二人に告げる歴史
俺の手によって破壊された〈魔法訓練所〉の敷地から出ると、俺が中指で吹っ飛ばした男がまだ石壁にめり込んでいた。
アミナはその光景を見て「……盛ってなかったのね」と、ボソッと呟く。
メナスはすかさず「ですから、盛るってなんですか?」と、アミナに聞いていた。
アミナは「そんなことも知らないの?」と言わんばかりの、呆れた表情をしている。
ふっ、なんとも微笑ましい光景だな。
そんな俺たち三人は、クリーディア城へ向かうべく歩き始めた。
「ねぇ、レイン。さっきの話だけど……国を解放するって、一体どういうことなの?」
アミナが疑問の眼差しを向け、俺に聞いてきた。
ここは、大魔導士の末裔には伝わっていない歴史の部分も二人に伝えておくべきだろう。
「あぁ、そうだな。だがその前に、歴史について二人に伝えておきたいことがある。先ほどのアミナの話を聞いた上での話だ。二人にとっても聞いておいたほうが良いだろう」
彼女たちは顔を見合わせ、静かに頷いた。
「まず、勇者と魔王がなんのために戦っていたのか。以前メナスから、世界に対してなにも疑問を持ったことがないと聞いたが、アミナはどうだ?」
「どうだ? って聞かれても……。世界に対して疑問? そもそも質問の意味がわからないんだけど……?」
やはり、アールスヘイムとワイロピアの血族だけが、世界がおかしいと思うわけか。
ん? だとしたら……。
「この世界には下級魔法の魔導書しか存在していないようなのだ。それなのに、お前はどうして中級魔法を扱える? 代々、エクスウェル家に伝わる魔導書でもあるのか?」
アミナは一瞬、驚いたような表情を見せた。
「代々伝わる魔導書? なにそれ? そんなものなんて聞いたことも見たこともないわ。アタシは親から魔法を教わったし、魔導書を読んだことがないの。それに、今聞いてビックリしたけど、この世界に下級の魔導書しか存在しないなんて全然知らなかったわ」
なるほどな。
親から教わり、魔導書も読んでいないのであれば彼女がそう答え、俺の質問が理解できないのも至極当然だ。
「でも……どうして下級の魔導書だけなのかしら? 中級、上級魔法はちゃんと存在してるのに、普通の人たちはそれを知る術が無いってことよね!?」
「私も、先ほどのお二方の勝負の際、アミナさんが中級魔法を行使された時に初めて疑問が沸きました。この世界には、下級魔法しか存在しないと思っていましたので」
ふむ、良い流れになってきたな。
俺と行動を共にすることで、少しでもおかしいと気付くことができるのかもしれない。
だが、二人がなにも思わなければ、この先の話をしたところで意味がない。
「一度おかしなことに気付くと、他のことに対してもどんどん疑問が沸いてくる。俺はそれが気持ち悪くて仕方ないのだ。どうやら、その気持ち悪さを覚えるのは、純粋なアールスへイムの血か、純粋なワイロピアの血が入っている者だけらしいがな」
このふたつの血だけ……というのも妙な話ではあるが。
それに、俺やメナスたちも自然と言っているこの世界という表現も引っかかっている。
「それで本題なのだが、かつての大勇者カインと大魔王ザクロは、この世界が〈大きなチカラ〉によって、意のままに操作されているということに気が付いたようなのだ」
彼女たちは次第に、真剣な表情へと変わっていく。
「そのチカラの正体とは、人のようで人ではない〈秩序〉であり、名を〈秩序〉という。二人は操作されているこの世界を変えるべく、その〈秩序〉を滅ぼすために戦っていたのだ」
「ちょっと待ってっ!!」
もの言いたげなアミナが割って入る。
「二人がなんのために戦っていたか、それはわかったわ。でも、どうしてその戦いに、仲間だった魔導士たちがいなかったのよっ!?」
「はっきりしたことは言えんが、どうやら〈秩序〉の領域に踏み込めるのは、アールスヘイムとワイロピアだけらしいのだ。だからアミナが先ほど言っていた〈誰も近付けなかった二人の衝突〉の直前で別れることになったのだろうな」
