レイン出生の秘密
「……うだ?……ろ……れそう……気配は……か?」
「そう……ろそろ……思うん……けど……」
ん? これはなんだ……??
俺は眠りについたはずだが……。
ジジジ、ジジと、ノイズ混じりで、誰かの記憶が俺の意識に映し出される。
少しすると、ノイズが消えクリアになっていく。
「どうだ? そろそろ産まれそうな気配はあるか?」
「そうね、そろそろだと思うんだけど……」
どこかの一室で男女が会話をしているようだが、俺から見えているのは女の姿ではなく、男の姿だ。
目の前にいるのは、銀色の外套を纏った碧眼の男。
俺が図書館で見た姿よりもかなり若いが、その男は間違いなく父であるクリード・アールスヘイムだった。
だとしたら、今見えているこれは女性の記憶か。
この映し出されたものを、とりあえず見ることにする。
「医者は十月十日ほどと言っていたはずだが、もう一年だぞ!? 大丈夫なのか?」
「ええ。私は大丈夫。それに、この子もお腹の中で日々、チカラをつけているのを感じるの」
そう言って女は微笑みながら、自身のお腹をゆっくりと円を描くように優しく撫でている。
どうやらこれは、俺が産まれる前の母親の記憶なのかもしれないな。
「なにか変化があれば、すぐに私を呼ぶんだぞ」
若き日のクリードはそう伝え、女の下から去っていった。
そしてクリードが去った後に、女は苦悶の表情を浮かべる。
「レイン……。私の愛しい、愛しい我が子。私の魔力を根源としているのはわかっているわ。どうか、無事に産まれて来てね……」
女が俯きそう言ったとき、黒い髪がチラついた。
黒髪、そして俺の名前を呼んでいる……やはりこれは俺の母親の記憶で間違いなさそうだ。
どうやら俺が至極当然のように魔法を知っていたり、使えたりするのは、母親の魔力の根源そのものを奪っていたからだったようだな。これでひとつ疑問が解消された。
しかし母親は、操作系魔法のような古の魔法を知らなかったのだろうか?
やや疑問が残るな。
女は自身のお腹を撫でながら続ける。
「レイン、あなたは純粋なアールスヘイムとワイロピアの血を継ぐ子。時代は巡り、私はアールスヘイムの血を引くクリードと出逢った。きっとあなたが……」
これはこれは。
俺は勇者の血、アールスヘイムの血だけではなく、魔王の血、ワイロピアの血までも入っていたとは驚きだな。
時折やってくる滅ぼしたくなる衝動や破壊衝動、いわゆる〈破滅衝動〉は、母親の魔王の血だったというわけか。
これで納得がいく。
そして、クリードが言っていたな。
このふたつの血のチカラを併せ持つ〈超越者〉が生まれる時が必ず来る、と。
それならなおのこと、俺が古の魔法を知っていても不思議ではないと思うのだが。
なにか理由があるのか?
「あなたが世界を変えてくれることを信じているわ。だって……こんなにも私の魔力を奪っているんだもの……お父さんの血も入っていて、それで〈秩序〉を滅ぼせなかったら、お母さん、ぜったい許さないんだから」
そう言って一瞬、優しく微笑んだように見えた。
「レイン……こんな運命を背負わせてしまってごめんね。でも、どうか優しい世界を……あなたが……。……ううっ……!!」
その時だった。
どうやら、俺が産まれようとしているようだ。
女は〈伝達〉を使い、クリードと医者を呼んだ。
そして、すぐさまクリードと医者が駆け付けた。
「ダリアっ……!! ここだとまずい。すぐに俺の手を取れ!」
ダリア・ワイロピア。二人の会話を合わせると、それが俺の母親の名である事は明確だ。
クリードが〈瞬間転移〉の魔法陣を展開する。
ダリアと医者がクリードの手を取り、クリードは〈瞬間転移〉を行使する。
転移した先はカーザ村だった。
「安心しろ、ダリア。かつての大勇者カイン、大魔王ザクロが築いたこの聖域。ここなら〈秩序〉の操作も及びはしない」
やはり俺がカーザ村で生まれ育った理由はそれだったか。
しかし、クリードに安心しろとは言われたものの、ダリアの表情は険しいままだ。
「ごめんなさい、あなた……。この子は私の魔力すべてを喰らおうとしているわ。このままこの子が産まれては、私はあなたと一緒に〈秩序〉と戦うことは、とても出来そうもない……」
そう言いながら女は産気づく。
カーザ村一帯に、大地を裂くような激しい雷鳴が轟いていた。
「ううっ……。あああぁぁぁ……っ!!」
