初恋
1人の男が、友達の一言から大恋愛をするお話です。
しばしの時間、純粋な恋の思い出話に少し耳を傾けて下さい。
20代前半の頃の俺は高校からの友達と遊んでいるのが一番楽しかった。
そんな、ある日の夜。
「そういえば、駅の近くの中華屋さんにカズの好みの女の子が働いてたで。」
友達のショウが思い出したかの様に言う。
「マジで!」
俺は話に飛び付く。
「たぶん…80%は有るで!」
その言葉に少し胸が踊った。
「よしっ!今度行くで!」
俺は隣に居たコツに言う。
「えっ、俺?」
確かに、このコツと言う友達はショウの友達で俺が知り合って会うのは、まだ2、3回目だった。
「どうせ暇やろ、付き合ってや。」
「まぁ、良いけど…いつ行く?」
「次の土曜位に行こか?」
その日は、コツと約束を交わして帰宅した。
この頃は、親が店を営んでいたので俺は店の2Fに住んでいた。
両親は別に家が有るので2人共そちらに住んでいた。でも、風呂だけは店に無いので家に帰って入っている。
その日も家で風呂に入った店への帰り道はデート前の様な気持ちになっていた。
「でも、俺の好みって難しいからなぁ…」
とか独り言を言いながらできるだけ期待を持たない様に頑張る自分。
しかし…土曜迄の2日間が長かった〜。
やっと来たぜ土曜日。
この日は3時迄仕事だったので終わってから急いで家に帰った。帰って直ぐに車に乗り込んでコツを迎えに堺に走り出す。
家からは車で30分位の距離を胸を踊らせながら走る。
「もっし〜、着いた。」
コツの団地の下に着いた俺は携帯に電話を掛ける。
暫くしてコツが階段を降りて来た。
「うぃ〜す。」
「あんた、今日…仕事やろ?」
コツは何故か半笑いで聞いてくる。
「土曜やから3時迄〜。」
俺はニコニコしながら答える。
「どうする?もう行く?」
コツが車に乗り込んで中華屋さんに行くか聞いてくる。
時間は、5時前で少し早い。
「ん〜っ…ちょっと早いから…ゲーセンでも行こか?」
と言う事で2時間程、ゲーセンで時間を過ごして…いざ!中華屋さんへ!
中華屋さんの前で少し胸が高鳴る。「いらっしゃいませ〜」
店に入ると厨房におっちゃんが居るのとバイトらしき女の子が1人。
『この子か!ショウの言ってた俺好みの女の子は!』
そう思うと胸が一層高鳴る。
その子が注文を取りに来る。
「俺は、ラーメン」
俺は注文をしながら彼女を見る。
頭の中が真っ白になる。
『メッチャ可愛い…』
その後は、何故か彼女を見るのが恥ずかしくなりチラッとたまに見るだけで精一杯だった。
「どうなん?好みなん?」
ラーメンを、すすってるとコツが聞いてくる。
「ヤバイ、マジでヤバイ、後で言うわ。」
食べ終えて会計をしに行く。
「600円づつになります。」
彼女がレジまで来てくれた。
「あっ一緒で。」
俺はコツの分と一緒にお金を払う。
「えっ、いいの?」
「いいよ、俺が誘ってんから。」
「ごちそうさま」
「ありがとうございまーす」
俺達は店を出る。
出た途端、俺は早歩きで車まで無言で向かう。
「カズ〜、どうしたん?」
車に乗り込むと俺は興奮してコツに話掛ける。
「メッチャ可愛い!ヤバイマジでメッチャ可愛いって!惚れた!俺、惚れた!」
「確かに可愛いかったなぁ」
コツは笑いながら俺を見て言う。
「次、いつ来る?」
俺は通う事を宣言する。
「いつでも良いけど。」
コツは嬉しそうに答える。
「んじゃ、月曜に迎えに行くわ。」
その日は、コツと約束をして団地まで送って帰路につく。
帰る時は車の中で歌いながら帰った。
家に着いても胸の高鳴りは収まらなかった。
夜、布団に潜っても中々寝付けなかった。
ちなみに、その日のラーメンの味は全く覚えていない。
月曜日まで、あの子の事ばかりを考えて過ごしていると…その日迄の事は殆ど覚えていなかった。
月曜日も仕事を終えて、急いで帰る。
風呂に入り、まるでデートに行くかの様にしてコツを迎えに走った。
コツを乗せて中華屋さんに着くと期待と緊張でドキドキした。
店に入ると、目で彼女を探す。
『居た!良かった〜、今日もおった…』
思わず顔から笑みがこぼれそうになる。
でも、気付かれない様に普通の客を装う。
食事を済まして外にでる。
「今日も会えた!」
車に乗り込むと満面の笑みでコツに話掛ける。
「やっぱメッチャ可愛いって!ヤバイ、マジで可愛い!」
そして、又コツを送って帰る。
週に3〜4日のペースで、2人で行ける時は一緒に行って、コツがムリな時は1人でも行く様になっていた。
そうして2カ月少しが過ぎた。
さすがに、そこまで通い詰めれば顔も覚えて貰えていた。「もしもし〜俺っす」
今日は店に行く前にショウに電話を入れた。
「ほいほい、どうしたん?」
「あの…今日な中華屋さんの子に声を掛けようと思うねん」
「おーっ、とうとう声を掛けんねや」
「あんたの情報をムダに出来へんからね」
俺は、この時点で緊張し過ぎて少し胸が苦しかった。
「頑張りや!又、結果教えてや」
「んじゃ、行ってくるわ!」
俺は車を運転しながら店の子に何てこえを掛けるか考えていた。
店に着く、考えは纏まらない。
今日は、声を掛ける為コツは居ない。
俺は、そのまま店に入った。
「いらっしゃいませ。」
いつもの様に出迎えてくれる。
…んっ?
