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隣国と交渉へ

 各国の要人を迎えてきた豪華な城の応接間……は革命軍に壊されたので、城内でも被害が少なかった僕が住んでいた離れの応接室へシナを案内した。


 話をするだけ、ということで応接室に入ったシナの護衛は騎士一人のみ。あとは廊下と城の外で待機している。

 その結果、僕も応接室内での護衛はヴォルフだけ。他の騎士団員が廊下と城の外を警備している。


 向き合ってソファーに座ると、シナが単刀直入に訊ねてきた。


「何が起きているのですか?」


 腹の探り合いは時間の無駄、と言わんばかりの質問に僕は軽く笑った。


「先代の王は国を捨てた。それだけだ」


 僕の短い説明に銀髪が困ったように揺れる。


「我が国に亡命する予定でしたが」


 隣国に入る前に騎士団が王家と家臣を捕縛して幽閉した。たぶん、その情報は隣国にも知られているはず。だとしたら、次に問題としてあがるのは王の処遇について。


(隣国が王の身柄を欲しいと言うのであれば、それを取引材料に使えるけど……)


 習った範囲では、王と隣国は血縁関係などなく国交での交易上の関係だった。ならば、そこまで王の身柄は重要ではない……はず。

 僕はソファーに深く座り直して残念そうに言った。


「亡命したところで、金使いの荒い元国王一家など邪魔になるだけではないか? そちらの国に贅沢な支援を求める寄生虫になるだけだ」


 その言葉にシナがプッと笑う。美麗な顔が崩れ、親しみやすい表情になった。


「まったく、その通りです。隣国の王ゆえ無下に対応することもできず、ほとほと困っておりました」


 隠す様子のない言い方に少しだけ好感を持った僕は話を進めた。


「こちらとしても、身内のことで他国に迷惑をかけたくない。そちらに亡命しようとしていた王や家臣たちについては、こちらで対処するつもりだ」

「そうですね。そうしていただけると、我が国も助かります。で、そちらは何が望みですか?」


 青い瞳が探るように覗き込む。

 その美しくも深い色に呑まれないように僕は胸を張って言った。


「しばらくこの国に関与しないでほしい」

「見守れ、ということですか?」

「あぁ」


 シナがソファーに深く座り直して足を組む。


「王城が革命軍に攻められ、国内の情勢はボロボロだと聞いておりましたので、あれだけ動ける兵がいるとは思いもよりませんでした」


 たしかに城にいた兵だけでは少なすぎた。革命軍が城を攻めた時、半数は平民のフリをして逃げたのだ。

 だから、予備の鎧など王都にある兵の服をかき集め、バルトルトを使って革命軍の男たちに着せて並ばせた。戦力にはならなくてもハッタリには使える。


 そのことは言わずに僕はニッコリと笑った。


「城の改修工事に失敗しただけなのに、そのような話になっているとは。人の噂とは何とも恐ろしいな」


 その言葉にシナもニッコリと笑う。


「そうでしたね。パトラ国王にもそのように報告いたしましょう」

「そうしてくれ」


 なんとかやり過ごせそうな雰囲気に力を抜きかける。

 そこで上半身を起こしたシナから握手を求めるように手を差しだされた。


「あなたとは、これからもよい友好関係が築けそうな気がします」


 言葉とともに青い瞳が細くなり、見惚れそうなほと美しい笑みが浮かぶ。

 その表情に交渉が上手いと言われる理由が垣間見えた気がした。


(僕としては、もう関わりたくなんだけどなぁ)


 ハハハ、と乾いた笑いをしている心の声は表に出さず、堂々とした笑顔を作って応える。


「そうだな。城の改修工事が終わったら、遊びにきてくれ」


 怪しくない程度に社交辞令を言いながら手を差しだす。

 そこで、背後からピリッとした気配が刺さった。ソッと目だけで背後を覗けば、これまで存在感を消していたヴォルフが鋭い目でシナを睨んでいて。


(上手くまとまりかけているのに、余計なことしないで!)


