転生したらざまぁされる側の令嬢って普通に嫌だ。
気付いたけど、私、今転生してるわ。
ライラ・アンフィル、14歳。侯爵家の末娘で、甘やかされて甘やかされて、脳内お花畑に育ったバカ娘。姉の婚約者が王子様で、あることないこと吹き込んで、周りもみんなそれを信じて、なんかよく分からんけど側近達も巻き込んで逆ハーレム作ってたバカ。
前世はアラフォーオタク。現在、どうやっても取り返しのつかない、もうざまぁされるしか残ってない状況で前世を思い出しました。詰んでる。
「今日のパーティで、お姉様は婚約破棄されるのね!」
って、鏡の前で言った瞬間思い出すとか、どう頑張っても無理やん。
え、もうこれ、お姉様が別の人捕まえて、このバカ娘のやった事全部洗いざらいパーティで暴露されて、王子様他側近連中が廃嫡されて私は修道院か処刑か国外追放かしか残ってないじゃん。
お姉様だけ幸せになるのはまぁいいとして、これどの作品だよ?
短編作品とかでもめちゃくちゃ似たようなのあったから結末が分からん。どれこれ。
お姉様がドアマット系ヒロインなのは分かる。ほんでここまで末娘が能天気で逆ハーレムしてたらそらもう残るはざまぁされる未来しかない。
いや、出来れば自分も幸せになりたいけども、ここまで来たら無理やん。死だよこれは。
今からでも入れる保険とかそういうのは無い。無理。ワンチャンお姉様がざまぁしない未来に賭けるか?
いや、こんな教養も学も特技もなんも無い愛嬌だけのバカが王子妃とか無理だろ。国終わるわ。
まさかとは思うが王子、お姉様を側妃とかにするつもりなんか?
え、クズ通り越してうん〇じゃん。う〇こだよもう。脳内お花畑のバカ王子じゃなくて〇んこ王子やん。
いやいやいや待て、どうしよう。あとはもうパーティに出発するだけの準備万端状態じゃん。
鏡を見れば、とても目立つ、輝く金色の巻き毛と、儚げな大きな青い目。ドレスは淡いパステルグリーンがグラデーションした、最高級品質のAラインドレス。身に纏うジュエリーは、王子殿下の瞳の色である鮮やかな緑。詳しくないから説明テキトーだけど、なんかそんな感じの、かわいいだけの自分。
思い返せば走馬灯のように「わたしぃ、お姉様にぃ、虐げられてるんですぅ」と甘ったるい声でそこらじゅうの人に話したり、姉に贈られたプレゼントを総取りしたり、お下がりのドレスを「お姉様に」ってあげたり、部屋の掃除させたり、食事抜いたり、やってることがめちゃくちゃな記憶が蘇る。
どうしたらええねん。
え?
本当にこれどうしたらいい?
「……………………」
無駄にかわいいだけの顔が引き攣る。
今から逃げるか?
いや、あんなうんこにお姉様が嫁いでも地獄しか無い。
じゃあ姉に打ち明けて色々やめてもらう?
しかし、手のひらクルーしたバカ娘なんて絶対信用もされない。
あ、伏字すんの忘れた。まあいいや。
ともかく、このままだと確実に破滅する。成功してもしなくても、私の未来は詰んでいる。
「…………なるようになぁれ!」
めんどくさくなって、考えるのはやめた。何やっても詰んでるんだから流れに身を任せるしか無い。もうどうしようもない。私はそもそも一般人独り身オタク、国外追放とか平民落ち、修道院入りばっちこいよ。処刑だけ回避出来るようにしたらいいよね!
そうしてやって来たパーティで、うんこ、もとい王子殿下は堂々と言い放った。
「おれは、アレクサンドラ・アンフィル侯爵家令嬢との婚約を破棄し、その妹、ライラ・アンフィル侯爵家令嬢との再婚約を、ここに宣言する!」
どーん! という効果音が付きそうな宣言だ。
プラチナブロンドに鮮やかな緑色した目のイケメンだが、頭の方は残念な仕上がりになってしまったらしい。
なお、私はその王子の腕にくっついて、ぷるぷる震えている。だってこれ普通に怖い。
陰キャオタクにこの衆人環視は無理だよ。怖ぇよ。
あちこちからザワザワしたどよめきが聞こえる。だけど、バカ娘の流した噂を信じているのか、人々の姉を見る目は冷たい。
そんなアウェイな空気の中、姉は凛とした声で反論した。
「殿下、それは両陛下もご存じでございますか?」
銀色のまっすぐな髪と、冷たい水色の目。ドレスは落ち着いたグレーと青のグラデーション。そんなめちゃくちゃな美女なお姉様。
え、なんで王子惚れてないん?