女の子が…2人居る。
俺は、頭の中が真っ白になった。
『どっちの子やろ…』
俺は、毎回見てる筈の子の顔が出てこない。
しかも2人共似ている。
俺は注文をすると直ぐにショウに電話を掛ける。
「あんさ、あんさ、どうしよう」
俺はテンパって言う。
「どうしたん?」
「女の子が2人居てる…どっちか解らん。」
「何で解らんのさ〜」
『今日みたいな日に何で2人居てんねん…』
俺は心の中で愚痴っていた。
「どうしたらいい?」
「2人が、どんな感じか教えてや」
俺は2人の女の子の髪型等、自分の解る範囲の事を伝えた。
「それやったら多分、カウンターの中に居てる子やわ」
「マジでっ!」
「多分やけどな」
「ありがとよ〜!マジで、どうしよかと思ったわ」
「んじゃ頑張りや」
「ありがと、ゴメンなぁ」
これで解った。
俺は、自分の本当に好みの子の顔は緊張し過ぎて覚えられない。
と言うか、緊張の為で記憶が無いのだ。
俺は持ってきて貰ったラーメンをたべる。
『今の子は違う方の子やな』
しかし、会計の時に声を掛けて出る計画だったが2人居るとなると会計の時に想いの子が来てくれるか解らない。
ラーメンも食べ終わり、少し悩んで居ると女の子が皿を下げに行った。
『今や!』
俺は、今なら想いの子がレジに来ると信じて席を立つ。
あの子が、いつもの笑顔でレジに来てくれた。
お金を払う時に思いきって声を掛ける。
「あの、良かったら話をしたいねんけど外で待ってて良い?」
ムチャクチャ声が震えていた。
彼女は、困った感じで笑う。
回りが気になるのと緊張で俺は一方的に言う。
「とりあえず待ってるから…」
またもや声は震えている。
そして逃げる様に店をでた。「はーっ…」
俺は店を出ても胸がドキドキしていた。
少しするとコツから連絡が入り様子を見に来た。
「どうやった?」
コツに外で待っている事を伝えた話をする。
「おぉ…言ったんや」
コツは少し嬉しそうに言う。
暫くすると、あの子が1人で店を出てきた。
「ほら、出てきたで」
コツが俺に促す。
彼女を見ると緊張が甦る。
彼女が俺を見て会釈をしてくれた。
俺は、ドキドキしながら彼女に歩み寄る。
「お、お疲れさま」
俺は緊張しながら声を掛けた。
彼女は微笑みながら頭を下げる。
「ちょっとで良いから話ししても良いかな?」
彼女が頷いてくれた。
「いつも、何で帰ってんの?」
俺は彼女の横に並びながら話し掛ける。
「バス」
彼女は俺の方を見て答えた。
こんな近くで彼女を見たのは初めてだったので更に胸が高鳴る。
「それじゃ、バスが来るまでで良いから話してて良い?」
彼女が頷く。
そうしてる間にバス停に着く。
俺達はベンチに座る。
少しの沈黙が流れる。
俺は何を話して良いか焦る。
「あっ」
俺は彼女の名前を知らない事に気付く。
「名前は何て言うん?俺はカズ、皆からそうよばれてんねん」
彼女は俺の顔をみる。
「舞美」
「んじゃ!これからは舞美って呼んで良い?俺の事はカズで良いから!」
「カズ?」
彼女が微笑む。
「うん、カズ。」
何だかメッチャ嬉しい。
「さっき店で一緒に働いてたんは友達なん?」
彼女は首を横に振る。
「違うで、お姉ちゃん」
「えぇっ!お姉ちゃんなん?」
彼女が頷く。
「たまに一緒に働いてんねん」
「そうなんや」
一台のバスが俺達のバス停で停まる。
「バスが来たなぁ。」
「うん」
彼女が動かない。
「バス来たけど乗らへんの?」
俺は彼女に聞いてみる。
「うん、まだ大丈夫。」
彼女は微笑みながらバスに乗らずに俺の横に座ってくれている。
俺は凄く嬉しくて彼女の事が今まで以上に好きになった。
それから、話をしたが舞い上がり過ぎて内容は余り覚えていない。
でも彼女は、その後バスを3本も見送って最終まで俺に付き合ってくれた。
俺は彼女を見送った後、車に戻り家に向けて走り出す。
ショウとコツにも連絡は忘れずに入れた。
「あの子と話せた!」
あの子と話せた事、バスを送らしてくれた事を簡単に話をした。
俺は最高の幸せを感じながら家に帰った。
この時が今までで一番の幸せの始まりだった。
読んで頂きありがとうございます。
次回作品で完結になりますので楽しみに御待ちください。