試したいこと
「ではヴィンス、また来ますね。今日はごちそうさま」
「おう、メナス! いつでも顔出しなっ!!」
そう言って二人は握手を交わす。
約二十年ぶりの再会ともあって、互いの手にチカラが入っている。
しかし二人の表情はとても爽やかな笑顔という感じだ。
「マスターっ! いつもありがとうっ!!」
「なかなかに良い店だ。また来させてもらおう」
「おう! あんたがこの国を解放したら、盛大にやれるように準備しておくぜっ!! みんな、今日はありがとうなっ!!」
そして俺たちは〈バル・リアーノ〉を後にする。
アミナはマスターに向け、大きく手を振っていた。
静まり返ったクリーディアの夜の都を歩く。
優しく吹く夜風が頬を掠め、それがまたなかなかに心地良い。
「ところで、二人って泊まるところは決めてるの?」
そう聞いてきたのはアミナだ。
茶色のミディアムヘアの毛先が夜風で軽く靡いている。
あれだけ麦酒を飲んで顔が赤かったというのに、すっかり彼女の顔色は元に戻っていた。
俺とメナスは本来、クリーディア城にいる予定だった。
しかし、国がこんな状況だ。そうもいかなくなってしまった。
「アミナ、お前はどうしてるのだ?」
「ん? アタシはねぇ、このクリーディアに来てからずっと同じ部屋で寝泊まりしてるの。まぁ……マスターが用意してくれた部屋なんだけどねっ」
そう言いながらアミナは「てへっ」と付け足し、自身で頭をポンッと軽く叩き、舌を出している。
「あっ! そうだ!! なにも決まってないんだったら、あたしの部屋のベッドがひとつ余ってるから、もし良かったら来ない?? メナスっ!」
子供のように緋色の眼をキラキラと輝かせているアミナ。
アミナと同じ部屋など、騒がしいに違いない。
「アミナさんのお気持ちは嬉しいのですが……」
俺の顔色をチラチラと窺うメナス。
おそらく、俺から離れてしまうことで護衛が疎かになってしまうとでも思っているのだろう。
「メナス、俺のことは気にするな。アミナのところでゆっくり休むと良い」
「し、しかしっ……!!」
「大丈夫だ。試してみたい魔法があってな。俺は一旦、自分の家に戻って休むことにする」
「村にお戻りになられるのですかっ!? それでしたらなおのことっっ……!!」
「メナスぅ〜……コイツの心配なんかしなくて大丈夫だってぇ〜」
「でっ、ですがっっ!!」
メナスの忠誠心には骨が折れる。
まぁ、とてもありがたい話ではあるがな。
「メナスの気持ちはしっかり受け取った。アミナが言ったように、俺の心配は無用だ」
「レイン様がそうおっしゃるのなら……」
「じゃあ、決まりねっっ!!」
アミナの緋色の眼がさらに輝きを増す。
誰かと一緒に居れることがよっぽど嬉しいのだろうな。
さて、ここらが頃合いだな。
「二人に話しておきたいことがある」
アミナが寝泊まりしている部屋がある建物のほうへ向かいながら、俺はそう口を開いた。
「まずはメナスに施されていた〈姿形隠蔽〉だが、クリードの死によって解けたとお前は思っているだろうが、そうではないのだ」
「ど、どういうことですかっ!? クリード様から聞かされていたことが嘘だとおっしゃるのですか!?」
「嘘か嘘でないかと問われれば、嘘になるな」
「ちょっとっ! クリード様が嘘を言うわけないじゃないっっ!!」
「まぁ、そう慌てるなアミナ。ちゃんと話を聞け」
せっかく元の顔色に戻ったというのに、俺の言葉でまた顔を赤くするアミナ。
「話せば長くなるが、俺の魔法印で図書館を埋めた際に、クリードの仕掛けていた〈封印解除〉が発動するようになっていた。それは嘘ではない」
「テ、〈封印解除〉ですって!!? それって古の魔法じゃないっ!!」
ほう。アミナは操作系魔法を知っているのか。
コイツの魔法の知識には、少しばかり興味があるな。
「アミナ。少し黙っていろ。話の腰を折るでない」
俺の言い方に腹を立てたのか、「なによっ! ふんっっ!!」と頬を膨らませ、ムスッとした態度を取るアミナ。
しかし、不貞腐れながらもしっかりと耳は傾けているようだ。
「クリードにとって〈封印解除〉の発動が動き出す合図だったのだ。その合図というのが、メナスに施した〈姿形隠蔽〉の解除。そして息子である俺の成長を確かめ、アールスヘイムの伝承を託し、本気で〈秩序〉と対峙するというものだ。その結果、クリードは命を落とした」
「そう……だったのですね。たしかに、レイン様が光に包まれた瞬間に私は元の姿に戻りました。しかし、すぐにレイン様が動く様子がなかったので、おかしいとは思っていたのですが……」
「細かい思惑まで説明するのが面倒だったのかはわからんが、はじめから命を懸けて〈秩序〉と対峙していただろうからな、クリードは。それでメナスには、命を落とした時に魔法が解けると簡潔にまとめて伝えたのだろう。しかし、俺が言いたいのはこれだけではない。本題はここからだ」
