合っていたようだ。いや、お互いに噂だけを聞いていて、実際に会ったことはないのかも。特にシルフィーナさんは有名らしいし。
「あの子が大人しくしてるなんて、どんな魔法を使ったの? 私にも教えてもらいたいな」
「あー、それはその、色々ありまして。冷静にお話をしたら、なんとか」
うっ、これは噂だけじゃない知り合いかも。それか単純にこの人の圧がそう感じさせてるだけか。言葉に詰まった僕を見て、セラさんが助け船を出してくれた。本当によく人を見ているなと思う。
「ソフィアさん、これから私たちはどうすればいいんでしょうか? ここで事情をお話した方がよければ、覚えていることをお話します」
「あら、お話が早くて助かります。案内通りに奥のお部屋でお話してもらおうかしら。それほど時間はとらないから安心して」
どたばたと何人もの騎士が入れ替わっていたから、支部に案内してくれた方はいなかった。代わりの人がセラさんを案内していって、その場に僕が取り残される。すぐに案内されるだろうけど、ちょっと不安になるな。
「あなたは私が担当するから、こっちについてきて。色々聞かせてちょうだいね」
「へっ? あっ、はい!」
間の抜けた声で反応してしまった。この人の前で話さないといけないのかと思うと、胃がきゅっと縮まる感覚になる。恐怖より緊張に近いか。
なにか問い詰められることがなければいいな、と思った。できるだけ早くリックさんの家に戻りたいところだ。




