ライブと打ち上げ
乃唯がトップバッターを切る。
高円寺のライブハウスでオレらはライブを始めていた。
実麗がメゾソプラノだとすると乃唯はソプラノな声をしている。
すぐに見ていて?
早く見ていて?
甘えたいだけの
ただのマモノです
暗がりからそっと
手を伸ばした
拾い集めた
あなたのかけら
キーボードを弾きながら乃唯は歌う。
サビで実麗がコーラスする。
髪を揺らして乃唯はうっとりした顔でメロディを紡ぐ。
次に実麗の歌が始まる。
ガソリンを撒いて
アニメ会社を
燃やしたのさ
僕は悪くない
パクったから
僕の小説を
パクったから
勝手にパクったから
みんな死んでしまえ
僕は愛されない
愛されなかったから
こんなことしてる
京アニの青葉の事件をテーマにしたセンセーショナルな歌を実麗は披露した。
さずかにガソリンを燃やす訳にはいかず、SE(効果音)に火を燃やす音のフリー音源を借りて曲の伴奏に混ぜた。
「実麗さんって、どこまでも社会派でパンクですよね」
「犯罪者をテーマにした歌を作るの好きなの。誰も歌おうとしないからせめて私が歌わないとって思う」
「Xに載せたらとにかく炎上したんですよね」
「うん。でも別にかかってこいって感じ笑」
実麗は数日前に彫った腕のタトゥーを披露した。
虎をイメージした彫り物だ。
客席からどよめきが聞こえてくる。
「スゴいタトゥーだなー!」
オーディエンスからはそんな声が聞こえてきた。
「どう? かっこいいでしょ。みんなも入れればいいのに」
「私はタトゥーはちょっと…」
「乃唯ちゃん、背中に入れればいいのに。まあ温泉とかプールに入れなくなるのはキツいか」
「海なら入れるよね」
「そうだね。海ならタトゥーでもイける」
俺は2人のやりとりを無言で見守る。
ライブはあっという間に終わり、打ち上げの席。
他バンドからの打ち上げの誘いを断り、3人だけの空間でやっていく。
「今日は楽しかったー。実麗さんは永山則夫をテーマにした歌や小島一朗を題材にした歌を歌ったりするし」
「私さ、昔けっこう毒舌でそれが原因でイジメに遭ったりしたの。誰がやってるのか正直わからなかったし、どうにもならなかった。そんな過去があるからか社会から疎外された人間に感情が揺さぶられるの」
「実麗ちゃん、そんな過去があったんだ。君のこともっと知りたいな」
俺がそう言うと実麗ははにかんで言った。
「でもそれ以外は特には無いかな。中学の時一人放課後にアコギ鳴らしながら歌ってたりしたら、荷物を忘れた女の子が夢中で聴いてくれてほめてくれたことあったけど」
「いいな、中学時代の実麗ちゃん見れた子」
「私も実麗さんの昔の姿見たかったー」
ひたすら酒を飲んで打ち上げもお開きになりそうであった。
「そろそろホテル行く?」
口火を切ったのは実麗さんだ。
「うん! 行く!」
「ふふ、私も混ぜてよ」
いつぞやみたいに3人で愛の営みスペースに行くことが決まった。




