一時退却
城門前にいる兵士たちなど相手にせず、俺はクリーディア国王代理であるバルデスに問い掛けていた。
「ちょっとっ、レインっ! どういうことっ!?」
少しは頭が切れると思っていたが、どうやらアミナは熱くなると周りが見えなくなるようだな。
「どういうことだと? アミナ、お前なら兵士たちと城内に繋がっているこの微量の魔法線の存在に、とっくに気付いていると思ったんだがな」
「きっ、気付いていたわっ! け、けっ、けどっ!! あ、あまりにも小さかったから気にしてなかったわっ……」
慌てている様子のアミナ。
この女、ほんとうに気付いていたのか?
「ふっ。まぁ良い。しかし、その程度ではいつまでも俺に勝つことはできないぞ?」
キーッと顔を真っ赤にして、アミナは俺を睨みつける。
こうして煽ることで、少しでも彼女の成長に繋がってくれると良いのだが。
そういう些細な油断がこれから先、命取りになる可能性だって十分にあり得る。
「それともうひとつ。ただの飾りのこいつらでは、ここを通すことができないのではなく、たとえ国王の許可があったとしても、この扉を開けることすらできないということだ」
兵士たちは俺の言葉を聞いても、とくに焦る様子はない。
やはり、思った通りだな。
墓穴を掘ったのが自分たちだということにも、まるで気付いていない。
しかし、先ほどの会話からして、個々に多少の感情があるところを見ると、バルデスの手によって造られた魔法体いうわけでは無さそうだな。
魔法線を繋ぎ、ただの監視役として置いている……といったところか。
城門に剣を持った兵士さえ置いておけば、今まで開放的だったクリーディアを考えると誰も近寄ろうとはしないだろうからな。
「しっ、しかしっ……レイン様はなぜそこまで見抜いておられたのですか!?」
「なんてことはない。お前を抱えて〈空飛行〉でこの近くまで飛んでくる際に、城に結界が張られているのがわかっていたからな。なにかあるとは思っていた」
メナスが驚きの表情を見せる。
「まぁ、お前は魔力を失っていたわけだからな。結界に気付けなかったのも仕方のないことだ」
実際に彼女は、魔法訓練所に張られていた結界にも気付けなかったわけだしな。
目の前のことに集中することは大事なことだが、俺は常に周囲の警戒も怠らない。
「私としたことが……なにひとつ気付くことができず、不覚を取りました。申し訳ありません」
メナスが胸に手を当て、深く頭を下げた。
「なに、気にするな。お前は元々この城の人間だ。慢心していたのだろう」
「はい……少し考えが甘かったようです」
「しかし、一歩引いて見ていたが、お前たちの会話にはおかしな点があったな」
「おかしな点? なにかあったかしら??」
アミナが手を顎の下に当て、首を傾げながら聞いてくる。
「ん? アミナよ、自覚が無いのか? お前は〈前国王〉という言葉に過剰に反応していたではないか」
「あ、あれは……クソ大臣が勝手に国王を名乗ってるのかと思ったから……つい……」
「アミナ。お前はすぐ熱くなってしまって、冷静に判断するチカラが鈍ってしまうところがあるようだな」
アミナはまた顔を真っ赤にし、俺を睨む。
先ほどとは違い、今度は頭から湯気が出てきそうな勢いだ。
まさに今、そういう部分を指摘したつもりだったのだが……。
まぁ、性格は変えられるものではないからな。
それにしても、バルデスが出て来る様子が無いな。
このままなにもせず、籠城を決め込むつもりか?
