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いただきます!

「とりあえず鍋に水を注いでる間に色々切ってくぞ。まずはヴェールイモ」

「初めて聞きますねこれ」


 見たところジャガイモに似ているような。手渡されたナイフで、リックさんの指示を受けつつ皮を剥いていく。やったことあるような、ないような。ひとまず手を切らないように気を付けつつ作業を続ける。


「じゃあニンジン」

「ニンジンですね」


 これは聞いたことある気がする。……この際気にしたら負けか。とりあえず黙って手伝いを続けていこう。

 その後もなんだか……色々な野菜を切った。名前も知っていたり知らなかったりとバラバラだが、食べ物に関して違和感はあまりなかった。たしかに謎の調味料やら素材を入れた時は不安になったが、この世界の人の方が詳しくて当たり前だろうし、静かにしておく。


「どうせなら綺麗な人と台所に立ちたかったんだが」

「世界一の鑑定士さんならいい人が現れますよ」


 時折ぼやきながら、リックさんは先ほどの食材たちを鍋に入れてかき混ぜている。料理鍋はあるにはあったし、火をつける場所もあった。火起こしした記憶がなかったので、彼に尋ねてみる。


「火魔法の杖だよ。ほんのちょっぴりしか火をつけられないが、まあ当たり前に便利だな」

「すごい便利な道具じゃないですか。ひょっとして、スキル付与とやらができると儲け放題だったり?」


「これぐらいの弱い付与っていっても、スーパーレア相当のスキルがないと無理だな。仰る通り儲けまくってるだろうよ」

「うわーっ、羨ましい」


 羨ましがっても、僕のスキルが変わるわけでもなく。あとは待ってろと指示をうけたので、手を洗った後、とりあえず部屋の真ん中に置かれたテーブルのそばに座ってみる。しばらくすると、いい匂いが部屋の中に漂ってきた。香辛料かな。そういうピリッとした香りも混ざっている。


「これ、なんて料理なんですか?」

「んなもん決めてないよ。()スープだな」


 初っ端に食べる料理がオリジナル作品とは。リックさんは木のボウルにスープをとりわけ、保存していた硬そうなパンと一緒にテーブルへ持ってきた。


「ほい。リックさんのお気に入り、身体に良さそうなもん大体ぶち込んだスープだ。おかわりもあるぞ」

「わあ~、美味しそうですね」


 内容としては大雑把な料理だが、ごろごろと入った具材は食べやすい大きさより少し小さいくらいに切り分けられており、彼の気遣いを感じさせる。薄い橙色のスープからは、湯気とともに胡椒に似た匂いが漂ってきた。そういうのもこの世界ってあるんだ。

 自分の分も持ってきたリックさんが座ったのを見つつ、彼が何か発するかを待つ。さあ、食ってくれと言われたので、手を合わせていつもの言葉を言う。


「じゃあ、いただきます」

「……ほー、なんだそれ。初めてみた」


「えっ、言わないんですかいただきますって」

「言わない言わない。似たようなことは聞いたことあるけど、それも食べ物への感謝みたいな感じなのか」


 どこに住んでいたかは忘れてしまったので話せなかったものの、僕がこの行動について覚えていることをなんとなく伝えた。


「食べる前に、色んな人や食べ物に感謝するんですよ。作ってくれた人、食べ物そのもの、運んでくれた人、売ってくれた人――」

「……なんか多くないか?」

「いやあ、覚えてるときにまとめてした方がいいかなって」


 というわけで、リックさんも手を合わせて「いただきます」と言ってくれた。僕の身近な文化に寄り添ってくれると、少し嬉しい気分になるな。

 木のスプーンでスープを飲もうとしたが、自然と息を吹きかけて冷ましていることに気づく。うっ、忘れかけてたけど僕って猫舌だった。すぐ食べられないのがちょっと申し訳ない。

 これならなんとか、というギリギリのところをついて、口に運んでみる。


「ん~っ、美味しいです!」

「なら良かった」


 野菜たちと調味料の優しい味わいを、わずかなスパイスが飽きさせないものに変えてある。結構馴染んだ味というか、僕の覚えている野菜の味とそう変わらないんだな。家庭的で美味しいし、パンも進むぞこれは。

 硬めのパンに戸惑ったが、スープにつけて食べるリックさんを見て、真似して食べてみた。うん、すごく美味しい。


 黙々と食事を続けているうちに、ひとつ疑問が浮き上がってくる。こうして食事を振舞ってくれて、一晩泊めてくれるなんて。逆になぜここまで良くしてくれるのか気になってきた。


「その、どうしてここまで良くしてくれるんですか? お返しできるものは今持ってないですけど」


 一通り食べ終わったリックさんは、あごに手を置いて少し考えたあと、こう答える。


「神託かな。王都の南の町で~みたいなやつ。新しい風ってのが、なんとなくチヨリに思えたっていうか」


 あ、強いスキルを鑑定した時に町から出るボーナスもあるけど。そうリックさんは言って、髪をかきあげた。自分で言って照れているのだろうか。


「ありがとうございます。……新しい風かあ」

「チヨリのスキルが誰にだって勝てるのなら、世界だって動かせるだろ? そういう力を授かったと思うが」


「……あんまり好きじゃないんですよね。人に頼らないと生きていけないのに、人を傷つけるための力なんですから」


 ジョブ・キラーは仕事をしている、職業に就いているものに対して力を発揮する。職業に関してはかなりアバウトな判定だけど、僕はそもそもとして人と戦うのがあまり好きではない。これまでも、そうしないと誰かが危険だったり、戦わないといけないかったりしたから、やってきただけだ。


「たしかに、魔物が仕事してるなんてわけないし、対人に特化したスキルか。まあ、スキルが好きになれないなんてよくある話だ。夢は冒険者なのに、裁縫スキルとかもらっても困るし」

「色々あるんですね、スキルって」


「生活第一だ。自分のために使っていこうぜ、スキルなんて。せっかく女神様から授かったんだから」

「自分のため、ですか」


 倫理観、正義、道徳。そういうのを捨て置くわけじゃない。けど、自分のために使うという選択は、この世界の人々はみなしていることなんだろう。


「それに、スキルなんてなくとも生きていけるさ。そもそも開花するのって18歳だぞ? 10歳ならまだしも、18は遅いって」


 リックさんは言う。スキルがなくたって仕事をする子供はいるし、いわゆる適正のスキルを授からなくとも、目的の道に歩んでいく人もいると。あくまで選択肢であり、絶対ではない。そう伝えたいんだろう。

 そこまで話して、突然彼は数秒硬直し、目線だけがこちらに向く。


「そういやチヨリ、あんた働けなかったんだな」

「だから困ってるんですよ!」


 お気づきになりましたか。その通り、どこまでがアウトかわからないデメリットを背負っている。僕はまた現実を直視してうなだれた。


「本当にダメだったら、色々試しながら生活しようと思います。こう、女神様に怒られるギリギリを攻めます」

「あんたを飢え死にさせるためにあるスキルってわけじゃないだろうし、抜け穴があればいいんだがなあ」


 どこまでがセーフかは、僕の解釈にかかっているんだろう。夕飯を食べ終えた僕は、ごちそうさまでしたと手を合わせ、片付けの手伝いを始めた。

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