メナスの覚悟
アミナが放ったキライという言葉に、メナスは困惑している。
だったらなぜ、私を助けるようなことをしたのか? と、彼女が思うのは至極当然だ。
「いや、ほんとにね、あんたは悪くないのよ。ただ、アタシが生きていく上で、どうしても〈エルフォート〉の名を避けて通れなくてね……」
はぁ……と、なにかを思い出したように、ため息混じりにアミナは言った。
「ほら、さっき大魔導士の血族の話をしたでしょ? エルフォートとエクスウェルは、いつの時代も比較されちゃうらしいの。どっちが優秀だとか、そんなこと……アタシからしたらどうでもいいのよね」
かの勇者と魔王に対し、手を取り合っていた仲間。
時が流れ、いつの間にか互いに優劣をつけるようになってしまったということか。
「しかも今は、エルフォートの名を持つ大臣が国王代理でしょ? アタシね、何年か前にここで修行中に大臣に言われたのよ。エクスウェルの血はもう終わりだ。これからはエルフォートの時代だ!! ってね」
アミナのことをエクスウェルの血族だと知っての発言のようだな。
よほどエクスウェルが憎いのか、それとも……。
「アタシは自分がエクスウェルだとか気にしてないから、はいはいって流す程度で聞いててなにも言い返さなかったんだけど、そしたらね……図が高いぞ、エクスウェルの小娘! 魔導の血はもう終わるのだ!! とか意味のわからないこと言って、不気味に笑いながらアタシの前から去っていったのよ」
魔導の血が終わる?
……なるほど、そういうことか。
メナスの魔力を硬く閉じ込めたのは、父親で間違いなさそうだ。
「父と会っていたのですね。しかし、今のあなたの話では、私の魔力を開放したことと、エルフォートが嫌いという言葉がどうしても結び付かないのですが?」
メナスは首を横に傾けながら、アミナにそう言った。
「そうよね。えっとね、さっきあんたと会って、大臣の言葉を思い出したの。エルフォートの血族はここにいるのに、魔導の血が終わるって、最初は意味がわからなかった」
エクスウェルの血は終わりという言葉だけでは、エクスウェルの血族を潰し、エルフォートを繁栄させるとも解釈できるからな。
魔導の血が終わるともなると、話が変わってくる。
「魔法が使えないって聞いて、そこでようやく理解できたのよ。あんたは大臣の手によって魔法が使えなくなっちゃったんだろうなって」
まさか……魔法を嫌う〈秩序〉が絡んでいるのか?
いや、クリードが治めていた国だ。その線は薄いだろう。
アミナの言葉に対し、怒りからなのか、信じられないという気持ちからなのか、メナスの身体が小刻みに震えている。
「それで、あんたも身分だなんだって言い始めたもんだから、エルフォートってそんなとこばっかり気にすんのっ!? って、ちょっとイラッとしちゃってね」
騒がしい女は止まらない。
「身分がなによっ! エルフォートがなによっ! エクスウェルがなによっ! もうウンザリだわっ!! って」
騒がしい女は、やはり止まらない。
「このまま大臣の思い通りになんてさせてたまるかっ!! って思ってさっ。それであんたの魔力を開放できるか試してみたってわけ」
なるほどな。自由に生きたいというアミナの性格が窺えるな。
俺とアミナは、考えが似た部分が多いようだ。
騒がしい顔と声だけは、決して似たくはないがな。
「で、あんたには申し訳ないんだけど……大臣をブッ飛ばすために、日々ここで修行してたってわけなのっ」
はたして、メナスの心中はいかがなものか?
信じられないという気持ちのほうが、まだ勝っているのだろうか?
