範之の生い立ち
「今思えば生い立ちもその後の大人になってからの人生もろくなもんじゃなかったな。君みたいな可愛い女の子に相手にされる前は昨年は3人位の女の子にフラれてきたし」
「恋バナと生い立ち、どっちから話すの?」
「生い立ちからで。恋バナは酒飲まないとやってられない」
「俺が小さい頃、家庭は荒みきっていて父親はギャンブル依存症とアルコール依存症だった。母親はそんな父に振り回されて精神を病んでいた。毎日父への愚痴を聞かされ、ろくにかまってもらえなかった」
「それは辛かったね」
「電車賃貸さないならオレは歩いて何十キロも離れた仕事場に向かうとかふざけた言葉を父は言ってさ。兄2人にも幼い頃は気にかけてくれたけど、中学の時万引きしまくったり非行を重ねていたら愛想を尽かされて」
「変なお父さんだね」
「借金までして父方の祖父母が返したり。小学校では暴れる子供で孤立してて、中学時代はいじめを受けていた」
「かわいそうだね、範之くん」
「そんで高校時代、友達はできたけど恋人はできなかった。ミスドで働いたりしたけど仕事でミス連発して女の子からはカッコ悪い男に映ってたんだろうな。
大人になってからも職場を転々とし、地元で働くのはイヤだったから東京まで足を運んで100社アルバイトの面接受けたけど落とされた。
ミュージシャンと小説家を目指してニートをしていたけど成功しなかった。いつの間にか自分も酒に溺れていた」
「ミスドで働いてたのに彼女できなかったとかスゴ」
「俺、幼い頃にいじめっ子に絵をバカにされてから絵やマンガを描くのが怖かったんだ。でもそれじゃ人生後悔すると思って4年前マンガを描き始めた」
「へぇ、私と趣味同じだね」
「あとはホームレス生活も少しだけした」
「街で危害加えられなくてよかったね……」
「美彩ちゃん、もう一度だけキスしてくれないか。そして可哀想な範之くん、えらかったねって言って頭をナデナデしてくれないか」
「そんなことならお安い御用だよ」
隣に座っている彼女は俺の頭をナデナデしながら言った。
「ノリくん、今まで頑張ったね。美彩が見ててあげる。辛かったね。ふふ、よしよし」
そして俺の口をふさいだ。
彼女が驚いた表情で言った。
「ノリくん、泣いてる!?」
いつの間にか俺の目から涙が落ちていたようだ。
「ううっ、うううっ、美彩ちゃん。俺、本当に辛かったんだよ」
「私なんかでよければ力になるよ」
彼女に抱きしめられ、甘いシャンプーの匂いと体温が伝わってくる。
今はただ彼女にハグされていたかった。