作戦会議
「アミナちゃーんっ!」
そうアミナを呼んだのは〈バル・リアーノ〉のマスターだ。
厨房のほうから彼女を呼んでいる。
「ちょっと手が離せないから、これ持ってってくれないかー?」
「ちょっとっ! なによっ! アタシを使わないでよねっ!! アタシは客よっ!?」
クリーディアでまともにやっている店はここしかない。大臣に金品を巻き上げられているとはいえ、それなりに客はいるようだ。
ムスッとしながらアミナは厨房へと向かい、三人分の飲み物を持って戻って来た。
「お待たせっ! じゃあ、乾杯しよっかっ!!」
「乾杯する前に言わせてくれ。まずはメナス、クリードの命により今日この日まで、俺の成長を側で見守ってくれてありがとう」
「いえ、私には身に余るお言葉です」
「そしてアミナ。お前のような、愉快な奴に出会えるとは思っていなかったぞ。旅立ち早々、とても楽しませてもらっている。ありがとう」
俺がそう言うと、なぜかアミナは目が点になっている。
「あ、あんたの口から〈ありがとう〉って言葉が出て来ると思ってなかったわっ……!」
以前、メナスに礼を言った時も驚かれたが、どうしてこうも俺が礼を言えない奴だと勘違いされてしまうのだ?
アミナに共感したのか、メナスも「ふふっ」と微笑んでいる。
俺の言い方が悪いのか? わからん。言葉というのは、奥が深いな。
「じゃあ、改めて乾杯しようか」
「かんぱぁ〜いっ!!」
「乾杯、失礼いたします」
三人のグラスが重なって、チーンという音が〈バル・リアーノ〉に響き渡った。
皆同じく、はじめの一杯目はキンキンに冷えた麦酒だ。
この世界では、なにをするにも年齢制限という概念が無い。よって酒であろうが飲みたいものは自由に飲める。
ゴクゴクと喉を鳴らしながら、アミナは麦酒を勢いよく呷る。
「くうぅ〜〜っっ!! やっぱり最初はコレに限るわねっっっ!!」
「ふっ。いい飲みっぷりだな、アミナ」
「アミナさん、あ、あまり、無理をなさらぬよう……」
「大丈夫、大丈夫! こう見えてアタシ、お酒は強いのっ」
大体、そう言ってる奴ほど弱かったりするがな。
「レイン様。先ほどから気になっていることがあるのですが……」
メナスが麦酒をクイっと一口飲み、聞いてきた。
「ん? どうした?」
「はい。城門前での兵士たちとの会話ですが……おかしな点がどこだったのか……と思いまして」
「そうそう、アタシもそれが気になってたのよっ!」
ほう。俺からこの話題を振ろうと思ってはいたが、先に聞いてくるとはな。
俺が答えようとしたその時、周辺に良い匂いが充満し、グツグツと音を立てながらマスターが料理を持って来た。
とても美味しそうな鍋料理が俺たちの前に置かれた。
「獲れたての鹿肉を使った〈紅葉鍋〉だ! これをつっつきながら、ゆっくりしていってくれな!!」
うむ、これはなかなかに良い肉を使っているな。
俺も毎日のように狩りをしていたから、見ただけで質がわかる。
「それと、アミナちゃん。今日はなんだか知らないけど、混んじゃって忙しいからさ、悪いんだけど飲み物はセルフで頼むよ! 勝手は知ってるだろ?」
そう言いながらマスターは、そそくさと厨房に戻っていった。
アミナは「仕方ないわね……」と、店の状況を読んでか反論はしなかった。
その間に、メナスが料理を器に取り分けていた。
「せっかくの料理だ。冷めてしまっては獲れたての鹿も味が落ちてしまう。ゆっくり食べながら続きを話そうか」
アミナは麦酒を、メナスは紅葉鍋のスープを飲み、頷いた。
「順を追って話すよりも、まずは俺のこの眼だ」
俺は〈化粧隠蔽〉を解除し、二人に碧眼を見せる。
「俺がクリーディアに来てからアミナと出会うまで、皆、国王がクリードという前提で話をしていた。そして俺がこの眼を見せると、揃って驚いていた」
「そりゃあ、クリード様と同じ眼をしていたら、誰でも驚くに決まっているじゃないっ!!」
