クリーディア城の門番
首都クリーディアの中心に位置する、クリーディア城ーー
五メートルほどの高さがありそうな真っ白な外壁が、城を囲うように聳えている。
その外壁で囲まれている城の正面には、分厚く豪奢な青色の扉が設けられており、その扉は固く閉ざされていた。
高さのある外壁と閉ざされた扉で、これでは人々が城の全容を拝むのは難しいだろう。
閉鎖的な城……というのが、見た目からの印象だ。
「こ、これがクリーディア城なのですか!? 以前と比べて、随分と雰囲気が変わってしまったのですね……」
そう驚きを口にしたのはメナスだ。
「うん、この壁は少し前に造られたの。クリード様が不在の時に大臣が勝手にこうしたのよ。こんなの、クリード様が許可するはずないものっ!!」
アミナが苛立った様子で、そう言った。
クリード様、クリード様と皆言うが、クリードはよほど民からの信頼が厚かったようだな。
俺はメナスの表情を伺ったが、複雑そうな表情はしていなかった。
この様子からして、もう取り乱すこともないだろう。
「ふむ。あれを見る限り、そう簡単に城に入れるとは思えんな」
重厚な鎧を身に纏い、扉の両端に立っている若そうな兵士たちを見て俺は言った。
その兵士たちの手には剣が握られている。さしずめ、この城の門番といったところか。
それを見たメナスは、槍を持っている手にグッとチカラを入れ、俺とアミナの前へ出た。
「レイン様、ここは私にお任せください。私なら通してもらえるかと」
大臣の娘だとわかれば通してもらえるという安易な考えだろうが、そう上手く事が運ぶとは思えんな。
俺は腕を組み、一歩引いて様子を見ることにした。
兵士たちは牽制するように互いの剣を交差させ、メナスの前に立ちはだかった。
「貴様、ここに何の用だ?」
「国王様の許可が無い限り、誰一人としてここを通すことはできない。立ち去れ」
国王の許可だと?
それはクリードか? それとも大臣を指しているのか?
メナスが兵士たちに槍をチラつかせながら言った。
「あなた方には、この槍が目に入らないのでしょうか?」
兵士たちは互いの顔を見合わせ、首を傾げている。
「貴様、その槍がなんだというのだ?」
「武器をチラつかせたところで、ここを通すことはできない。立ち去れ」
「こっ、この槍は、クリード様に仕えている者の証ですっ!! あなた方は、それがわからないというのですかっ!?」
メナスの言葉に、また二人が顔を見合わせて首を傾げている。
この様子からして、槍のことはほんとうに知らないように思える。
「そんな槍があったなんて、知ってたか?」
「いや、初耳だ。所詮は見せかけだろう」
兵士たちはクスクスと小さく笑っている。
まぁ、メナスがこの地を離れて約二十年だからな。この若そうな兵士たちが知らなくても不思議なことではないが。
「そんなものを見せびらかしたところで、貴様が〈前国王〉に仕えていたという証拠にはならんな」
「たとえその槍が真物だろうと、俺たちのチカラでは通すことはできない。立ち去れ」
あっはっはと、二人はメナスを小馬鹿にしたように笑っている。
それと今の言葉……少し引っかかる部分があるな。
「ちょっとっ、あんたたちっ! さっき国王様の許可があれば通れるようなこと言ってたわよね!? それなのに通すことはできないって矛盾してるじゃないっ!!」
ほう、アミナも気付いたのか?