「もちろんだ。知らないわけがないだろう」
え、国王夫妻知っててこの茶番止めてないの!?
大丈夫!?
あ、もしかしてこの国の膿出そうとしてる!?
それならいいのか!?
「そうですか」
「ふん、実の妹を虐げ、悪辣に振る舞うお前のような女の話は、国中に広がっている」
「事実無根です」
ですよねー!!
知ってる! だってそれ私が流した噂だもん!
「はっ、今回のパーティドレスも、ライラが用意していた物を奪ったそうじゃないか。お陰で、俺がライラを着飾ることが出来たことは褒めてやろう」
何言ってんだこのうんこ。
「なんの話をしていらっしゃるのか、分かりかねます」
「お姉様……、もう、やめてください!」
ともかくこの茶番はよ終わらせてくれ!
アラフォーオタクが可愛こぶるなんてもう、しんどさしかない!
私のライフはもうゼロよ!
「ライラ……、どうしてあなたは……」
失望したような、なんかめちゃくちゃ諦められた目で見られている。うん。ですよねー!
「わたしのことはいいんです、お姉様、どうかもう、やめてください」
「ライラは優しいな。こんな女の事を気にかけるなんて」
そら気にかけるわ!
なんもしてない子に冤罪かけとんねん!
今反論したら悪あがきしてるみたいにしか見えんやろお姉様が!
あとついでに私も発言しとかんと空気がしんどい!
「これは一体どういうことだ? この国では、淑女を糾弾するのが当たり前なのか?」
メインヒーローらしき人物キター!
衆人環視の中から颯爽と現れたのは、黒髪に赤い目の、素晴らしい顔面をしたイケメンである。学が無さすぎてどこの誰だか分からんけど、多分この人が姉のお相手だろう。
「あの方は、隣国の……!?」
「まぁ、いらしていたのね」
周囲の人々のざわめきから察するに、多分有名で偉い人なんだろう。良かったねお姉様。
チラ見したらお姉様はなんでか不思議そうな感じの顔をしていた。
お、全く知り合いじゃないパターンか。あるよねー。
「隣国の王太子殿下、アズール・レイフィールド様に置かれましては、ご機嫌麗しゅう……」
「あぁ、堅苦しいのはいい。それで? これは一体なんなんだ?」
堂に入った態度は、さすがは王族というか、なんというか。
「そこの女が妹であるライラを虐げ、散財し、人々をも虐げていたのだ」
「へぇ、僕にはか弱い淑女を数人で寄って集って虐めているようにしか見えないな……、証拠、あるの?」
「ライラは、その女に階段から突き落とされたのだ!」
「それにしては元気そうだけど」
あ、めちゃくちゃ元気です。
「それを見た者も居る!」
そうなの!? しらん!!
「状況証拠だけではダメだよ。どうとでも操作出来るじゃないか」
「ぐっ……」
アズール殿下と我が国の王子殿下の対比が凄い。えっ、ウチの殿下無能すぎ?
「それで、そこの小さいのが妹?」
「え、あ、はい。アンフィル侯爵家末子、ライラと申します」
なんか知らんけどこっちを見られたので慌ててカーテシーをした。
「ふぅん。図太いね。侯爵家の令嬢にはとても見えないのに」
「なっ、貴殿までライラを婚外子だとバカにするつもりなのか!?」
あ、そういう感じ!?
お姉様と私が似てないから!?
なんかそういやそんな嘘言った気もするな!?
「いや、事実です」
お、新キャラ登場!
あれ、なんか見たことある顔してるな?
銀髪に水色の目をしたイケメンである。どこで見たかなこれ。
「お兄様!?」
姉が驚いた声を上げている。
ん? え、お兄様? そういやお姉様と同じ色味してるわこの人。
あと、ちょっとまって、事実って言った?
「わ、わたし、侯爵家の、子供じゃ、ない……?」
緊張で声が震えている。しゃーないね。
「ライラ……お前は末子と戸籍に登録されているが、父の不義の子だ」
おぉー、そうなんだー。へー。
「じゃあ、わたし……」
「そうだ。お前には平民の血が流れている。故に、殿下とは結婚できない」
あー、そういう感じのざまぁか。なるほどなるほど。
「そんな!」
声を上げたのは、なんでかお姉様だった。あぇ?
「ライラはこんなにも殿下を好いているのに、どうにかならないんですか!?」
「殿下が、臣籍降下するしか、もう」
ん? なんか雲行き怪しくね?