そう言った後、アミナがハッとした表情をした。
その表情を横目に、メナスが冷静に口を開く。
「彼らはレイン様の眼を見ても、なにも反応がありませんでしたね」
「あぁ。アミナが今言ったように、クリーディアでは誰でも驚くに決まっているであろうこの眼を見ても、なにも反応が無かったのだ」
「そうね。反応してたのは、アタシだけだったわ」
「アイツらはクリードを〈前国王〉言ったな。アイツらは若く見えた。おそらく、十五くらいだろう」
そう言いながら俺はまた〈化粧隠蔽〉で眼を変化させた。
いちいち面倒だが、この国を解放するまでは碧眼をおおっぴらにしたくない。
「そこでだ。アミナに聞きたいのだが、クリードはバルデスに任せっきりで、何年もの間ずっと国を空けていたのか?」
アミナが勢いよく麦酒を飲み、ガンっとグラスをテーブルに叩きつけ言った。
「そんなこと無いわっ!! むしろ逆よ! クリード様はほとんどこのクリーディアに居たわっ!! 居なかった期間が長かったのはここ最近だけの話よっっ」
騒がしい女はゴクゴクと喉を鳴らし、麦酒を一気に飲み干す。
「ちょっと待ってっ、麦酒のおかわり持って来るからっ!!」
そう言って、アミナは厨房へと向かっていった。
俺たちはアミナの戻りを待たずに、会話を続ける。
「だとしたら、彼らもクリード様のことを知っていてもおかしくないかと思うのですが」
「うむ。クリードが国を空けている期間が長かったのは最近だけとアミナは言っていた。おかしいと思わないか?」
「はい、たしかに不自然ですね……。クリード様が長期間、国を空けるようなお方ではないとわかっていたのに、どうして私はそこに気付けなかったのか……」
メナスが麦酒をグイっと呷る。
気付けなかった自分が悔しいのか、グラスをテーブルに置く際に少しチカラが入っていた。
「まぁ、槍のことはメナスが離れていた期間を考えると、ほんとうに知らないかもしれないと、あの時は思ったがな」
「そうですね、十八年も経っていますからね……」
「バルデスに子がいないことも、ただ聞かされていなかっただけ、とも考えた。だが……」
その時、厨房のほうからこちらに向かって、騒がしい声が飛んできた。
その声の主はもちろん、アミナである。
「おかわり持って来るから、ちょっと待ってって言ったじゃないっ! なんで話進めてんのよっっ!!」
「ちょっとアミナちゃん! 他のお客さんも居るんだから、もう少し声抑えてくれよなっ!!」
厨房にいるマスターから、注意されるアミナ。
俺たちには勝手に話を進められ、マスターにも注意される始末で、彼女はキーッと顔を赤くしている。
顔が赤いのは、麦酒の影響も多少はあるのかもしれないが。
アミナが三人分の麦酒をテーブルに置く。
彼女はまた麦酒をグイっと飲み、言った。
「それでそれでっ? なにが十八年なのよっ??」
おいアミナよ、そこからで良いのか。
メナスが紅葉鍋の野菜を食べながら、アミナのほうを向く。
「はい。私がクリーディアを離れていた期間です」
「俺が生まれた時からだからな」
するとアミナが、お決まりのあの顔になった。
そう。目が点になり、口をあんぐりさせている顔だ。
「え……レイン、ちょっとあんたっ……もしかして……じゅ、十八歳ってこと……?」
「あぁ、それがどうかしたのか?」
一瞬の沈黙。その時間、五秒。
「ええぇぇぇぇぇっっっ!? ア、アタシと同い年なのおおぉぉぉぉぉっっっ!!!?」
「おい、アミナちゃんっ!! 俺が言ったの聞こえなかったのかぁっ!? あんまり騒がしいと、店から出てってもらうぞっ!!」
クスクスと周囲から笑い声が漏れている。
マスターに注意されているアミナを尻目に、俺とメナスは獲れたての鹿肉を味わっていた。
北の大地といえば、皆さんはなにを想像しますか??
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