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超越者レイン  作者: おおば ゆいと
第一章 クリーディア解放編
32/33

玉座の間

 バルデスの護衛であろう男は、俺たちと戦闘する素振りも見せずすんなりと玉座の間へと通そうとしている。

 どういうことだ? この男は護衛ではないのか?


「ちょっとっ! こんな簡単に中にれるなんてどういうつもりっ!? いくらなんでも怪しすぎるでしょ!!」


 アミナがそう言うのも至極当然だ。なにか裏があるのではないか? と、誰もが疑うだろう。

 しかし、アミナの言葉に対し男はなにも答えず、どうぞと言わんばかりに玉座のほうへと手を差し出す。


 俺たちは男の案内をすんなりとは受け入れることはせず、足を止め周囲を警戒する。

 城に入ってからここまで一直線。そんな容易に突破できるわけが無い。


 そう思っていたのだが……。

 やはりこの男からは殺気を感じられない。それどころか、俺たちのことを敵とは思っていないようにも見える。


 殺気を消していて、背後から襲うつもりであるのならこんな所作にはならないだろう。

 それとも俺が未熟で、読み違えているのか?


 ここはひとつ、試してみるか。


「問題無い。このまま黙って案内に従うぞ」


「しかしレイン様。なにも無いように見せかけて、この男が背後から襲ってくることも考えられるのでは?」


 まぁ、メナスがそう警戒するのは想定の範囲内といったところだ。

 一方のアミナはというと。


「そう? レインがそう言うのならそうしようかしら」


 ふぅ、と肩の力を抜き警戒を解くアミナ。

 アミナよ、問題無いとは言ったが、警戒を解けとは俺は言っていないぞ。


 二人とも俺が思っていた通りの反応だな。

 ならば、と俺は軽めの殺気を込めながら言った。


「この男が襲ってくることはまず無い。襲おうと動きを見せた瞬間に俺がこの男をっているからな。それにーー」


 俺の殺気を感じ取ったのか、アミナがまた警戒する姿勢を見せた。

 少しは学習したようだな。それで良い。


 俺はくつくつと不敵に笑いながら言った。


「それに、この俺が背後を取られるなどということはあり得ない」


 そう言って男のほうを見遣みやると、表情こそは変えないものの全身の筋肉が瞬間的に強張こわばったのを俺は見逃さなかった。


「とっ、とにかくこのまま中に入ればいいのよ……ね?」


「アミナさん、ここはレイン様のご指示に従いましょう。背後は気にせず、私たちは前を行けという意味だと私は解釈しています」


 ほう。さすがはメナスといったところか。

 父親に似たのかは知らんが、用心深い性格でありながらも俺の意図をしっかりと汲み取るとはな。


 しかし、残念ながらそれだけでは満点とは言えないな。

 背後もなにも、俺は今回ただの傍観者としてこの場の行く末を見届けるつもりだ。


 ただし、展開次第では動かざるを得ない事態になるかもしれないので、傍観に徹するとは言い切れないところでもあるが。


 そう俺が思案していると、彼女たちは男の通されるままに玉座の間の中へと入るーー


 扉の先からいかめしい玉座へと、一本の赤い絨毯じゅうたんかれていた。

 その厳しい玉座の手前には、王が高い位置から見通せるようになっているのか三段の石造りの段が設けられている。


 だが、段差があるにも関わらず、絨毯にはしわひとつ見受けられなかった。

 よほど手入れが行き届いているようにも見えるが、はたしてこの護衛らしき男が手入れしているのだろうか?


 そんなことを考えても意味がないな。

 どうせこの城はーー


 ーー跡形も無く破壊するだけだ。


「お父さん、お久しぶりです。クリード様のめいを無事に果たし、ここに帰還しました」


 赤い絨毯の先、玉座に鎮座している男に向け凛とした態度でメナスは言った。


 その男は上下が一続きになった群青色の法衣をまとっていて白銀で短髪。顎には白銀の髭を貯えていて、体格は華奢きゃしゃで身長は男性にしてはかなり低い。

 ひたいから右頬にかけて切り傷のようなあとがある。


 これがメナスの父親、クリーディアの大臣でもあるバルデスなのだろう。


 しかし、玉座に鎮座しているこの男はメナスの言葉に反応を示さない。

 それどころか、男の視線はメナスではなく、アミナを捕らえていた。


「ちょ、ちょっとっ! 自分の娘が戻ってきたってのに無視なのっ!? それに、アイツはあんたの護衛なんじゃないの!? どうなってんのよっっ!!」


「がははっ! こいつは私の護衛などでは無い。とうに解散した『クリード護衛軍』、中でもクリードの側近とも言える第一護衛軍の〈ライ〉という名の男だ。どういう訳かこの私に牙を剥くことも無く、クリードが築き上げたこの城を守りたいようでな。私には害が無いと判断し、ただここに置いてやってるだけだ。がははっ!」


 ふむ。だからこの〈ライ〉という男から殺気を感じなかったのか。

 しかし、バルデスと思わしき男はメナスのことにはまったく触れようともしていない。


 なんらかの意図があるのか? それとも城門前の兵士が言っていたように、この男には息子も娘もいないとでもいうのか?

