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影を掴め!

 ただの盗賊かもしれない、という疑問はあった。闇の頭領とやらの顔は知らないし、暗くてよく見えないから。

 しかし、ランタンへ投げられたナイフ、その正確性と敵意は、並々ならぬ相手であることを感じさせられる。放っておくのは危険だ。


「アンタ、なんでここに!?」

「チヨリさん!?」


 この声今日聞いたぞ。と思いランタンを近づけると、そこにはシルフィーナさんと……セラさんもいた。前者はわかるが後者はなぜだ。

 剣を抜いたシルフィーナさんに、壊れたランタンを持っているセラさん。色々と理由があるのだろうけど、今喋るのは危ないかな。


「説明は後で。奴がそうなんですか?」

「間違いないわ」


 一度襲われた彼女が言うならそうなんだろう。3人も人が集まってくると、逃げられないかが心配になる。引き際と判断されたら、地理に詳しくない僕は不利だ。


 ナイフを構えた相手が、突如移動を始める。こちらに向かってくるのではなく、回り込むようにぐるりと僕の周囲を走る。追うように顔を向けると、彼は地面の中に飛び込んでいくのが見えた。


 ……消えた!? 床に飛び込んだってどういうことだ。ただ、突然いなくなるのが本当だとわかった。気配はまだこの回りにある。


「集まってください!」


 僕はそう声をあげ、近くに2人を集めた。向けられる敵意からおおよその方向は察知できる。けどそれは、明らかに地面の下をうごめいていた。

 地中に潜るスキル。いや、それだと街灯を壊している(で、あろう)理由がわからない。単純に、明るいと不都合があるのだろう。


 どのみち地中に潜るのと似たようなことをされてはいるが……まさか!


「ここか!?」


 奇襲を仕掛けるなら背後、という考えがあったが、振り向くだけでなくランタンを突き出すように動かす。

 セラさんの背後がぱっと光に照らされると、地中から飛び退くように盗賊が現れ、すぐに離れていく。そして、また地中に姿を消した。


「影、かな」


 街灯という光源がないと濃い影はできない。ただ、被害者が不規則に動き回った時、最も近くにある光源は都合が悪いのかも。片っ端から破壊されていなかったのは、そういうことか。


「セラさん、奴はたぶん影に入るんです。このランタンを、できるだけ奴がいそうな方向に向けてください」

「影に? ……わかりました!」


「シルフィーナさんはランタンを守ってほしいです。光源があると面倒らしいので」

「やっぱりそうだったのね。アンタはどうするの?」

「今から考えます」


 真っ向勝負を挑んでくるとは思えないが、相手はシルフィーナさんから無理やり指輪を奪い取った武闘派だ。こちらが実力を見せない限り、どうにか盗めないか模索するだろう。

 どこにいる? 敵意を探ろうと集中した途端、僕の影から飛び出してきた! 


「うわっ!」


 逆手にナイフを構え、僕の首めがけて突き刺そうとしてくる。横に避けたのも束の間、奴は手のひらをこちらに向けた。何か来る。まさか彼女と同じ……!

 大きく飛びのき、軸をずらすように距離をとる。案の定、闇の頭領の手からは銀色の風の刃が射出され、ランタンの方に向かう――っ、まずい!


「はあっ!」


 間一髪、シルフィーナさんの剣が風の刃を跳ねのける。瞬間、僕は盗賊のターゲットがセラさんに移ったのを察した。掴み上げて動きを止めようとするも、奴が影に入る方が早い!

 くそっ、と悪態をついてしまうが、身体を動かさないと守れない。動揺からか、敵意を感じ取る感覚が鈍くなっている気がする。どこだ。落ち着いて観察するしか――


「シルフィーさん、そこですっ!」


 セラさんがそう叫び、光源をぐいっと動かす。影がぐるりと動き、闇の頭領が地上へ飛び出すように姿を現す。そこへ飛び込むようにシルフィーナさんが斬りかかっていく!

