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隣国との対峙

 ずっと僕を抱きかかえているヴォルフに声をかけた。


「……本当に、どうにもできないの?」

「なぜ、そう思う?」

「今なら、まだ何かできそうだから」


 僕の言葉に薄い唇の端がフッとあがる。


「では、手持ちの駒を確認しよう。この城にあるのは、汚職と賄賂に染まった兵と、国に忠誠を誓った精鋭の騎士団と、逃げ出した王が一人」


 予想外の単語に僕は聞き返した。


「逃げ出した王って、まさか……」

「隣国との国境を抜けるまえに捕まえた。王妃や親族と家臣も拘束したが、この場で使えるのは王ぐらいだ」


 このまま隣国が攻め入れば、捨て駒扱いだった僕は王族の一人として殺されるだろう。逃げることもできるけど、逃げ切れるか分からない。


 視線を落とせば舞台の下で泣きわめく人々。僕を処刑しようとしたバルトルトは頭を抱え、膝をついて嘆くだけ。


 この状況をどうにかしなければ、僕も、みんなも、この国も、明日はない。


「おろしてください」


 ヴォルフが無言で僕を床におろす。


 頭を抱えたまま沈んだバルトルトの隣を通り抜け、ギシリと音をたてる舞台の淵に僕は立った。


「みんな、聞いてほしい! 生き残りたいのであれば、僕の話を聞いてくれ!」


 絶望に染まった顔が上をむく。


 僕は自分の胸に手を置いて声を張り上げた。


「説明をしている時間はない。生き残りたければ、僕に協力してくれ!」


 ざわざわと動揺が広がっていくのが分かる。それでも、僕は大声で説得をした。


「戦うことなく隣国の兵を追い払うには、みんなの協力が必要なんだ!」


 人々の中でポツリと声があがる。


「戦わずにあいつらを追い払えるのか?」


 その質問に僕は大きく頷いた。


「みんなが協力してくれるなら、戦うことなく国を守れる。そのために、僕が先頭に立って、みんなを守る」


 絶望に染まっていた顔に光が差す。少しずつ空気が変わっているのが分かる。

 僕は振り返ると、体を丸めてうつむいているバルトルトに声をかけた。


「すぐ動けるように、革命軍をまとめて」

「……無駄だ。この国は隣国に支配されるんだ。王の血をひくオレは殺されるんだ」


 でかい図体を小さくして呟く。

 僕はその襟首を掴んで、無理やり顔を上げさせた。


「やる前から諦めるな! 生きたいんだろ! 生きたいから、革命軍を作ったんだろ! それとも、王になりたいから革命軍を作って王を追い出したのか!?」


 僕の怒鳴り声が広場に響く。

 人々が見つめる中、僕に反発するように短い金髪が揺れた。


「生きたいからだよ! そりゃ、王にもなりたいと思ったが……それよりも、このままだと生きていけねぇから! だから、オレたちは立ち上がったんだ! 生きるために!」


 バルトルトの声に舞台の下から声があがる。


「そうだ!」

「生きるためだ!」

「諦めるな!」

「隣国の好きにさせるか!」


 湧きあがる人々。絶望から希望へと一気に空気が変わった。


(これで基盤はできた)


 バルトルトから手を離した僕は黙って見守っていた騎士団長に声をかけた。


「……協力、してくれますか?」

「なにが必要だ?」

「ありったけの兵と、騎士団と、王の服を」


 その言葉に応えるようにヴォルフが僕の前まで歩いてくる。そして、片膝を床につけると腰に下げていた剣を外して僕に柄をむけた。

 本で読んだ、騎士が主人に忠誠を誓う時の姿勢。


「仰せのままに、我が(あるじ)よ」

「ふぇ!?」


 突然のことに戸惑っていると、ヴォルフが騎士団長の顔となって立ち上がった。


「騎士団はこれよりクレムを王として、主として忠誠を誓う!」


 その宣言にザッと足音が響く。いつの間にいたのか舞台の後方に騎士たちが片膝を地面につけて頭を下げている。


「え? えぇ!?」

「時間がありません。行きますよ」


 丁寧な言葉遣いになったヴォルフが僕を抱きかかえて舞台から飛び降りると、そのまま馬に跨りで城へ移動した。


 自分でのこの状況の変化についていけていないけど、ここでやらなければ生き残れない。


 こうして僕は急ごしらえでサイズを合わせた王の服を着てヴォルフとともに馬に乗り、隣国の兵が並ぶ丘へと向かった。


 すべては隣国の軍隊と対峙するために。



 隣国の旗を掲げた兵が丘の開けた場所に簡易テントを立てて陣地を設営している。


 僕はヴォルフが操る馬に跨ったままその光景を見つめた。遠くからでも伝わる隣国の兵士たちの気迫と緊張に思わず気後れする。


「うぅ……」


 覚悟を決めたとはいえ、元々は平民。しかも、長く一人暮らしをしていたため、人との会話もまともにしたことがない。


 馬上で息を呑む僕の後ろから落ち着いた声がかかる。


「主、大丈夫です。いざとなったら、主だけでも必ず御守りします」


 耳元で囁かれた低い声に背筋を伸ばす。


「そうならなりように、頑張ります」


 隣国の兵士からも僕が見えていたのだろう。


 陣営に近づいたところで、隣国の兵の中から一人だけ服装が違う人が出てきた。

 サラリと風に揺れる銀髪に、知的な青い瞳。青年だが、整った顔立ちは麗人のような美しさと優美さをまとっている。

 鎧を着ているが軽装で武人というより文官のような雰囲気。


(兵を仕切る隊長とは別に交渉役として従軍したのだろうか?)


