もちもちワンコとお花見!
俺には義理の弟が居る。その名も寅吉くん。しかし彼はマッドサイエンティストの姉、つまりは俺の妻による人体実験でハスキーの子犬にされてしまった。
「お兄さん! お花綺麗ワン!」
しかしこれはこれで……と桜の木の下で可愛らしくはしゃぐ義理の弟を見て鼻血を垂らす俺。
おっといかん、ちゃんとリードを持ってあげなくては。今は散歩中なのだから。
「寅吉君は桜が好きなのか。姉より余程可愛いぞ」
「姉さんは花とか興味ないワン。花見しながら日本酒がぶ飲みして、お父さんに釣り天井固めを極めて全治一生の腰痛を負わせたワン」
なにしてんだ、俺の奥さん。あの人の良さそうなお義父さんになんて事を。
「そろそろ警察のお世話になった方がいいかもしれんな……通報するか」
「仕方ないワン」
「私の味方は居ないのか?」
その時、噂をすれば何とやら。寅吉君の姉にして、俺の嫁が抱き枕を小脇に抱えたまま犬の散歩についてきた!
「って、お前……何故パジャマ……」
「目が覚めたら二人が居ない。寂しいじゃないか、泣いてしまうぞ」
「小学生か」
そのまま弟の寅吉君を抱っこする妻。抱き枕は俺に持たせてくる。
「ちなみに途中から話を聞いていたのだが……私が父を襲撃したのは別の理由があるのだ」
「襲撃言うたな。まあ聞いてやろう」
「うむ。実はあの父は……とんでもない罪をおかしていたのだ」
あの普段ニコニコしているお義父さんが……とんでもない罪?
まあ、コイツの言う事だ。どうせ大した事じゃないか、冗談まじりに茶化す程度の……
「父はあの歳になって、母のスカート捲りをしていたんだ」
「大犯罪じゃねえか」
あの若くて綺麗なお義母さんのスカートをめくるだと! うらやま……ゆるせん!
「私のスカートならいつでも捲っていいぞ。今はズボンだが」
「ちなみに姉さんは僕にスカートを履かせて捲ってくるワン」
寅吉君は人間だったころ、どちらかといえばお義母さん似の可愛い男の子だったからな。初見はマジで女の子だと思った。やばい、妻の気持ちが分かってしまうのが辛い。
「というか、お前も捲ってるじゃねえか。しかも弟を女装させた上でとは許しがたい」
「愚門だな。君に耐えられるのか? 今では可愛いワンちゃんだが、人間だったころはあんな可愛い弟だったんだぞ。しかもこの子は性格上、決して姉には逆らえん。こんな状況で同じ轍を踏まないと断言できるか?」
「出来ない……っ!」
「お兄さん泣きながら何言ってるワン!」
「やはり私達は似た物夫婦ということだ。そしてここで良く考えて欲しい。大したメイクも必要なく女装できるスペックを持つ弟の名前が……寅吉」
「ぐはぁっ!」
「萌えるなという方が無理がある!」
「御見それしました……」
「なんで土下座してるワン! お兄さん!」
「こんな可愛い弟に日頃からベッタベタと甘えられてみろ。理性がおかしくなって父親の腰を破壊してしまうのも……理解できるはずだ」
ぁ、ここでそこに戻るん?
「つまり、お義父さんがお義母さんのスカート捲りをしているとうのは……どうでもいい理由だったのか」
「母も半分喜んでいたしな。親同士のイチャつきなんぞ犬も食わん。ところでなんで私はパジャマで犬を抱っこしながら花見してるんだ」
もっと知らんわ、それは。
「そろそろ帰るか……今日の寅吉のオヤツは和菓子風にしようか……」
「わーい、美味しそうワン!」
それより、はよ人間に戻してやれ。
少し冷たい風が頬を撫でる。いいなぁ、俺も寅吉君を抱っこしたい……。