静岡、三島での犯行(前半)
「あっ、下着買いませんか?」
道行く風俗目当ての男に声をかける美彩。
何やら交渉しているようだ。
電柱から見張っていると取引を済ませた彼女は俺の元にやってきた。
「6000円で売れたよ。ブラとパンティで」
「やったね」
「あと3人に同じ値段で売りつけば静岡まで行って美味しいもの食べれる」
彼女は顔を赤面させながら下着を売っていった。
18000円を手にして、静岡までの電車に乗った。
「三島に思い入れあるんだ。毒父から逃れて家出した先が三島でだからそこに寄らないか?」
「いいよ〜。幸せそうな女性を狙おうか」
数年前、静岡に家出したことがある。
地域包括支援センターだかなんだか忘れたが、そこでは
おにぎり2個を渡され食べ終わってしばらくしてから父が迎えに来た。
内心、迎えに来なければ良いと思った。
「ねえ、手繋ごうか」
美彩からの嬉しい声掛けに俺はうなずき、手を繋いだ。
彼女の手は温かった。
「美彩、美彩!」
俺は突然美彩にキスをした。
「んもお、早いってば。獲物を殺してからいつでもキスはできるじゃない」
「今だから言えるけど高校中退したの、いじめが原因で。美術部に所属してて、そこでは馴染めていた。でも教室ではオーソドックスないじめに遭ってたんだ」
「それは辛いな。俺も高二くらいの時に軽く先輩からいじめられたけど選択式の授業な高校だったからたまにしか顔を合わせず、特にエスカレートすることは無かったよ」
「うらやましい。私生きててもいいのかなってやっぱり思った」
俺は美彩の手を強く握りしめながら言った。
「今は俺がいる。俺がいる!」
「……ありがとう。離れないでね」
寂しく笑った彼女。
ツーと彼女の頬を涙が伝う。
「あれ、涙が出てくる」
「美彩ちゃん」
「私たちのやってることって間違ってるのかな。生きること自体苦しみなんだからそれから解放してあげるってのはある意味幸せなんじゃないかな」
「美彩ちゃんはシリアルキラーに惹かれるんだろ?」
「うん、こんな世界なんてぶっ壊してほしい。社会なんてメチャクチャになってしまえばいいの。平和ヅラしたブルジョワジーの飼い犬どもを死で資本主義から解放してあげるの」
「じゃあ今回のターゲットは金持ちそうな女性にしておくか」
「最高! 金持ち憎いもん」
キャハハと笑う美彩の腕には古い傷跡があった。
「聞きそびれていたけどそれって一体?」
「これはリストカット。一時期してたな。生きてる実感が湧くから」
「俺のいる間は手首切らないでくれ」
「わかった、でももうしないよ」
電車を降りて2人とも緊張をほぐすためにコンビニで多くの酒を買い、神社のベンチでのんびりと飲む。
「父にDVされている時、うさぎのぬいぐるみがバケモノになって喰い殺してくれたらいいのにって思ってた。
人生が上手くいかない私のウサ晴らしをしてくれる殺人鬼が出たらいいのにとも思った。
シリアルキラーの犯行動機と家庭環境が私に謎の共感を呼び起こした」
「うん、美彩ちゃんは苦しみすぎたんだね」
秋の季節に2人、紅葉はまだ成らないと思いながらぼーっとした。
「こども食堂の主催者のNPOのお偉いさんとか金持ってそうじゃない?」
突然話し出した彼女。
「そうかな」
「どうせそういう偽善をして金を溜め込んで裏では豪遊してるのよ」
「ならば成敗しなくてはな」
「うんうん。血祭りにあげちゃお!」
奇しくも今日、町の掲示板を見るとこども食堂が開かれる。
電話をしてみると高校生でも食べれるらしい。
美彩はごちそうになったお礼に後片付けを手伝うというストーリーを組み立てて、現場を手伝うお偉いさんを襲うことにしようと言い出した。
俺は彼女に従うことにした。
秋にしては冷たい冷たい風が吹いていた。