「な、え」
意味が分からなくて変な声が出た。
「ライラ、どうする? 夢だったお姫様にはなれないみたいよ」
「え」
姉から困ったように声を掛けられたその時。
ふと、記憶の底にあった出来事が、ふわっと頭の中に再生された。
『わたしね! おっきくなったらおひめさまになるの!』
『そう、じゃあわたし、おうえんするわ!』
『ぼくも!』
小さい頃のライラと、姉と、兄。
……………………ん?
「困ったわ。どうしましょう」
「さすがになぁ……」
なんだか真剣に悩む二人に、ふと、気付いた。
「お兄様、お姉様」
「なぁにライラ」
「どうしたんだいライラ」
呼びかければ二人共が満面の笑み。
「わたし、お家に帰りたい……」
「じゃあ帰ろうか」
「ええ、帰りましょ」
あー、うん。そっか。
「な、おい、待て!」
「なんですか? あ、婚約破棄は承りましたのでどうぞお気になさらず」
「そうじゃない! これは一体どういうことだ! ライラ、アレクサンドラ、二人ともおれを騙していたのか!?」
「まぁ、騙したなんて人聞きの悪い」
「そうそう。ライラは何も知らないよ」
困惑する王子に、姉と兄が微笑んだ。
「じゃあ、これは一体……!?」
「ライラちゃんお姫様計画が失敗しただけですわ」
うんうんと頷く兄。
いや、まってなにそれしらない。
「そういえば隣国は平民の血が王家に入っても大丈夫らしいから、そっちにしても良かったか?」
「もうここまでバレたら無理ですわよお兄様」
隣国王太子殿下をチラ見したら真顔だった。
「ごめんそれ以前に好みじゃない」
いや酷くね?
「ですってライラちゃん。失礼しちゃうわね、あなたはこんなにもかわいいのに」
「……お姉様、私もこの人好きじゃないから大丈夫よ」
腹立つわー、この王太子殿下。
「あぁ、かわいそうに。そんなにショックだったんだね」
「大丈夫よライラちゃん。ちゃんとお姫様にしてあげるわ」
「……ううん、もういい。お姉様とお兄様が居ればいい」
そう言ったら、満面の笑みで抱き締められた。
あー、うん、これ、もしかすると溺愛系幼児モノの未来か。
その後、色々と勝手な事をしたうんこ改め王子殿下は反省の意味を込めて謹慎。その他の側近の皆さんは特に何もしてなかったけど殿下を止められなかったので謹慎。
一歩間違えば王家簒奪みたいな事になるかもしれなかったのに、私と兄と姉も謹慎処分で済んだ。
それもなにもかも、私が関わると家族みんながおかしくなることを王家も、なんなら国中も知っていたからだ。
そして、お姉様にやってためちゃくちゃなことは、とても、とても喜ばれていたことも知って愕然とした。反抗期だと思われてたらしい。
大好きな姉を王子様に取られるのが嫌なのねー、と使用人含む家族みんなに生暖かく見守られていたと知って他人事ながら顔から火が出そうだった。
改めて考えると、誰にも怒られてなかったし、誰も止めないし、なんなら自分が見てたものは思い込みのせいで全部歪んで見えていた。本当に、何もかも、全部。
誰も、姉を冷たい目で見ていなかった。むしろ家族みんなが私を溺愛しているのは暗黙の了解だったから、なにも知らないのは王子殿下だけだったらしい。
ちなみに、会場でお姉様が私を冷たい目で見ていると思ったのは、ドレスとジュエリーが合ってなくて、私の可愛さが引き立たなかったから、と聞いて脱力してしまった。
なんて言うか、あの、私はひとりで何をやってたんだろう。
そして気付く。
これ、私が家族の手綱握らんと家が崩壊するんちゃうか? と。
ただただ王家に迷惑をかけて、騒がせて、それで侯爵家が大丈夫で居られる訳が無い。
信用も威厳も何もかもガタ落ちである。
「結局詰んでるやんけ!!!」
私の叫び声は、押し付けた枕に消えて行った。
その後の数日間は、隣国の王太子殿下に謝罪の手紙を送ったり、王家や王子殿下や側近連中のご家庭に謝罪行脚をしたりと奔走する羽目になったのだった。
その結果、なんでか隣国の王太子殿下と文通が始まったり、王子殿下が全然私を諦めてなかったり、側近の人達に告白されたりするのは、蛇足なので本当に割愛したい。
こっちはそれどころじゃねーんだよ!!!
一応恋愛的に執着されているので恋愛カテゴリーにしています。
隣国王太子殿下とは多分くっつく。