「ふ〜ん……。なんか納得できないけど、あんたが言うんだから、きっとそうなんでしょうね」
きっとアミナは、魔法に長けている魔導士が〈秩序〉の領域に踏み込めないというのが信じられないのだろう。
まぁ、負けず嫌いな彼女の性格からして、わからんでもないがな。
「しかし、なぜ魔導士の家系には、そういった伝承が語り継がれなかったのでしょうか? そして、皆さんと話せば話すほど、頭が混乱してしまいそうです」
そう言ったのは、メナスだ。
話について行くのに必死で、目をまわしているようにも見える。
つい先ほどまで大臣である父親のことで悩み、魔法も使えずで、さらには今こうして語られていない歴史を聞いているのだからな。
頭の中を整理するには少し時間がかかるだろう。
「これは俺の推測でしかないが、家系どうこうといった話ではなく、歴史はきちんと平等に語られていたのではないか、と睨んでいる」
「うん、アタシもそう思う。だって、下級の魔導書だけなのって明らかに不自然だし、それだったら、歴史書も不自然なんじゃないかって考えにならないかしら?」
ほう。騒がしいボケ担当ぐらいにしか思っていなかったが、なかなかにアミナは頭が切れるようだな。
「あぁ、アミナの言う通りだ。だから俺は歴史を知ろうと、この世のすべての本が集まるというカーザ村の図書館で、すべての歴史書に目を通したのだ」
俺がそう言った直後、アミナは得意の顔をした。
そう、目が点で、口をあんぐりとさせたあの顔である。
「ぜっ、全部読んだっていうのっ!? どれだけの数があるのかは知らないけど、それって千とか二千の話じゃないでしょぉっ!?」
「あぁ、すべてだ。何万とあったな」
アミナが得意の顔をしたまま、固まった。
その表情を横目に、メナスが穏やかな表情で俺の言葉に対し補足を入れる。
「とても長い年月でしたね。あの図書館にあるすべての本がレイン様の魔法印で埋め尽くされた時、それはそれはとても綺麗な景色でした」
メナスがそう口にした後、寂しげな表情を浮かべる。
クリードのことが頭によぎったのだろう。
「図書館にある本を魔法印で全部埋めるって……。あんた、いちいち規格外すぎるのよ……」
いや、規格外な表情をする奴に言われたくはないのだが。
「いちいちとは失礼な奴だな。規格外な者がこの世に一人くらい居てもいいだろうに」
まぁ、規格外という言葉だけでいうのならアミナを含め、もうすでに二人居ることになるが。
「それで、歴史書の内容はどうだったの?」
「あぁ、どれも似たような内容のものばかりで、明らかに不自然だった」
ーーーそして俺はこの流れで、図書館での出来事からアミナと出会うまでの、事の顛末を話した。
メナスが老婆の姿で俺を見守っていたこと、魔法印で封印が解けたこと、クリードのこと、国を解放する企み。
「そっか……クリード様にはもう……会えないのね……」
アミナがそう言いながら目を閉じ、胸の前で手を組む。
同時にメナスも片手を胸に当て目を閉じる。
そうして少し時間が流れ、目を開けたアミナだったが、俺の話に興味を持ったのか緋色の眼をキラキラと輝かせていた。
「解放の話、面白そうじゃないっ! じゃあ、はじめの一歩としてあのクソ大臣をブッ飛ばすところからねっ! ……あっ……!!」
ビシッと拳を突き出したアミナだったが、「はっ、しまった」とメナスのほうを見て、慌てて手で口を塞いだ。
悪さをしているとはいえ、メナスの父親だからな、大臣は。
しかし、そんなアミナの言葉にも「大丈夫ですよ」と、メナスは微笑んでいる。
そうこうしているうちに、俺たちの眼前にクリーディア城が見えてきた。
さて、クリーディアの未来は一体どうなることやら。
なかなかに楽しみだ。
図書館にある冊数は何冊だと思いますか!?
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