 観察しながら考えていると、青年が声をかけてきた。


「そのお姿、シュタリナ国の王族の方とお見受けいたしますが」


 その声かけに僕は馬に乗ったまま、なるべく堂々と見えるように背筋を伸ばして答えた。


「緊急時により馬上より失礼、私はシュタリナ国王のクレムだ。貴殿たちはパラト国の兵で間違いないか?」


 相手は年上だが、身分は僕のほうが上のはず。慣れない口調にドキドキしながらも、必死に王らしく振る舞う。


 そんな僕の名乗りに青年の眉がピクリと動いたが、すぐに優美な微笑みを浮かべて頭をさげた。


「これは失礼いたしました。私が記憶しているシュタリナ国王はもっと年上でしたので。私はパトラ国、第三王子のシナと申します。お見知りおきを」


(パトラ国の第三王子!? 銀髪と青瞳で気づくべきだった!)


 パトラ国の王族は銀髪、青瞳で有名。その髪と目の色から王家の血筋であることに間違いはない。

 まさかの大物登場に僕は心の中で驚きながらも、表情は一切動かさずに考えていたセリフを口にする。


「急遽、王位を継いだため、これから諸国へ通達する予定だったのだ。ところで、パトラ国と我が国は友好関係にあったはずだが、これはどういうことだ?」


 さりげなく兵に視線をむけると、シナが当然のように答えた。


「シュタリナ国王より謀反を鎮圧するための助力を求められて参りました」


 その言葉に僕は大げさなほど肩をすくめてみせた。


「まさか。謀反など起きてはいない」


 青い瞳が僕の遠い後ろにある城を見る。


「ですが、城から煙が上がり、壊されているという報告もありました」

「それは城の改装工事のためだ」

「……改装工事?」


 予想外の答えだったのか、シナの表情が崩れる。


(ここからが勝負! このハッタリで、どこまで優位に交渉を持っていけるか)


 心の中で覚悟を決めた僕は極力、困った顔を作って説明を続けた。


「城の一部が古くなったので建て直そうとしたのだが、その時に城が崩れてしまってな。かなり老朽化していたようで、恥ずかしい話だ」


 かなり苦しい作り話にシナが同情するように眉尻を下げて頷く。


「それは、それは災難でしたね。では、革命軍と名乗る者たちが城を取り囲んでいるという話は?」

「あぁ、城が崩れたことを心配して集まった民たちのことか? 刺激に飢えているのか、なかなかの野次馬ぶりでな。散らすのに苦労している」


 笑い話のように軽く話ながら僕は背筋を伸ばし、自分の胸に手を当てた。


「そもそも革命軍に城を乗っ取られているなら、王である私はここにいることなどできないだろ。見せしめとして、とっくに処刑されている」


 ここでヴォルフが手をあげる。

 その合図に応えて馬に乗った騎士団が集まり、その後ろからこの国の兵が駆けてきた。その総数はシナが連れてきた兵士より多い。


 この光景にパトラ国の兵がざわつく。

 楽勝の戦いと聞いて参戦したはずだったのに、突然これだけの数を相手にしろと言われれば兵の士気はさがり、不満が出てくる。


(まずは数で圧倒して戦意を削ぎ、こちらが優位のように見せる)


 相手がどう動くか警戒していると、意外にもシナはすぐに軽く頭をさげた。


「これは失礼しました。どうやら、こちらの勘違いだったようです」


 このまま戦闘をしても不利と判断した第三王子。状況を瞬時に見極め、交渉を有利に進めることで有名な人物と教えられたことを思い出す。


(僕なんて簡単に転がされるかも。でも、ここで諦めるわけにはいかない)


 次の作戦のため、僕はにこやかな笑顔を作って話を続ける。


「第三王子を相手に立ち話も失礼だったな。詳しい話は城で、どうだろう?」

「それは、ぜひ」


 銀髪をなびかせ、裏のありそうな美麗な微笑みが返る。


「では、先に城で待つ。ゆるりと参られよ」


 僕の言葉にヴォルフが手綱を動かし、馬を城へと向けた。


「はぁ……」


 思わず息を吐きだす。


「まだ気を抜くのは早いですよ、主」


 力が抜けかけた僕の体を逞しい腕が支える。その力強さと耳元で響く低い声に胸がドキリと跳ねた。


「わ、わかってるよ」


 城へと走り出した馬の上で気合いを入れ直す。


(これからが腹の探り合い。本番だ)


 こうして僕はヴォルフとともに城へ戻った。





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