 ただ避けているだけのようには見えない。


「護衛軍が解散……? この方が第一護衛軍……?」


 メナスが露骨に動揺する。

 まるで、私はなにも聞かされていないと言わんばかりの取り乱しようだ。


 それよりも、俺たちがここに来ることに対してなにも思っていないのか?


 警戒しているようにはとても見えん。余裕だとでもいうのだろうか。

 いや、そもそもこのバルデスと思わしき男は俺たちと戦おうとすらしていないのかもしれない。


「メナスっ。護衛軍はね、この平和な北の大地にはもう必要無いって、クリード様が三年前くらいに解散宣言をしたの。マスターが護衛軍だったのも知らなかったくらい護衛軍のことをなにも知らないアタシだけど、でもあの解散宣言をした日、クリード様の側に立っていたのはこの〈ライ〉という男だったのを思い出したわっ」


 アミナがそう説明すると、メナスは落ち着きは取り戻したものの、少し寂しげな表現を浮かべた。


「そう……でしたか。たしかに私は都から離れている十八年間は外部との接触を完全に絶っていましたから、知らないのも当然ですね」


「でっ!! あんたっ!! なんで自分の娘のメナスを無視すんのよっ!? 十八年振りの再会でしょっ!? ほんっと意味わかんないんだけど!!」


 騒がしいアミナ、発動準備完了といったところか。

 さぁ、玉座に鎮座している男はどう答える?


 がははと笑っていた表情が一変し、眉間に皺を寄せ左目を細める。

 そして左手を顎に伸ばし、白銀の髭に触れる。


「この女が私の娘? おい、小娘。お前こそなにを言っているのだ? 私の血族はこの世界に私しか存在しない。よって、息子も娘もいないことになる。寝言だとしたら、寝てから言うんだな」


 男の言葉に、それぞれが違った反応を見せる。


 言うまでも無いが、アミナは発動準備が完了しているため、いつ騒ぎ出してもおかしくない。

 メナスは男の発言が理解できていないのか、無表情のまま固まってしまっている。


 少し意外だったのが、この〈ライ〉という男の反応だった。

 彼にはまったく関係の無い会話だと思っていたのだが、男の発言によって激しい怒りを覚えたような、そんな表情を見せていたのだ。

 もちろん、前方にいるアミナやメナスはそれには気付いていないが。


 一体、なにがどうなっているのか。

 とりあえずここはアミナに発動してもらって様子を見るとするか。


「ちょっとあんたっ!! バカにしてんのっ!? 寝言なんかじゃないわよっ!! ちゃんと起きてるしっ!!」


 おい、アミナよ、そこなのか……声を荒げる箇所は。

 しかし、アミナが声を荒げたことでバルデスと思わしき男は声を強め、わずかながら魔力を込めて言葉を返す。


「馬鹿になどしていない! 私は事実を述べたまでだ!!」


 魔力を込めた言葉は俺にはなにも感じなかったが、彼女たちは少しばかりの威圧を感じるくらいの些細なものだろう。


「だったら彼女の存在は一体なんだって言うのよっ!? 彼女の名前はメナス・エルフォート! あんたと同じ〈エルフォート〉よっ!! これをどう説明してくれるのかしら!?」


「ア、アミナさん、す、少し落ち着いてください……」


 そうメナスがアミナに声をかけるも……。


「メナスっ!! あんたもあんたよっっ!! なんで黙ってんのよ!? あんたの話でしょうがっ!!! しっかりしなさいよっっっ!!」


 騒がしいアミナは止まらない。

 このままでは矛先が俺にまで向きそうな勢いだ。


 しかし次の瞬間、玉座の間がゴゴゴ……と音を立て激しく揺れ出した。

 揺れの原因は、玉座に鎮座しているバルデスと思わしき男から発せられた魔力であった。


 アミナとメナスは男からの攻撃に備え身構える。

 ライという男も身構えていた。


 そして男がこの場を粛清するかのように、先ほどよりも強い魔力を込めた低く重い言葉を発する。


「黙れ、生意気な小娘。魔導の血は終わるとお前には言ったはずだ。図が高いと言われたのを忘れたのか? なあ、小娘。いや、ただの小娘ではなかったな。そうだろう? 『優者』アミナ・エクスウェルよ」

アミナが……優者!?


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