はじまりの合図
「「レイン……レイン、聞こえる?」」
俺にそう呼び掛けてきたのは、アミナからの〈伝達〉だ。
「「あぁ、聞こえているぞアミナ。どうかしたか?」」
「「ちょっとっ! どうかしたか? じゃないわよっ!!」」
やれやれ。騒がしい女は〈伝達〉でも騒がしいというのか。
「「いつなったら来るのよっ!! もうとっくに朝は過ぎてるわよっ!!」」
どうやら俺がダリアの記憶を見ているうちに、かなりの時間が経過していたようだ。
「「あぁ、すまない。すぐに行く」」
俺はそう〈伝達〉で伝えながら、すぐさま魔法陣を展開する。
「〈瞬間転移〉」
転移した先はアミナの目の前だ。
アミナはそのあまりにも突然の出来事に驚き、「ぎいぃやあああぁぁぁーっっ!!」と奇声を発し、あろうことか俺の顔面を殴ろうとしている。
しかし、拳が当たる寸前に俺だと気付いたようで、アミナはその握り拳を収めた。
「ちょっとっ! ビックリさせないでよっっ!! すぐ行くって言って、いきなりアタシの目の前に現れること無いじゃないのよっ!!」
「お前がどんな反応するのかと思ってな。まさか奇声を発するとは思ってなかったが」
アミナがキィーっと顔を真っ赤にして、俺を睨む。
そんなアミナの横で、木製の椅子に座りながら紅茶を飲んでいるメナスが俺に声を掛ける。
「レイン様。おはようございます」
「あぁ、おはよう。メナス、よく眠れたか?」
「ええ。慣れない魔法の修行のせいか、ぐっすりと眠れました」
メナスのことだ。寝ずに魔法の修行をするのではと思っていたが、やはり今まで魔法が使えなかった分、疲労や負担が掛かってしまったのだろう。
ほんとうに良く眠れたようで、凛々しい顔立ちをしていて落ち着いた様子だ。
「それは良かったな。それで? 修行の成果のほどはどうなんだ?」
「はっ! まだまだ未熟ではありますが、ひとつ技を身に付けるまでに至りました」
「ほう。それがお前の言う、試してみたいことだったのだな?」
メナスは無言で頷く。
怒りを抑え、それでも燃えるような思いが奥に潜んでいるのがひしひしと伝わってくる。
メナスのことだ。修得したのはひとつではないのだろうな。
「アミナ。メナスに対し、魔法を教えてくれたことに感謝する」
「べっ、べつにっ? アタシは大したことしてないわっ。……でも……うん、そう言ってくれて、あ、ありがと……」
先ほどとは違い、今度は照れで顔を赤くしているアミナ。
ふっ。相変わらず感情が騒がしい女だ。
「出発前にお前たちに伝えておきたいことがある。ここに来るのが遅れてしまった理由でもあるのだが、俺の母親の記憶を見ていたのだ」
「だ、ダリア様ですかっっ!!?」
そう言ってメナスは勢い良く立ち上がり、腰掛けていた椅子がガタンと音を立て倒れる。
「あぁ、そうだ。記憶を見たと言っても、ダリアの命が終わる直前の記憶だったがな」
「……そう……ですか……」
勢い良く立ち上がったメナスだったが、俺の言葉を聞いて一気に肩を落とす。
それを見たアミナが心配そうにメナスに声を掛ける。
「ちょっとメナス、どうしちゃったのよ?」
「……ダリア様は……レイン様をお産みになった際に、亡くなられたと聞いております」
「えっ……そうなの?」
「あぁ。事実だ。俺はダリアの命と引き替えに、この世に生を享けた」
俺の言葉を受け、二人は水を打ったようになる。
しかし、それでも俺は続ける。
「ダリアの命が終わる直前、クリードに向けた言葉。これを伝えたくて、今お前たちに話している」
「どっ、どんなことを、おっしゃっていたのですか!?」
メナスとアミナは顔を見合わせ、固唾を呑む。
「バルデスはまだ諦めていない。そう言っていた」
二人は「なっ!?」と、同じように驚いている。
それもそうだろう。
俺の母親が死の間際にバルデスの名前を出すなど、誰が思うだろうか。
アミナはこの地に来てからのことを考えると、そこまで驚くことでも無いようにも思えるが、メナスにとって衝撃を受けるのは間違いない。
「ねぇ、大臣は一体なんなのよ? なにを考えているのよ!? 諦めてないって……そんな昔から、なにかあったって言うのっ!?」
「さてな。自分の娘であるメナスにすら、嘘を吹き込んでいた男だ。バルデスの真実を知る者は、今となっては誰もいないだろうな」
この瞬間、魔力が大きく膨れ上がった者がいた。
その者とはもちろん、メナスである。
「レイン様。クリーディア城に向かいましょう! もう私に迷いはありません!! 父の口から必ず真実を聞き出し、その答えが間違った方向だったとしたら私は……っ!!」
自らの手で裁くと言うのだろう。
はたして、メナスにそこまでのことができるだろうか?