 強く金属が触れ合った。両手で振り下ろした剣を、片手に持った短いナイフで受け止めている。なんて力だ、と驚いた直後、ナイフを持っていない方の手に力が集まるのが見える。すぐさま止めようと突撃する僕だったが、察されたのか相手はシルフィーナさんの影に入り込む。


「こういうことですよね!」


 セラさんはわずかな距離を走って移動し、ランタンの位置をずらした。光源を背に守るようにして戦う以上、影が敵の方に伸びてしまう。が、ランタンで影が作られている以上、相手の隠れ家はすぐにずらすことができる。

 なんて理解力だ、と僕は思った。光源を渡し相手のスキルを伝えることしかできなかったが、自分がどう動けば相手は嫌がるのかを瞬時に察している。


 逃亡をセラさんに邪魔され、闇の頭領は地上に出たまま距離をとった。流石に3人相手をするのは面倒になってきた頃合いだろう。撤退を視野に入れているのでは――そう僕が考えた時、相手は右手を顔の前に出し、動きを止めた。力が奴の指、いくつもつけている指輪に集まっている。


 逃げるか、攻撃するか。そのどちらでもない行動をとるなんてありえない。そのどちらかだと瞬時に割り切った僕は、袋に入れていた、手のひらサイズの丸い石ころを取り出し、力を込める。

 剣に風が伝うのであれば、僕の力だってできるに違いない。解釈とアイデアが自分の道を広げると信じ、奴の手に向けて思いっきり投げつけた!


「なにっ――ぐっ!?」


 メジャーもびっくりの剛速球! ……なんだっけ、メジャーって。

 石ころは避ける間もなく指に直撃し、姿勢が大きくよろめいている。だが、相手の判断も早い。一発手痛い一撃をもらったからか、すぐさま走ってその場から逃げ出していく。結局こうなるのか!


 ランタンを借りに戻っている時間はない。待ちなさい、と叫ぶシルフィーナさんを背に、全速力、スキルの力を全力で使って、僕は地面を蹴った。


「くそっ!」


 盗賊の声が漏れる。追いつくのに3秒もかからない。奴の首を掴もうと手を伸ばした瞬間、ずるずると相手が地面に吸い込まれていく――影の中に入る、僕が掴む。どっちが速いか。

 反応が遅れたのか、僕の手が空を掴む。頭髪が地面に沈み、完全に影の中へ溶け込んだ時、ある感情が頭によぎる。逃がしてはならない。逃がさない力が僕にはある。


 ジョブ・キラー(このスキル)は、相手を倒すためにある。


 今ここでこの盗賊を捕まえてやる。僕の手は自然と影の中へ向かい、するりと手が影の中へ入っていく。

 がっしりと首を掴み、影から引き抜くように引っ張り上げ、手を構える。脳震盪(のうしんとう)を起こして気絶する程度に、頭を思いっきりひっぱたいた!


「うぐっ!」


 ぐったりと動かなくなり、腕には成人男性の体重が丸々のしかかる。重っ、と驚きがこぼれるが、戦いはまだ終わりではない。

 すぐさま闇の頭領の手足を、記憶が残っている中で一番きつい結び方で縛り上げる。ロープを持ってきてよかった。で、次はこれをどうするんだっけ。冒険者協会に持っていけばいいのかな。


「チヨリさんっ、どうなりましたか!」


 少しして、あの2人が追いついてきた。よかった、ジョブ・キラーがまだ発動しているうちに、どこに届けるか聞いてしまおう。


「どうにか捕獲できました。この人の意識が戻る前に、どこへ連れていけばいいですか?」

「こういうのは騎士団の管轄(かんかつ)ですので、シエルの騎士団支部へ向かいましょう。この町の地図は頭に入れてるので、案内しますね」

「じゃあ、あたしは足の方を担ぐから。さっさと行きましょ」


 どっちも頼りになるな。目指せ騎士団の支部とやら。目覚めたらすぐ気絶させるつもりだけど、急いでそこに向かおう。

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