……いや、彼女の性格からして、そこまで深く考えてはいないだろうな。
騒がしい女は止まらない。
「それに、クリード様が〈前国王〉ってどういうことよっ!? あのクソ大臣はただの代理でしょっ!? バカにするのもいい加減にしてちょうだいっっ!!」
アミナはそう言いながら、苛立った表情で口が悪いほうの兵士に詰め寄る。
それを制止するように、メナスはアミナと兵士の間に割って入る。
そのメナスの表情は険しかった。
アミナの言葉で口が悪いほうの兵士は、小馬鹿にした笑いから高笑いに変わった。
「あっはっは! 貴様、今もクリードが国王だと思ってるのか? 何度も国を空けるような奴が、いつまでも国王だと?」
「バルデス様のほうがよっぽど国王様の器だ。何度も言わせるな、この場から立ち去れ」
「……そうですか、あなた方のおっしゃることはわかりました」
険しい表情をしたメナスが、静かに口を開いた。
「名乗るのが遅れて申し訳ありません。私の名は、メナス・エルフォート。国王代理である大臣、バルデス・エルフォートの娘でございます。父に話がありますので、ここを通していただけませんでしょうか?」
メナスの言葉を聞き、兵士たちはまた互いに顔を見合わせた。
そして、予想外の言葉が返ってきた。
「バルデス様の娘だと? 貴様、嘘をつくならもっとマシな嘘をついたらどうなんだ?」
「あの方にはご子息も、ご息女もいない。早々に立ち去れ」
「なっ……!?」
言葉を失うメナス。
信じられないという思いからか怒りからなのか、その体はわなわなと震えている。
「ねぇ……いったいどうなってるのよ……?」
アミナもこの状況に困惑し、俺のほうを見る。
しかし俺は、この状況でもまだ腕を組んだまま黙っている。
そして、立ち去れと何度も繰り返す兵士が、俺のほうを見て言った。
「そこの黒髪の男。この女どもを連れ帰ってはくれないか? これ以上ここで話したところで、時間の無駄だというのがわからないみたいでな」
しかし、俺はまだ黙っている。
口を開く前に眼の〈化粧隠蔽〉を解除し、兵士に碧眼を見せた。
「ちょっとっ、レインっ! その眼っっ!?」
兵士よりも先に、アミナが俺の眼を見て驚いていた。
「おい、貴様!! なんで黙ってるんだ? 今コイツが連れ帰ってくれと言ったのが聞こえなかったのか?」
兵士たちが俺の眼に反応する様子は無い。
ふむ。やはりそうか。
俺は前へと歩き出し、口が悪いほうの兵士に言葉を返す。
「あぁ、すまない。聞こえてはいたが、少し困ったことがあってな」
「困ったことだと? 女どもを連れ帰るだけなのに、それのなにが困るって言うんだ?」
兵士は剣を握り直し、少しばかりその手にチカラが入った。
この状況を瞬時に察知したメナスは槍を構え、アミナも魔法をいつでも放てる臨戦態勢に入った。
「いや、彼女の帰る場所がこの城なものでな。入れないとなると、困るのは当然だとは思わないか?」
俺はメナスのほうに視線をやりながら、兵士にそう言った。
「帰る場所がこの城? 貴様、ふざけてるのか?」
「なに、はじめからお前たちに理解してもらおうなんて思ってはいない」
もう一人の兵士が、俺の近くに寄ってくる。
そして、俺の首元に剣を突き付けてきた。
「ふっ。なにも知らない下っ端のお前たちに話をしても、それこそ時間の無駄というものだ」
そう言いながら俺は、突き付けてきた剣を左手の人差し指と中指で挟む。
軽くチカラを入れてやると、パキイィィィーンっと音を立て、その剣は真っ二つに折れた。
その光景を見たアミナは固まり、お決まりの得意な顔をしていた。
「レイン様。なにも知らないとは、一体どういうことでしょうか……?」
メナスが疑問の眼差しを俺に向け、聞いてきた。
「今言った通りだメナス。こいつらはこのクリーディアのことなどなにも知らん。城門の前に立っているだけの門番、ただの飾りだ」
俺のこの返しに対し、メナスはきょとんとしている。
アミナとメナス。固まっている二人など気にもせずに、さらに俺は続けた。
「そうだろう? バルデス・エルフォート。一部始終、こそこそと聞いていたのだろう? どうだ、表に出て少し話をしないか?」
大臣には娘はいない……!?
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