欲しがりさん
クリーディア城、城門前にて、俺たちは予想外の先制攻撃を受けたーー
しかしこれは、魔法でもなんでもないただの砲撃だ。
そんな浅い攻撃で俺たちが傷付くわけがない。
バルデスめ。話し合う気など毛頭ないようだな。
周囲には土煙が舞っていて、視界が遮られている状態だ。
まさかこんなに派手に撃ってくるとはな。
奴はクリーディアの民のことをなんとも思っていないように思える。
「ケホっ……ちょっとっ! いきなりなんなのよっ!!」
「こっ、この展開は考えていませんでしたね……」
アミナとメナスは、呆気に取られている様子だ。
さまざまな状況を想定しておけと言ったのだが、どうやらここまで想定することはできなかったようだな。
こういうこともあるだろうと、俺は想定していた。
砲撃の瞬間に〈空飛行〉で自身の体を上空へと移していた。
「さて、どうしたものか」
上空にて腕を組みながら、俺は考える。
考えるとは言っても、俺が城ごと吹っ飛ばしてしまえば済むことなのだが、それではメナスの覚悟もなにも無くなってしまう。
そうだな、少し様子を見るとするか。
俺が考えていると、土煙の中から魔法陣を展開する光が微かに漏れた。
これはアミナの魔力だな。
「〈陣風〉っ!!」
アミナの巻き起こした風により、土煙が一気に晴れる。
そして、その晴れた先に見えた景色は意外なものだった。
「よっ! 黒髪の兄ちゃん!」
そう言って、上空の俺に向かって手を振っている男。あの男には見覚えがある。
メナスと〈魔法訓練所〉に向かっている際に声を掛けてきた男だ。
しかし、それだけではない。
「行くぞ! みんなぁぁぁっっ!!」
「「「おおーーーーーっっ!!!」」」
クリーディアの民が二十人ほどが集い、それぞれが武器になりそうな物を持ち一斉に声を上げている。
俺は〈空飛行〉を解き、声を掛けてきた男の下へと向かう。
「へへっ、昨日のことをみんなに知らせたらよ、ちょっとばかし少ないかもしれないけど、これだけ集まってくれたんだ!」
「ほう。皆、この国を想っているのだな」
「あったりまえよ! 大臣を城から引き摺り出してやろうって、みんな躍起になってるんだぜっ!!」
「み、皆さん……」
「みんな……」
メナスとアミナもこの状況に驚き、言葉が出ない様子だ。
だが、二人にとってさらに驚くべきことが起こる。
「おぉ、間に合ったか! メナス、アミナちゃん、俺にも協力させてくれ!!」
なんと〈バル・リアーノ〉のマスター、ヴィンス・リアーノまで加勢に来たではないか。
「ヴィンスっ!!」
「マスターっ!!」
「おうっ! どうしても気になっちまって、狩りの仕事を切り上げて来ちまった! 頼りになるかはわからねぇが、俺も援護させてもらうぜっ!!」
ヴィンスの登場により安心したのか、一瞬メナスの表情が緩んだようにも見えたが、すぐにその表情を引き締めた。
「ありがとう、ヴィンス! 皆さんの先導をお願いします!」
「おうよっ! 任せときなっ!! よーし、みんなぁっ! 聞いてくれぇ!!」
ヴィンスが集ったクリーディアの民に声を掛ける。
この国を想って集った民たち。護衛軍や店をやっていることもあって、ヴィンスのことを知らない者はいないだろう。
民たちはヴィンスの話に耳を傾ける。
ヴィンスが話そうとしたその時、砲台から魔力が感じられた。
しかし、瞬時にアミナがそれに反応し、〈空飛行〉で上空へと移動した。
「こんのぉ〜っ! マスターがこれからみんなに話をするってとこを、邪魔するんじゃないわよっ!!」
アミナは魔力を増幅させ、魔法陣を展開する。
それと同時に、門番の兵士が声を上げた。
「第二射撃! 打てえぇぇぇーーいっ!!」
砲台はバチバチと音を立てながら、魔力がどんどんと膨れ上がっていく。
「アミナ、気を付けろ。今回の砲撃は先ほどのただの砲撃とは違うぞ」
「そんなことっ……! 言われなくてもっ、わかってるわよっっっ!!」
アミナの魔力もどんどんと膨れ上がっていく。
そう。この砲撃は先ほどとは違い、魔力を帯びた砲弾を放つ〈魔法砲撃〉だ。
さて、アミナはどう対処する?
