クリーディア城内へ
クリーディア城、レインの手によって粉砕された城門前ーー
「いつまで固まっているのだ? 先へ進むぞ」
「え、えぇ……」
俺の言葉に対し、引き攣った表情で答えるアミナだが、メナスはなにやら別のことに思いを巡らせているようだった。
まぁ、これから父親に会うわけだからな。彼女の心中
はとても計り知れない。
しかし、彼女の表情は思い詰めているようにはとても見えなかった。
「ちょっとっ、メナスっ! 大丈夫っ!?」
アミナがメナスに声をかけるも、メナスからの反応は無かった。
「メ〜ナ〜スっ!! 聞いてるのっ!?」
「ア、アミナ……さん? はっ、はいっ! すみません、ちょっと昔のことに思いを馳せていました」
なるほどな。メナスは俺の亡き母、ダリアとの過去の日々に思いを巡らせていたというわけか。
ダリアがワイロピア、魔王の血族だと知って、彼女なりになにかしら腑に落ちたところがあるのかもしれないな。
「はあぁ〜っ!? なんで今、こんな時に昔のこと思い出してんのよっ!」
つい先ほどまで固まっていたというのに、騒がしいアミナが発動しそうな勢いだ。
「いえ、レイン様からダリア様がワイロピア、魔王の血族だと聞かされたからこその今だったのです」
そう答えたメナスの表情は、今までと違ってとても勇ましく見えた。
(しかし、どうしてあの時ダリア様は母のことを……?)
一瞬ではあるが、戸惑ったような表情をしたメナスを俺は見逃さなかった。
過去を振り返ったことでなにか引っ掛かるようなことがあったのかもしれないな。
「で、どうなんだ? 二人ともこの先に進めるのか?」
それでも俺は二人の会話を遮るように問いかける。
その問いかけに二人は互いの目を見て頷いた。
「もちろんよっ!」
「はい、問題ありません」
そう答えた二人の表情はとても凛々(りり)しく、その表情が俺には心地良く感じられた。
しかし、アミナに関してはまだ不明瞭なところがある。
メナスが一瞬見せた戸惑いの表情が気にはなるが、この場においてはとりあえず問題は無いだろう。
「では、行くとするか」
二人にそう声をかけ、俺たちは瓦礫の山を飛び越え前進する。そして城内に入るための扉の前へとやってきた。
「ちょっと待ってっ!!」
俺が扉を開けようと手を伸ばしチカラを込めた瞬間、アミナから声が上がった。
「どうした? アミナ」
「はあぁ〜っ!? どうしたですってえっ!? 気付かなかったなんて言わせないわよっ!?」
「なんだ? この扉が魔力によって閉ざされていることを言っているのか? そんなものはとうに気付いている。わざわざ止める必要があったのか?」
これくらいのことで待ったをかけるアミナではないはずだ。なにかしらの懸念があってのことだろう。
ここは彼女の話を聞いてみるとしよう。
「あんた、また力尽くで扉を開けようとしてたわよねっ!? だから止めたのよっ!」
ん? 妙な言い回しだな? また、とはどういことだ? 俺は一度もそんな行動をした覚えはないが。
「アミナ。なにを言っている? 俺はただこの扉を開けようと手を伸ばした。一度たりとも力尽くという行為に及んだことがないのだが?」
「はあぁ〜っ!? ついさっき扉どころか、外壁もろとも破壊したじゃない!! それが力尽くじゃないとでも言うつもりっっ!?」
なるほど。先ほどのアレが彼女には力尽くに見えていたようだな。
「あぁ、アレか? 拳に魔力を込めてただ軽く小突いただけだったんだかな。だが、不思議なことに外壁もろとも瓦礫の山となった。ただそれだけだぞ?」
「かっ、軽く小突いたですって……!? あんた……ほんとうに何者なのよ……」
「レイン・アールスヘイムだ。アミナよ、それは何度も言っているではないか」
アミナは左手をおでこに添えて『はぁ……そうでしたね』と半ば諦めたような仕草をする。
さすがにメナスも俺たちの会話に対して苦笑いをする他なかったようだ。
「うん。もういいわ……。この扉はアタシが開けるから、二人は下がってて」
聞いた自分が悪かった。
それを言い聞かせながら、アミナは目の前の扉に向き直り、目を閉じ右手に魔法陣を展開する。
「〈解錠〉」
アミナが行使した変化系魔法の〈解錠〉により、扉に帯びていた魔力が消える。
「さっ、行きましょっ!」
「ア、アミナさん、お待ちください!」
アミナが扉に手を伸ばそうとした瞬間、メナスが慌てた様子で待ったをかける。
一体、今度はなんだと言うのだ?