兵士たちと魔法線を繋いで、視界や会話を共有しているのは明らかなのだが。
ならば少しばかり煽ってみるとするか。
俺は碧眼にチカラを込め、言った。
「バルデス。聞いているんだろう? 俺の名はレイン・アールスヘイムだ。言わなくともとうにわかっているだろうが、クリードの息子だ」
この発言を聞いても、やはり兵士たちに変わった様子は無い。
ほんとうになにも知らない、ただの飾りのようだな。
俺の発言も先ほどのメナスの発言と同じように、嘘くらいとしか思ってないのだろう。
「先ほども言ったが、どうだ? 少し話をしないか? 何度も同じ事を言うほど、俺は優しくはないぞ?」
しかし、バルデスからの反応は無かった。これでは埒が明かない。
口が悪いほうの兵士が剣を握り直し、俺の元へ向かってきた。
「貴様、さっきからわけのわからんことをベラベラと喋りすぎじゃないか? いい加減にしないとっ………なっ!!?」
兵士が話している最中に、パキイィィィーーーンと音が鳴り、剣が真っ二つに折れた。
いや、折れたわけではない。
正確には、俺が常人では決して見ることのできない速さで兵士の側まで移動し、剣を折って瞬時に元の位置に戻った、というのが正しい表現だ。
「ん? いい加減にしないと、なんだ? その折れた剣で俺たちをどうにかするのか?」
兵士たちは俺を恐れたのか、口をパクパクさせながら尻餅をつき、後退りをしている。
「お前たちはただの飾りだろう? 飾りなら飾りらしく、黙って扉の横に立っていろ」
立っていろとは言ったものの、兵士たちは完全に腰を抜かしてしまったようだ。
ふと彼女たちのほうに目をやると、二人とも目が点になって固まっていた。
なにをそんなに驚くところがあった? 俺のやることにいちいち驚いていたら身が持たないだろうに。
俺はそんな彼女たちに声を掛けた。
「残念ながらバルデスが出て来る様子は無いようだ。出直すとしよう。どこか店に入って、城に入るための作戦会議でもしようか」
「え、えぇ……」
「かしこまりました」
「というわけだ、バルデス。明日、もう一度来る。言うのはこれで三度目だが、出て来て話をしようではないか?」
少し声を強めにし、俺は続けた。
「いいか? それでも籠城するというのなら、それなりの強行手段に出るぞ? 忠告はちゃんとしたからな」
なにか反応があるかもしれないと待ってはみたが、やはり反応は無かった。
「行くぞ、メナス、アミナ」
そうして俺たちは都のほうへと踵を返す。
「ところでアミナ、どこか美味しい料理が食べられる店を知っているか?」
「ちょっとっ! 美味しい料理って唐突すぎじゃないっ!? この状況でなんでそんなことが言えるのよっ!?」
「アミナ。〈腹が減っては滅せぬ〉という言葉があるのを知らないのか?」
「レイン様。それを言うなら〈腹が減っては戦はできぬ〉かと」
「すまない、メナス。アミナが乗ってくるかと思ってわざと言ったのだ」
「そ、そうでしたか。それは大変失礼しました」
「ちょっとっ! アタシのこと、バカにしてんのっ!? いい加減にしてって言ってるじゃないっっ!!」
アミナはまたキーッと、顔を真っ赤にしている。
毎度この調子だと、頭の血管が切れるのではないかと心配になるくらいだ。
ーーそして俺たちは、夕日に照らされた都のほうへと歩き出した。
しかし、国がこんな状況の中でやっている店などあるのだろうか?
バルデスになにもかもを巻き上げられ、とても商売をしていけるとは思えないが。
まぁ、無かったら無かったで森に出て狩れば良いだけの話だ。
そんなことを考えながら歩いていると、アミナがある店の前で止まった。
看板には〈バル・リアーノ〉と書いてある。
「ごめんね、美味しいかどうかはわからないけれど、今のクリーディアでちゃんとしたお店はここくらいしか無いのよ」
ちゃんとしたお店? なるほどな。
質が悪かったり、高値だったりでまともにやっている店がここくらいということだろう。
アミナが店の扉を開けると、カランコロンと、ベルの音が店内に響いた。
「マスターっ! こんばんはっ!!」
「おっ!? アミナちゃん、いらっしゃい! 空いてるとこに座りな!!」
そう遠くから返したのは、アミナがマスターと呼んだ男だ。
三十代後半くらいだろうか?
髪は短髪。色黒で背が高く、ガッチリとした体格で、店内に狩猟用の銃があるところを見ると、この男は狩りをしながら店をやっているのだろう。
「じゃあマスターっ、一番奥に座らせてもらうわよっ? 二人ともっ、こっちこっち!!」
アミナの手招きで俺たちは、店の一番奥の四人席らしき囲われた席へと座ったのだった。
大臣は出てくるのだろうか……!?
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