 僕の心の声が届いたのか、金の瞳がスッと逸れる。その仕草が拗ねたような、どこか可愛らしくみえて。


(なんか、犬みたいだな)


 そんな場違いな感想を抱きながら、僕はシナと握手をして、この場を解散。隣国の兵士たちは穏便に戻っていった。



「疲れたぁ……」


 怒濤の一日が終わり、僕は久しぶりに城の離れにある部屋のベッドに寝転んだ。

 牢の固いベッドとは違う、少し埃っぽいけど、フカフカで白いシーツに包まれるのは心地いい。


「……で、いつまでいるの?」


 僕はベッドの隣に立つ黒い美丈夫に声をかけた。眉目秀麗で端正な顔が無言のまま僕を見下ろす。


「もう護衛は必要ないと思うけど」

  

 ここまで協力してくれた人にかけるべき言葉ではないと分かっているけど、もう限界で。力尽きた体は動かせない。とにかく眠い。

 

 視線だけをむけて返事を待っていると、ギシリとベッドが沈み、金色の瞳が迫ってきた。


「添い寝をしましょうか?」


 僕の顔のすぐ横に落ちた逞しい腕。

 ふわりと優しく鼻をくすぐる甘い香り。目の前に垂れる黒髪はなぜか黒い大型犬を思い出して……


「犬になるなら、いいよ」


 我ながら無茶を言っているな、と考えながら手を伸ばす。初めて触れた黒髪は少し固いけれどサラサラで滑らかで。

 その手触りの良さに髪を触っていると、太い眉が不機嫌そうにシワを寄せた。


「犬ではなく、狼です」

「狼?」


 手を止めて首を捻ると、黒髪の隙間から三角の耳が現れた。それから、鍛えられた体が縮んでいく。


「え?」


 目の前に現れたのは、ブカブカになった騎士団長の服を着た黒い大型犬。


「……君、なの?」


 大きな尻尾を一振りして、しっかりと頷く黒い犬。でも、僕の頭は理解することを拒否していて。


「夢……そうか、夢だよね。疲れすぎて、寝てることに気づいてないんだ」


 そう納得した僕はベッドの中に入った。


「わう、わう」


 何かを訴えるように小さく吠える犬。けど、僕の眠気はピークで。


「ごめん、もう眠くて……」


 すると、黒い犬が鼻先でシーツをあげてベッドに潜り込んだ。


「あぁ、うん。一緒に寝よう」


 僕は犬の首に抱き着いた。頬を撫でる固い毛と、ほのかに香る甘い匂い。久しぶりの温もりは気持ち良くて、心地よくて、とても安心できて。


 気が付けば朝までぐっすりと眠っていた。



「……んぅ」


 久しぶりに朝日の眩しさで目が覚めた。でも、昨日の疲れが残っているのか体は重く、眠気が強い。


「もう少しだけ……」


 全身を包む温もりの気持ち良さに、もう一度寝ようとして……


「……毛がない?」


 この温もりは犬と同じ。けど、僕の手に触れるのは毛ではなく、柔らかくも弾力と張りがあり、しっとりと手に吸い付くような感触の……

 目を閉じたままベタベタと触っていると、困惑した低い声が落ちてきた。


「主、朝から積極的ですね」


 言葉とともに耳に触れた吐息で一気に目が覚める。


「ふぇ!?」


 目を開けると正面には肌色の厚い胸板。

 少し顔をあげれば、しっかりと浮き出た鎖骨に、黒髪がかかる太い首。広い肩に逞しい腕が僕を抱きしめている。

 ちなみに服は着ていない。そのため、視線をさげることはできず。


「あ、あの、どうして……その、一緒に寝て? え?」


 困惑しまくっている僕を金色の瞳が優しく見つめる。


「昨夜、一緒に寝たのをお忘れですか?」

「夢……じゃなくて? でも、一緒に寝たのは犬だったはず……」


 犬という単語に端正な顔が不機嫌に染まる。


「だから、犬ではなく狼だと言っているではないですか」


 その言葉にヴォルフから三角の耳が生えた姿を思い出した。





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