なんらかの魔法で砲台を撃ち抜こうにも、外壁を覆っている強固な結界がある限り破壊するのは難しいぞ。
ドゴォォォーーンと轟音を鳴らし、四基の砲台から魔法砲撃が俺たちへ向け一斉に発射された。
「誰ひとりっ! 怪我なんてさせないわっ!!」
そう言ったアミナの指先に冷気が漂う。
「凍っちゃいなさいっ!! 〈氷牙雹〉っっ!!」
アミナの放った〈氷牙雹〉で、魔力を帯びた砲弾に雹のような氷の粒が大量に付着する。
砲弾はパリパリと音を立て、徐々に凍結していく。
数瞬の後、砲弾は完全に凍結した。
この〈氷牙雹〉は中級氷系魔法。
並の人間ならば、この粒がわずかでも付着した瞬間に全身が凍結してしまうほどの威力がある。
しかし、この砲弾が瞬時に凍結しなかったところを見ると、それなりの魔力を帯びていたことがわかる。
もしくは、アミナが砲弾に込められた魔力量を見誤って、自身の放出する魔力量を間違えた可能性も考えられるが。
「ねぇ、砲弾さんっ! 出たところには、ちゃ〜んと戻らなきゃねっっ!!」
アミナは仕上げにもう一つ魔法陣を展開する。
ニヤッと不敵な笑みを浮かべたアミナは、そのまま魔法を発動した。
「ばいば〜いっ! 〈陣風〉っっ!!」
狙いを定めた強烈な矢のような風で、凍りついた砲弾を砲台へ押し返している。
しかもその押し返す勢いは、砲台から放たれた時の勢いよりも倍の速度だ。
凍りついた砲弾は、すっぽりと砲台の中へと返っていった。
「退避っ! 総員退避ぃぃーーっっ!!」
砲台を操っていた狙撃手たちの声が聞こえてくる。
しかしその狙撃手たちの声も虚しく、ボガアアァァァーーーンと激しい音を立て、四基の砲台はアミナの魔法によって見事に破壊された。
「うおぉぉぉーーーっっ!!」
この光景を見ていた民たちが雄叫びを上げる。
ヴィンスもアミナの活躍に微笑んでいた。
しかしだ。
砲台を破壊したからといって、結界が破れたわけではない。
「えっへんっ! どう? レイン。なかなかやるでしょっ??」
〈空飛行〉を解いて俺の下へ来たアミナが、どうだと言わんばかりに人差し指で鼻の下を擦りながら聞いてきた。
それに対し俺は即答する。
「ふっ。俺に評価を求めている時点でまだまだだな」
「ちょっとっ! なによっ!! 少しくらい褒めてくれてもいいじゃないっっ!!」
アミナはそう言いながらキィーっと、顔を真っ赤にしている。
この女、どうやら欲しがりな女のようだな。
「アミナよ。お前がここに来た目的はなんだ? 砲台を壊すことか? 違うだろう?」
俺のこの的確な問いに、アミナはハッと我に返る。
「そ、そうだったわね。ごめん、ちょっと浮かれちゃったわっ」
鼻の下を擦ってる時点でちょっとどころではないとは思うがな。
そんな浮かれたアミナに対し、俺はクイっと顎でメナスのほうに目をやり、アミナに言った。
「メナスはしっかりと自分のやれることをやっているぞ」
そう。兵士が第二射撃の合図を出した直後のこと。
メナスは門番の兵士たちがこの場の指揮をしている者だと判断し、得意の俊足を活かし兵士の背後に回り、あっさりと倒していたのだ。
その姿はまさに紫電一閃。
さすがはダリアからは槍を教わり、クリードの側近にまでなっただけのことはあるようだな。
的確に状況判断ができている。
「これしきのこと、当然でございます。評価以前の問題かと」
パンパンと足元に付いていた砂埃を払いながら、澄ました顔で言うメナス。
「だ〜か〜ら〜っ! ごめんって言ってるじゃないのよっっ!! もうっ……」
ぷうっと、頬を膨らませるアミナ。
その状況を見ていたヴィンスが「はぁっはっはっ!!」と大きく笑っている。
「もおぉぉ〜っ……マスターまでぇぇ〜……」
「いやいや、なかなか良いチームじゃないかっ! はぁっはっはっ!!」
やれやれ。これから大事な一戦だと言うのに、少しくらいは緊張感を持てないのかこの女は。
だが、アミナのこの物怖じしない性格が逆に良かったりするのかもしれないな。
敵の先制攻撃、失敗……!!
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