メナスは真剣な表情で俺の話を聞いている。
いつの間にかアミナも真剣な表情になっていた。
「今の話を聞いても、お前たちは〈魔法訓練所〉の結界はクリードの手によって張られた結界だったと思えるか?」
「ど、どういうことでしょうか……??」
この話を聞いたところで、クリードが命を落としたことに変わりはない。
メナスにとっては〈姿形隠蔽〉が解けた理由など、瑣末なことかもしれないな。
「残念ながら、あの結界はクリードのものではない」
「そうよね、術者が命を落としたら魔法の効果は消えてしまう。クリード様が亡くなられた話を聞いたのは〈魔法訓練所〉を出たあとだったから、なにも疑ってなかったわ……」
「でしたらあの結界は、一体誰が張ったというのですか!?」
「俺もはじめはクリードが生きているのか? 死んだとしても魔法の効果は消えないのか? など、疑問ばかりで俺なりの思考を張り巡らせていたのだが、それに答えが出たのは、俺がうっかり〈魔法訓練所〉を破壊してしまった時だ」
「ど、どんな答えだったのでしょうか……!?」
メナスが恐る恐る俺に聞いてくる。
「破壊した直後、城のほうから魔力を感じた。眼を凝らしてみると、城に張られていた結界がさらに強化されたのだ」
「では……あの結界はクリード様ではなく、私の父が張ったものだと……?」
「ああ、そうだ。はじめから城に結界が張ってあったのは知っていたと話したが、それがクリードのものなのか、その時は知る術が無かったからな」
「まさか、大臣の結界だったなんてね……」
大臣と聞いてもメナスはもう動じることは無くなった。
そして、くつくつと笑いながら俺は言った。
「まぁ、俺がうっかり結界どころか〈魔法訓練所〉そのものを破壊してしまったからな。それでバルデスは警戒するべく城の結界をより強固なものにしたのだろう」
二人の反応は、少し冷ややかであった。
これが引いているということなのかもしれないな。
そうこうしているうちに、アミナの部屋がある建物の前まで来た。
「着いたようだな。今日のところはゆっくり休むと良い。とにかく、明日のバルデスの出方次第だ」
「すんなり表に出て来るかしらね?」
「さて、どうだろうな? この機会に、二人でさまざまな状況を想定しておくのも良いかもしれんな」
メナスがなにかを考えている様子だ。
そう簡単にはいかないと理解し、それでも自分の手で始末すると言ったからには、対策を練るのは至極当然だ。
「アミナさん! 私に魔法を教えていただけないでしょうか!? 試してみたいことがあるのです」
「もちろんっ!! 大臣をブッ飛ばすためだったら、いくらでも協力するわよっ!!」
ほう。これはなかなかに楽しみだ。
「気負うのは良いが、無理はするな。しっかりと睡眠はとっておけ」
「はっ。承知しました。レイン様もしっかりとお休みくださいませ」
「うむ。ところでアミナ、〈伝達〉は使えるか?」
思念魔法の〈伝達〉は、相手の脳に直接語りかける魔法だ。
この魔法なら、知っている相手であれば、どこに居ても連絡をとることが可能となる。
アミナは「もちろんよっ」と言いながら、人差し指で自身の魔法印を出す。
それに対し俺も魔法印を出し、互いにカラダの一部に触れ、魔法印を押し合う。
こうすることで〈伝達〉を使えるようになるのだ。
「なにかあったらすぐに知らせろ」
「えぇ、わかったわっ。じゃあ、また明日ねっ! おやすみっ!」
「あぁ、ゆっくり休んでくれ。おやすみ」
そうして二人は部屋へと入っていった。
夜風が一瞬強く吹き、辺りが静かになった。
さて、試してみるか。
村から一歩も出たことの無かった俺が使えなかった魔法。
村以外の場所に来たことで、ようやくこの魔法が使えるようになる。
それは一度でも訪れてしまえば、自由に行き来が可能になる移動系魔法だ。
俺は左手で魔法陣を展開する。
はたして、上手くいくだろうか?
まぁ、俺に限って失敗など有り得ないがな。
「〈瞬間転移〉」
一瞬、視界が真っ白になり、空間を移動するのがわかった。
次の瞬間にはカーザ村の俺の部屋の中だった。
うむ。まったく問題は無いようだな。
俺としては〈空飛行〉で移動するほうが景色を眺められて良いのだが、これはこれで使えるに越したことはない。
魔法は使い方だ。
どんな魔法も、使い方によって良くもなれば、悪くもなる。
メナスは一体、どんな魔法の使い方をしてくることやら。
アミナの魔力や知識もどれほどのものなのか気になるところだな。
なかなかに明日が楽しみだ。
うっかり城ごと消してしまわぬように気を付けねばな。
俺は月を眺め、不敵な笑みを浮かべていた。
決戦は近い……!?
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