「ダリアっ!! 先のことは考えなくていいっ! 回復系魔法だってあるんだ、なんとか持ち堪えてくれっっ!!」
身悶えるダリアの手を握り、ダリアと産まれてくる俺の無事を懸命に願うクリード。
その一方で、途轍もない魔力がダリアの体内から発せられていた。
「なっ……!? なんだこの異常な魔力は……。まさか、この子は……っ!?」
ダリアの手を握りながらも、激しく動揺しているクリードの姿が見える。
「あ、あなた……。やっぱりこの子は……ふふっ」
ダリアが微笑んだ一瞬、その時だった。
激しく大地が揺れ、天が一閃し、轟音と共にダリアを目掛け一本の雷が落ちた。
「ダリアアアアァァァっっ!!」
クリードの声が響く。
目映い閃光が晴れた後に見えたその景色に、クリードと医者は絶句した。
「……っ!?」
その雷はダリアの身体を貫き、腹を裂いて鮮血が散っていた。
それだけではない。
産まれたばかりの俺が、産声を上げること無くそこに立ち、ダリアの血を舐めながらくつくつと笑っていたのだ。
あまりにも衝撃的な光景を目にしてしまった医者は、気を失ってしまったようだ。
「ふっ。どうやら医者は必要無かったみたいだな」
俺がはじめて発した言葉だ。
産まれた頃の記憶は無かったが、こんなことを言っていたとはな。
というよりも、すぐに話せていたとは……さすがは俺、といったところか。
と、そんなことを思っている場合ではない。
鮮血が散っているこの状況で、母親は無事なのだろうか?
「ダリアっ! 今助けるっっ!!」
腹が裂かれ無残な姿のダリアに対し、回復系魔法の〈傷毒治癒〉を行使するクリード。
しかし、俺が母親の魔力をすべて喰らい、根源をも奪ったことで、回復する可能性は皆無だろう。
それでもクリードは〈傷毒治癒〉をダリアに懸命に掛け続けている。
「……あなた……この子に私のすべてをあげた……。だから、私はもう助からないわ」
「なにを言ってるんだっ……!! 魔王の……魔王の血を引くお前が、こんな簡単にくたばるわけが無いだろうっ……!!」
「……ふふっ、そうね。私もこんな終わりだなんて思ってもなかったわ。……でも、この子を残せた。心置きなく逝けるわ」
「俺は……俺はどうしたらいいんだ……。〈秩序〉はどうする……?」
最愛の妻を失ってしまうという喪失感からか、クリードの〈傷毒治癒〉を使っている手が震えている。
ダリアはクリードのその震えた手をしっかりと握り、言った。
「魔王の血ならもう一人いるじゃない。この子が成長するまで、姉さんと……チカラを……」
「ル、ルナリアかっ! ルナリアは今どこにっ!?」
「……きっと〈南の禁地〉に……」
「なっ……!? 〈南の禁地〉だとっ!? どうしてそんなところに!!」
ほう。ルナリア・ワイロピアに、南の禁地か。
そこにはなにがあるのか? 面白そうではないか。
「……もう説明して……余裕が無いわ……。私の魔力が消えたら、姉さんはそ……に必ず気付く。あなたのチカ……なってくれるは……だわ……」
ジジ……ジジジ……と、ノイズが混じりはじめた。
ダリアの命が終わろうとしているようだ。
「あなた……愛しているわ。それと……」
「どうし……?ダ……ア!?なにが……たいん……!?」
ダリアは灯滅せんとして光を増すがごとく、言葉を振り絞った。
「バルデスはまだ……諦めてない……わ……」
この言葉を最後に、俺の意識に映し出されたダリアの記憶が消えた。
ダリアの命が終わりを迎えたのだろう。
しかし、〈南の禁地〉とはなんだ? 世界地図にもそんなものは載っていない。
これもまた〈秩序〉の操作によって消されたものなのだろうか。
それにしても、ダリアの最後の言葉がバルデスとは意外だったな。
ふっ。なかなかに面白い展開になってきたではないか。
なぜ、今になってこの記憶が映し出されたのかは謎だが、俺がクリーディアに足を踏み入れたことが発動条件になっていたのかもしれないな。
なにかしらの物体をクリーディアに預けているものとばかり思っていたが、クリードの言っていた渡したいものの正体は、母親からの手紙ならぬ、母親の記憶だったか。
クリードといい、ダリアといい、どうやら二人揃って俺になにかを仕掛けるのが好きらしい。
さすがは夫婦、といったところか。
どうしてレインは古の魔法を知らなかったのか……!?
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