向けられた怒り
俺とメナスの足は〈魔法訓練所〉のあるほうへと向いていた。
やはりおかしいな……。
北の大地で最大の都だというのに、まるで活気がない。
あまりにも静かすぎる。
そして、先ほどから俺たちに対して、妙な視線が向けられているな。
それはまるで、敵意のような……悪い意味での視線だ。
これがクリードが理想とし、思い描き、治めていた国なのか?
俺が光の中で見たクリードの姿からして、こんな国にするようには到底思えないのだが……。
「メナス。お前がカーザ村に滞在していた期間、この国には帰ってきたりしていたのか?」
「いえ、クリード様からレイン様を見守るようにと命じられていましたので、一度もこちらへ帰還はしておりません」
「そうか。しかし……この国はこんなにも静かなのか? これがクリードの理想としていた国なのか? 夢を追い求めてくるような、華やかな場所にはとても見えないのだが」
「たしかに……静かすぎますね。私が居た頃はとても騒がしく、あちこちで賑わっておりました」
彼女は考えるような仕草をし、言葉を続けた。
「もしかすると、クリード様が不在の間に立てている代理の者が、このように国を変えてしまったのかもしれませんね」
その言葉と同時に、彼女は警戒するかのように目だけを動かし、辺りを見回す。
「それと、レイン様のご指示のもと槍を収め歩いていますが、先ほどから妙な視線を感じております」
やはり視線には気付いていたか。
しかし、代理はクリードの妻、つまりは俺の母親だとばかり勝手に思っていたが、これはなにか裏がありそうだな。
「聞くが、その代理とは何者だ?」
「はっ。この国の大臣である〈バルデス・エルフォート〉が代理を務めております」
「ん? エルフォートだと? ということは、メナスの血族なのか?」
「はい。大臣、バルデスは私の父でございます」
ほう。まさかメナスの父親が大臣で、クリードの代理だったとは驚きだ。
メナスを俺の監視役にしたり、よほどエルフォート家のことを信頼していたのだろうか?
そんなことを考えていると、彼女の顔が少しずつ曇り始める。
「しかし、私の父がクリード様の築いてきた国を変えるとは思えません……。クリード様とはよくお酒を酌み交わしておりましたし、いつも都の民と会話しては豪快に笑っていて、信頼も厚かったはずです。それなのに、そんな父が変わってしまったというのでしょうか……?」
彼女は困惑し、信じられないといった表情を浮かべている。
「なに、お前の父親が変わってしまったと決めつけるのはまだ早いのではないか? あとで確かめればわかることだ」
「そ、そうですね。私としたことが取り乱してしまい、申し訳ありません……。ひとまず〈魔法訓練所〉へ向かいましょう」
ーーその時、一人の中年の男が近寄ってきた。
先ほどから妙な視線をこちらに向けているうちの一人だ。
その男は怪訝そうな顔つきでメナスを一瞥し、俺に声をかけてきた。
「おい、そこの黒髪の兄ちゃん。その女はいかにもあの城のもんですって格好してるが、お前も城のもんか?」
「いいや、違うが? 仮に俺が城の者だったとしたら、なにか問題でもあるのか?」
「問題だと? あるに決まってんだろうがっ!! あの大臣がクリード様の代理になってから、金品だの食料だの、俺らの生活をぜんぶ奪ってんだからよおっ!!」
ほう。やはりこの都の静けさは、大臣が関係しているようだな。
メナスのこともある。この男の話だけを鵜呑みにするわけにもいかんだろう。
「だから城のもんがこの辺をうろついてたら、またなにか巻き上げにきたんじゃねぇかって思っちまうんだよ! もうみんなギリギリで生きてんだよ、ふざけんなっ!!」
「わ、私はっーー……!?」
なにかを言おうとしていたメナスを俺は手で制し、黙っていろと目で訴えた。