「どうしたのよ? メナス。なにか怪しいことでもあったの?」
「いえ……その……怪しいとかでは無いのですが、レイン様も、アミナさんもこの扉に手を伸ばしていたので……」
どういうことだ? 扉を開けるには扉に手を伸ばすのが普通だと思うのだが。
「ちょっとっ! メナスっ、なに言ってるのよっ? 扉を開けるんだから、扉に手を伸ばすなんて当たり前じゃない!」
アミナも俺と同じことを思ったようだ。
メナスの待ったを気にせず、アミナはまた扉へと手を伸ばす。
「アミナさんっ! お待ちくださいっ!!」
「もおっ! なんなのよぉっっ!!」
二度も止められ、苛立つ様子のアミナ。
しかし、わからんな。ただ扉を開けるだけだというのに、なぜメナスは止めるのか。
だが、その答えはすぐに出た。
メナスが扉の右側にある鎖へと手を伸ばしたのだ。
その鎖の上部は箱のような形になっていて、回転するような仕組みに見える。
どうやらこの鎖を引くことで扉が上がるようだ。
「こ、この扉はこちらの鎖を引いて開ける仕組みの扉になっております……」
申し訳なさそうにメナスが言うと、苛立ったのもどこへ行ったのやら恥ずかしそうに顔を真っ赤にするアミナ。
ジャラジャラと鎖を引く音がなかなかにうるさいな。
アミナが『し、知ってたし』と小声で言っていたようだが、鎖の音で掻き消されて聞こえなかったことにしておくか。
「お待たせしました。中へ入りましょう」
メナスの声を合図に、俺たちは城の中へ入る。
用心深いバルデスのことだ。城内に兵をびっしりと置いていても不思議ではない。
そう思ったのだが……。
「うう〜っ……寒いわね……。なんでこんなに冷えてるのかしら……とても建物の中だとは思えないわ……」
まるで人の気配が無い。
石で造られているためか、誰もいない空間は冷え切っているのだろう。
静まり返った大広間。兵が潜んでいるような魔力も感じられない。
この大きな城で俺が感じ取った魔力はたったふたつ。
バルデスと、その護衛と見て良いだろう。
「玉座の間に向かうまでに、激しい戦闘を何度も控えていると思っていたのですが……」
「どうやら、その玉座の間とやらまで一直線のようだな」
「ん〜。魔力をムダに消費せずに済んで良かったってことかしら?」
少しは楽しめるかと思っていたのだがな。
残念だが、さっさと片付けて国を解放する他ないか。
「では、行こうか。メナス、問題無いか?」
「はい、レイン様。意思が揺らぐことはありません」
「アタシにも一発くらい殴らせてよねっ? ねっ? メナスっ」
メナスは無言で静かに首を横に振る。
それを見てメナスの覚悟を感じ取ったのだろう。アミナも必要以上に絡みはしなかった。
メナスの先導で俺たちは玉座の間を目指す。
石造りの螺旋階段を上り、上階へ向かう。
階段を上り終え、長い廊下の最奥に豪奢な扉があるのが見えた。
間違いなくあそこが玉座の間だろう。
どうやら扉から魔力は感じられない。
あれだけ外側を厳重に固めていたというのに、内側の守りにまったくチカラを入れていないのはなぜだ? あまりにも無防備すぎる。
それとも、玉座の間へと続く扉の前に立っている男だけで事足りるということだろうか。
「誰かいるわね。大臣の側近ってとこかしら?」
「どうでしょうか。父は基本的に誰かを近くに置くような人ではなかったと記憶してます。しかし……」
「時が流れれば、それも変化するかもしれんな」
俺の言葉にメナスが頷く。
それにしても、今のところあの男から殺意はまったく感じられないな。ただ消しているだけなのか?
そして俺たちは玉座の間の目の前まで辿り着く。
扉の前で立ち塞がる男は、身長が180cmほどで引き締まった身体をしており、高さの割にそこまで大きく感じさせない。
白銀の短髪で、軽めの鎧を身に纏い腰には剣を携えている。
その剣はそこら辺の兵士が持つような剣とはまるで違っているのが見て取れる。
いかにも王国騎士団に属していますといった風貌である。
ん? このような表現は以前どこかで……。
俺が男を観察していると、その男は玉座の間の扉に手をかけ、そのまま扉を開けた。
「さあ、中へ」
なんだ? この男はバルデスの護衛ではないのか?
違和感を覚えながらも、俺たちは男に通されるまま玉座の間へと入った。
あまりにもあっさりと玉座の間へ……?
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