5話 失踪
夜の1時ごろ、警察署に一本の電話がかかってきた。今年から採用になった河辺聡太は初めての夜勤のため、とても緊張していた。
「はい、警察です。」
「ウチの息子が帰って来ないんだ。」
「息子さんの年齢とお名前を伺ってもよろしいですか?」
「斎藤琢磨、16歳だ」
聡太は、先輩からその名前を聞いたことがあり、地元でカツアゲを常習的に行っている奴だった。しかし、コイツの親が斎藤コンポレーションの社長で警官を買収して揉み消しているとの噂も聞いていた。
「通っている学校もお願いします。」
「聖王学園だ」
聖王学園は、能力ランクDランク以下は入学できないほどの名門校で、頭もなかなか良い学校だ。
「わかりました。すぐに対応します。」
「頼む」
聡太はそう言うと、先輩の長谷川哲也に電話をかけた。哲也は60歳を超えるベテランで、能力ランクはB級。昔はシーカーをやっていたが、なぜかシーカーを辞めた理由は教えてくれなかった。
「もしもし、先輩助けてください」
「どうした?」
ハスキーで渋い声が聞こえた。自分が理想とする声で、将来自分もこんな声になるのかと考えてしまう。
「捜索願いが出されました。」
「誰のだ?斎藤コンポレーションの息子の琢磨君です」
「あのくそガキか。わかった、すぐ行く。」
「お願いします。」
電話をしてから20分後、哲也は警察署に着いた。
「すまん、待たせたな。」
「すみません、夜勤でも無い先輩をお呼び立てしてしまって。」
「後輩の面倒を見るのも先輩の仕事だ。気にすんな。それよりさっさとクソガキ探しにいくぞ。」
「はい!」
琢磨を探すため、まずは聖王学園に向かった。そこから自宅への帰路を辿ることになった。
「琢磨君ってどんな子なんですか?」
琢磨が起こしたカツアゲの噂をよく知る先輩に聞いてみた。
「あいつは、金が欲しくてカツアゲをしてるんじゃない。」
「えっ?」
そう言われてみれば、社長の息子でお金に困るとは思えない。
「あいつは、おそらく自分の力が最強だと思っているんだろう。かつての俺のように。」
「それはどうゆう...」
「おっと、口が滑ったな。今のは忘れてくれ。」
そんな話をしていると、先輩に歩くのを止められた。
「ちょっと待て、血の匂いだ。」
哲也の能力「超感覚」…全ての感覚が常人の10倍にもなる。
「そんな匂いしますか?」
「俺の能力でな、わかるんだ。」
恐る恐る進むと、バラバラになった人体と思われる肉片があった。しかも、切れ目は熱によって焼かれたような跡があった。
「う、すみません先輩。」
そう言うと、聡太は近くの電柱のそばで吐いた。無理もない、初めての夜勤でこんな事件に出くわすなんて付いていない。
「大丈夫だ、だが今後もこんな残虐な事件に会うかもしれない。吐いたら守れるものも守れなくなるぞ。」
「はい。」
「聡太、ひとまず戻るぞ。」
「なんでですか?」
「これは、おそらくB級もしくはA級だろう。俺たち二人だと危険だ。」
「わ、わかりました。」
聡太は渋々了承し、二人は警察署に戻った。すぐに報告して、死体を回収して、現場保存をしてもらった