第二話
“完璧”に生きろ――
それが北条圭介が、幼い頃から自分に課してきた唯一のルールだった。
家庭では、失敗は“恥”として叱責された。
勉強で一番を逃せば、無言の夕食が待っていた。
言葉では褒められず、行動でしか愛されなかった。
それでも彼は望んだ。誰かに「必要だ」と言われる自分を。
(だから、僕はすべてをコントロールする)
学校という舞台は、彼にとって“勝てる場所”だった。
教師には礼儀正しく、クラスメイトには穏やかに。
彼の笑顔は誰からも疑われず、内心の黒を覆い隠した。
けれど、唯一、思い通りにならない“ノイズ”がいた。
雨宮澪。
彼女は何も知らない顔をして、誰よりも優しくて、誰よりも強かった。
人に好かれるのは、自分ではなく、彼女だった。
自分がどれほど演技を重ねても、誰も心の奥には触れてくれないのに――
澪は、ただそこにいるだけで“本物”だった。
(ああ、壊したい)
それは嫉妬だった。
憧れでも、羨望でもなく、劣等感の裏返し。
自分の“偽り”を照らすように、彼女の存在がまぶしすぎた。
──そして、あの日。
教室で澪がスマホを見つめていた。表情が曇っていた。
彼女のSNSに、匿名で誹謗中傷が投稿されていた。
何も知らないふりをしていたが――あれは、北条自身が仕組んだものだった。
「もっと、完璧に壊せたはずだったのに……」
そう、思っていた夜だった。
そのとき、彼のスマホに現れた《24H REPLAY》。
あまりに不自然な存在。でも、それはあまりに都合がよすぎた。
“24時間前に戻れる。記憶を保ったまま”
(なら……今度は失敗しない)
“正しく”壊す。
“丁寧に”孤立させる。
“完璧に”支配する。
誰かに好かれなくてもいい。
誰にも必要とされなくてもいい。
ただ、自分がこの世界の「演出家」になれるなら。
彼は《YES》を押した。
画面が暗転し、世界が再起動する。
始まりの場所へ。
過去をなぞるだけのはずだった――
だが、彼の罪は、もう“自分ひとりの物語”では済まなくなっていた。
リプレイの先に待つのは、澪の微笑みではなく、
椿玲奈の“死”だった。