「なるほどな。話はわかった。それで? そのみんなの思いとやらは、ちゃんと大臣に伝えているのか?」
「俺らの思いなんて届かねぇんだよ……。大臣は城に籠りっきりで、外になんて一歩も出てきやしねぇ。それに抗議しようと城に向かったところで、入り口は固く閉ざされてて誰も入れやしねぇんだ」
つい先ほどメナスから聞いた父親の姿とは、まるで正反対だな。
男の発言に彼女は動揺を隠せていない。無理もないだろう。
「あんなに開放的で城の出入りも自由だった国が、あの大臣のせいで完全に腐っちまった。クリード様はいつになったら帰ってくるんだ……もう限界だ。みんなでクリーディアを出ようかって話もしてる」
「そんな思いをしてまでこの国にいる理由はなんだ? いつまでも帰ってこない王を待ち続け、辛い思いをしながら生きていてどうする? 出たいのなら出れば良いだけの話だろう」
この男……はじめに勢いよく噛み付いてきたかと思えば、今度は泣き出しそうな顔になっているではないか。
「俺たちはみんなクリード様が大好きなんだよっ……。クリード様が築いてきた、このクリーディアが好きなんだ! だから離れられねぇ……クリード様が帰ってくるのをみんな待ってんだよっ!!」
それほどまでにクリードは民から慕われていたのか。
しかし、大臣はどうしてそこまで変わってしまったのか。それとも今の大臣が本来の姿なのか?
いずれにしろ、本人と直接対峙すればわかることだが。
「そうか。気持ちは伝わった。残念だが、クリードはもうここには帰ってこない」
「なっ……!? なに言ってんだよ? い、いきなりお前にそんなこと言われて、だ、誰が信じんだよ!?」
突然の俺の言葉に、男は激しく動揺している。
それと同時に、メナスも男に対し哀れみの表情を向けている。
「俺がここに現れたのが、その証拠だ」
そう言いながら俺は、眼にかけていた〈化粧隠蔽〉を解除し、碧眼を男に見せた。
すると、男が動揺していたのも束の間、俺の碧眼をじっくりと覗き込み、この眼に驚いている様子だ。
なんとも感情の移りが忙しい男だ。
「そ、その眼はクリード様と同じっ……!? あんた一体、何者なんだ!?」
やはり、俺が持つこの碧眼は珍しいらしいな。
魔法で隠していたのは正解だったようだ。
「俺はレイン・アールスヘイム。クリーディアの王となり、そしてーー」
ビシッと、力強く人差し指を城のほうに向け、言った。
「この国を解放する」
俺の言葉が理解できないのか、ただ状況が飲み込めていないだけなのかわからないが、男はポカーンと大きく口を開けていた。
「ちょ、ちょっとなに言ってるかわからねぇが、アールスヘイムって言ったよな!?」
「あぁ。レイン・アールスヘイムだ」
「ということは、あんたはクリード様の……」
「そうだ。どうやら俺はそのクリードの息子らしい」
また男はポカーンと口を開ける。
まさか、俺の言ってることがまだわからないのか?
「ら、らしいってどういうことだよ!?」
なんだ、そういうことか。
「俺もこのことを昨日知ったばかりでな。だからそういう表現になってしまっただけだ」
「なんてこった……クリード様に子供がいたなんて知らなかったぜ……」
「そうだろうな。俺はこの北の大地の辺境の村で生まれ育った。なぜクリーディアではなかったのかという疑問はあるが、なにか理由があってそうしたのだろう」
まぁ、おおよそ見当はつくが、それはそのうちはっきりすることだろう。
そして、俺の発言の直後、周囲にサーッっと冷たい空気が走った。
「レイン様のご身分をお知りになっても、身を弁えないのですね、あなたは」
俺たちの会話を黙って聞いていたメナスだったが、俺と男の間に割って入り、冷静な口調で男にそう言った。
大臣は変わってしまったのか?
それとも……!?
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