範之の生い立ち(恋バナ編)
ハグをされながら俺は冷静でいられない気分を抑えつつどちらから言葉を発するのか、しばし無言の間を楽しんだ。
「ねえ、範之くんはどんな恋愛してきたの? 恋バナ聞かせてほしい」
「最初に真剣に恋ができたのは中学時代のリコって子で遠足かなんかの時にキャベツ畑で話しかけた。そして文通したりしてた。
ところがいじめっ子がその手紙を取り、コイツこんな文通してるぞって冷やかして彼女は俺をフッた」
「いいな、文通か。範之くんが獄中入ったら文通する?」
「頼んだ。まだ人を殺す決心が尽かないけど」
「で、高校時代は?」
「高校の頃は演劇部の女の子に恋をした。片想いだった。名前はミズホで大人しい人だった。そんなところが守ってあげたくなるって感じかな。
彼女に近付くために軽音楽辞めて演劇部入るくらい好きだった」
「それでそれで?」
「でもある時ミズホちゃんに言われたんだ。あなたとは友達でいましょうって。とにかく彼女と結ばれたかったから残念だったよ」
「あらら、残念」
「社会人になってからは孤独で昨年漫画家志望の女の子1人と病み垢の女の子2人と少しだけ関わりを持ったくらい」
「そうなんだ、病み垢キラーだね」
「漫画家志望の女の子、カオルとはおそ松さんの実写映画を見に行ってその後映画館の下にあるCD屋でフジファブリックのCDを2枚プレゼントしてから、レストランでディナーを食べた。
彼女が資格を取るって話を信じてあげられず、しつこく詰問してたらフラれた」
「いじめ被害の影響で人をなかなか信用できないのかもね」
「栃木のメンヘラは家庭環境には特に問題は抱えてないみたいだったけど、市販薬依存でせきどめ薬をODしてた。彼女とはこういう風にカラオケ屋でデートして、そこで酒と薬に溺れる彼女に内心ビビった。
栃木はタクシーがつかまりづらく、さらにLINEpayなどの決済サービスにもあまり対応してる店がなくって
自腹をそこそこ決めた」
「で、その子とはどこまで続いたの?」
「今までの女の子で1番多く会話をかわした。介護職がキツいとか職場のお局に無視されているとか。恋愛している精神的余裕がなさそうだった。
もんじゃ焼き屋でプレゼント贈ったら安物なんて受け取らないってフラれた」
「あ〜、ツイッターで愚痴ってたアレね。範之くんって女運も無いよね」
「九州のメンヘラとは毒親繋がりで仲良くなれたものの、男女の仲には発展しなかった。
それは彼女のお腹の中に赤ちゃん、もちろん俺の子じゃないがいて、その子を中絶する為に病院に入院したりでとてもそんなムードではなかった」
「エグい……」
「女の子に相手にされない人生に疲れた。でもこうして美彩ちゃんに会えたワケだし、今は幸せだよ」
「ありがとう」
そうこう、長話していたらスマホの時刻を確認すると18:55だった。
こっから美彩の家までは20分くらいらしい。
俺は笑顔を浮かべる美彩と手を繋いで、「それじゃうちのジジイを殺してくれるね?」と言う彼女に本気なんだなと思いつつ、仲良く埼玉の街を歩いた。