「どうだ? メナス。アミナの話を聞いて」
「そうですね……。身分を弁えろと、すぐに熱くなっていましたが、そんなことを言えるような立場ではなかったのだと、反省しております」
まぁ、お前は熱気ではなく、冷気を何度も走らせていたがな。
「きっと昔からの口癖だったのだろうな。これから変えていけば良いだけの話だ。それで、どう感じたのだ?」
「はい。私がエルフォートとして生を受けた以上、血には逆らえません。なので……」
なにかが吹っ切れたような表情になり、彼女は続けた。
「今の父に会ったわけではないですが、都の民の発言やアミナさんの話を聞いて覚悟が決まりました。どんな父の姿であってもこの件は私が始末をつけます。ですので、レイン様とて手出しは無用でございます」
「ふっ。そうか。あまりにもお前の父親が理不尽だったら、うっかり俺も手が出てしまうかもしれないがな」
くつくつと笑いながらも、俺はしっかりとメナスの覚悟を受け取った。
しかし、アミナの方に視線を向けると、彼女もどうやら穏やかではない様子だ。
「ちょっとぉ〜っ! なに勝手に二人で盛り上がってんのよっ。アタシだって大臣に腹立ってるんだからぁ〜っ!」
くすくすとメナスは笑っている。
だが、その笑顔の奥には「譲りません」と言っているようにも見える。
「これは、我がエルフォート家の問題です。あなたは遠くで黙って見ていれば良いのです」
メナスがアミナにズバッと言葉で斬る。
するとアミナが「キィーッ」っと顔を赤くし、興奮し始めた。
騒がしい顔がはじまる。
メナスよ。余計なことをしてくれたものだ。
「ちょっとっ!! アタシのこと、バカにしてんのっ!? それ、恩人に対して言うセリフぅぅ〜っっ!!?」
「先ほど、感謝の気持ちはあなたにお伝えしました。それに対しあなたは、礼などいらないと言いました。それで次は恩人ですか? 都合が良すぎではありませんか?」
「うっ……。そ、そうだけどぉ〜。。そんなに冷たい言い方しなくたってい〜じゃ〜ん……」
騒がしい表情から一変、口元で両人差し指をツンツンと合わせながら縮こまるアミナ。
まぁ、これはアミナの自業自得だろう。
「ご納得頂けましたでしょうか?」
「い、いいわっ! 今回は許してあげるわっ!」
どの目線で言っているのだ。
「なにを二人で盛り上がっている? 俺のことを忘れてはいないか?」
「ちょっとっ! なんなのっ!? これ以上ややこしくしないでくれるっ!? 最初に盛り上がってたのはそっちでしょっ!!?」
「ふっ。可愛い奴だ。いちいち顔や感情が騒がしいが、疲れないのか?」
「か、かっ……かっっ……可愛いっ!? ちょっ、あっ、えっ……!? へえぇぇ〜っっ!?」
顔を赤らめ完全に取り乱している。ほんとうに騒がしい奴だ。
しかし、彼女はすぐに我に返り、続けた。
「ちょっとっ! 顔が騒がしいってどういうことよっ!? しかも、いちいちって余計じゃないっ!?」
彼女はそう言って腕を組み、そっぽを向いてムッと頬を膨らませている。
アミナよ。そういうところを言っているのだ。
「いや、すまない。お前を見てると……つい、な」
うんうん、と、メナスも頷いている。
真面目な彼女でさえも、からかいたくなるほどの女……ということだろうな。
この時代のエルフォートとエクスウェル。どうなるかと思ったが、なかなかに相性が良いと見える。
「ところでアミナ。少し俺に付き合ってくれないか?」
「なによっ!? まだアタシのことからかうつもりっ!?」
思ったことを伝えているだけで、からかっているつもりはないのだが。
「いや、魔力が開放されたメナスに、魔法を見せてやりたいと思ってな」
俺の言葉にアミナは膨れた表情を戻し、緋色の眼を少し輝かせたように見えた。
やはり〈大魔導士〉の血族なだけあって、魔法が好きなようだな。
「なるほどねっ! いいわよっ!! アタシが彼女に魔法を見せてあげればいいのね?」
アミナの言葉に俺は首を横に振る。
「残念だが、少し違う」
アミナは「へっ?」っと、首を傾げている。
俺は彼女にビシッと人差し指を向け、言った。
「アミナ。俺と魔法で勝負しろ」
熱気ではなく、冷気。
自分で書いておきながらも、笑ってしまいます!笑
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