嘘を吹き込まれていたとはいえ、仮にも血の繋がった父親だ。
どちらにせよ、メナスの覚悟は見せてもらうとしよう。
「メナス。そう熱くなりすぎるな。冷静さを欠くと、どこかの誰かのように、小さなことを見落としかねんからな」
「はっ。申し訳ありません。どこかの誰かさんのようにならないよう、心掛けます」
俺とメナスはそう言いながら、アミナのほうを見る。
「ちょっとアンタたちっ!! ひ・と・こ・と・よ・け・い、なのよっっ!!」
腕を組み、そっぽを向いて「ふんっ!!」と鼻息を荒げるアミナ。
しかし、その数秒後にはメナスがクスッと笑い、その笑いにアミナも「もぉ〜……」っと、諦めたように笑っている。
「これからクリーディアを解放するぞ。いいな? お前たち」
「はいっ!」
「もちろんよっ!」
「よし。では行くぞ!」
俺たち三人は拳を天に掲げ、アミナが「えい、えい、おぉ〜っ!!」と、声を上げ、これを出発の合図とし、クリーディア城へと向かう。
さて、バルデスの出方次第とは言ったが、十中八九、表に出て来ることは無いだろう。
俺の忠告を受け、入って来いと言わんばかりに城の扉を開放しているとも思えんしな。
となると、まずはあの結界を破壊するところからだが、アミナは〈魔法訓練所〉の演習場に張られていた結界ですら破壊することはできないと言っていた。
いくら槍に長けているメナスでも、魔法を少し教わった程度では、とてもあの結界に太刀打ちできるとは思えん。
二人が結界を破壊できない以上、やはり、ここは俺が先制攻撃を仕掛けて破壊するしかないか。
ましてや俺のうっかりで、結界が強化されていることもあるしな。
俺がそんなことを考えていると、メナスが口を開いた。
「ダリア様は魔法も凄かったのですが、槍の使い手でもあったんですよ」
「ほう、そうだったのか」
まぁ、魔王の闇のチカラが強すぎるがゆえに、それを表には出さずにクリードのことも立てつつ、槍を使っていたのだろうな。
「はい。私の槍術は、ダリア様から教わったものなのです」
「えぇ〜っ!? クリード様の側近だったり、レインのお母様から槍を習ったり、メナスってどれだけ凄いのよっ!?」
「いえ、少し違いますね。ダリア様から槍術を教わったからこそ、クリード様の側近になれたのですよ」
メナスはそう言いながら、ふふっと微笑んでいる。
「マスターはこのこと知ってるのぉ??」
「ええ。ヴィンスももちろん知っていますよ」
「ううぅ……なんで昨日話してくれなかったのよ、マスターぁぁ〜……」
ふっ。とてもこれから戦闘するとは思えないくらい、二人とも落ち着いているな。
そんな会話をしているうちに、五メートルほどある真っ白な外壁に覆われ、分厚く豪奢な青色の扉がある閉鎖的な城の前まで来た。
そう、クリーディア城である。
そして、その城門の前には、剣を持ったただの飾りの門番が二人立っている。
「目標確認! 打てえぇぇぇぇっっ!!」
持っていた剣を高く掲げ、一人の兵士がそう声を上げると、外壁の上に備えられた四基の砲台から俺たちを狙い、一斉に撃ってきたのだ。
あろうことか、先制攻撃を仕掛けてきたのはバルデスのほうだった。
目の前にレインが現れた時のアミナの形相は
きっと凄まじいのでしょうね。笑
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