カラオケ屋での殺意決意
埼玉のあるカラオケ屋。
美彩の指定した303号室に行くと彼女は既にコーラを飲んでいた。
「あっ、範之さんだ。メガネかけてるんですね。知的って感じがしてステキです」
「君が美彩ちゃんか」
「私、お酒飲みたい。いいよね? 未成年だけどこれから話すことは酒なしだと伝えにくいから。ねっ? お願い」
手を合わせてお願いしてくる美彩の美貌を見ていると、
酒くらいいいだろうとなった。
運ばれてきたジョッキのジムコークを飲みながら、彼女は言った。
「父にDVされてて、ツラいの。私の願い事聞いてくれる?」
そう言いながら彼女は服を少しめくりあげ、へその周りにある青あざを見せつけてきた。
「頼みたいことって何だい?」
「私の父を殺してほしい」
空気が一瞬、凍りついた。
殺人依頼を初対面の男に頼み込むくらい、彼女は追いつめられていた。
「ついでに言うと、私殺人をテーマにしたマンガや絵を描きたいから無関係な人を夜道とかでこっそり殺すこととかもしてほしい」
「えっ、そんなこと……」
絶句していると、彼女は俺の肩をつかみ俺の身体を抱きしめ唇を重ねてきた。
生まれて初めて女性にハグされ、キスまでされた俺は快楽物質で脳をやられた。
そして彼女に気に入られるために俺はシリアルキラーになる道を決意した。
といっても、本当に人を手にかける覚悟が決まるのは彼女の父親を殺した後からなのだが。
「美彩ちゃんは何部なの」
「美術部だよ」
「絵描くんだ」
「家では描いてられないけどね」
そう言うと思い詰めたような表情をした美彩。
「何で私って生まれてきたんだろう」
不幸な生い立ちに産まれたのは自分も同じだったから、
彼女の言葉が肺腑に刺さった。
「でも、何で父親以外の赤の他人をも殺害してほしい訳?」
「世の中に復讐してみたいと思わない? あなたをフッた女も殺そうよ」
「……わかった。で、頼まれてた市販薬買ってきたよ」
「わ〜、プロンだ。私の大好物♡」
「女の子とキスするのなんて初めてだから興奮したよ」
「私の言う通りに色々な事件を起こしてくれたら、もっと口づけしてあげるね?」
笑った彼女の笑顔はどこかさみしげであった。
「父が帰ってくるまでまだたっぷり時間あるから範之くんの生い立ち聞かせてよ。辛くなったら途中で話すのやめていいから」
「じゃあ話すよ」