騒がしい女
アミナの騒がしい顔と声が響き渡る〈魔法訓練所〉演習場内。
俺が世の中のことを知らないだけであって、俺くらいの世代の者はこれくらい騒がしいものなのだろうか?
まぁ、そんなことを考えていても仕方ない。
俺は俺、アミナはアミナだからな。
「国王様の息子ってだけでもビックリしたのに、まさかあんたが大勇者の末裔だったなんて……そんなことあるっ!?」
アミナがそう言った直後、演習場に一瞬、冷気が走った。
この感覚……身に覚えがあるな……。
「レイン様のご身分をお知りになっても、身を弁えないのですね、あなたは」
メナスが冷静な口調でそう言った。
やれやれ。もはやこれは彼女の口癖とでも思っておいたほうが良さそうだな。
しかしメナスの言葉に対し、この女はなにを言ってるんだ? という感じで、アミナは呆気にとられている。
「はぁ〜っ? レインはレインだよねぇ!? 国王様の息子だからってなんだって言うの? レインが偉いとでも言いたいのっ!?」
騒がしい女は止まらない。
「大勇者の末裔だからってなに? レインが大勇者でもないのに、勇者の血を引いてるってだけでわざわざ態度を改めないといけないわけぇっ!?」
騒がしい女は、まだ止まらない。
「そんなのおかしくない? そもそも、レインがそれを望んでるの? あんたはレインからそう言われて、そうしてるわけぇっ!?」
ほう。ギャーギャーと言ってはいるが、まさか俺と同様の考えとはな。なかなかに面白い女だ。
捲し立てるアミナの言葉に、メナスは少し押され気味になっている。
「し、しかしっ! レイン様はクリード様のご子息で、いずれこの国の王になられるお方。そのような態度は決して許されることではありませんっ!!」
しかし、このメナスの放った言葉がアミナの怒りに触れたようだ。
アミナの表情が真面目な顔つきへと一変し、彼女の魔力が膨れ上がり、周囲に冷気が発生した。
二人とも冷気……なのだな。
これは女性特有なのだろうか?
「なにそれ? くだらない。だったらその言葉、レインが国王になってから言ってくれるかしら」
そう言いながら、アミナが指先で魔法陣を展開する。
そんな二人の様子を一歩引いて見ていた俺は、〈空間収納〉にて収納していたメナスの槍を取り出し、彼女のいるほうへと投げた。
「身分だとか、なんだとか、それがなんだって言うのよ? そんなの無くなっちゃえばいいのに。ウンザリだわっ!!」
アミナの指先に冷気が集まり、その冷気がメナスに向け放たれた。
「〈氷雨〉っっ!!」
氷の粒がまるで雨が降るかのように、メナスを目がけ飛んで行く。
だが、粒はとても小さく、相手に傷を負わせるほどのものではなかった。
この〈氷雨〉は氷系魔法の中では下級魔法。
誰にだって扱える簡単な魔法だ。
アミナが〈氷雨〉を放った瞬間、メナスは左脚で踏み込み、常人の目では決して捉えられない速度で動き出し、すぐにアミナの背後を取っていた。
そのあまりの移動の速さに、元いた場所にメナスの残像があり、アミナはその残像に〈氷雨〉を放っている。
それに気付いていないアミナに対し、メナスは背後からアミナの頬に槍を突き付けていた。
ふむ。なかなかに素早い動きをするではないか。
どうやら俺はメナスのことを少し甘く見ていたようだ。
魔力を感じられないことで反応が少しは遅れると思っていたが、クリードがメナスを俺の監視役にしたのは、魔法が使えなくともたいした問題ではなかったようだ。
「へぇ〜。あんた、なかなか速いのね。さすがは国に仕える騎士様ってところなのかしら?」
メナスは槍を動かさない。
アミナの動向を警戒しているようだ。
「でも、ざぁ〜んねんっ!!」
その直後、ボガアァァーンという音が響き、メナスの背中が炎で焼かれようとしていた。
「くっ……!!」
その衝撃でメナスは片膝をつく。
「相手の背後を取ることばっかり考えて、自分の背後を疎かにするようじゃダメねっ!!」
メナスの背中を焼こうとしているのは、炎系魔法の〈火炎〉だ。
もちろんこの〈火炎〉も下級魔法である。
先ほどの〈氷雨〉は囮で、最初からこれが狙いだったのだろう。
間髪いれずに、アミナがまた指先で魔法陣を展開した。
同時に、次にくる攻撃に備えるべく、メナスは立ち上がりグッと槍を構える。
「あっ。構えなくても大丈夫よっ!! もうあんたに攻撃はしないから安心してっ! 〈陣風〉っ!!」
今度は風系魔法だ。
言うまでもないが、これも下級魔法である。
メナスの背中を焼こうとしていた炎を、風で消そうとしているのだろう。
少し強めの風が吹き、その炎は完全に消え去った。
鎧が少し焦げていたくらいで、メナスは無傷だったようだ。
「メナスっ! 試してみたいことがあるから、そこを動かないでっ!! ちょっとチクっとするかもしれないから、我慢してねっ!!」
アミナはそう言いながら、また別の魔法陣を展開する。
その途端、空が急に暗くなった。
これは間違いなく雷系魔法だ。
下級魔法しか使えないのなら、おそらく……。
アミナは空に右手を伸ばし、勢いよくその手を振り下ろした。
「お願い……うまくいってちょうだいっ……!! 〈電雷〉っっ!!」
瞬間、細い雷の矢のようなものがメナスの心臓付近を目がけ、空から落ちてくる。
しかし、彼女はもうメナスに攻撃はしないと言っていた。目的は一体なんだ?
ドスンッと、少し鈍い音を立て、アミナの放った〈電雷〉の雷の矢がメナスの身体を突き抜けた。
だが、メナスは無傷だ。
少しの沈黙のあと、笑顔でアミナが口を開く。
「ふふっ。どう? なにか変化はある??」
なるほど。そういうことだったのか。
すぐに俺はわかった。メナスの内側から溢れ出してきた、その魔力に。
「こ、これはもしかして……!? 魔力……なの、です……か? あ、あなたは私に、一体なにをしたの……ですか!?」
胸元に手を当てながら、彼女は続ける。
「あ、あぁ……見えます……。クリード様が張られた結界も見えます……!! レイン様や、あなたの魔力もしっかりと感じ取れます……。あぁ、なんということでしょうか……」
メナスは涙ぐみながら、自身に秘めていた魔力をゆっくりと確かめている。
「う〜ん……あんたの魔力が封印の類じゃなく、硬い箱のようなもので護られてるんじゃないかなってなんとなく思ってね。それで、アタシの雷でその硬い箱を破壊してやるぅ〜!! みたいな感じで、撃ち抜いてみたんだけどぉ〜……成功したみたいで良かったわっ!!」
アミナが撃ち抜いてみたと、なんとも軽く言っているように聞こえるが、魔力の源がある心臓付近を寸分の狂いもなく撃ち抜けるその技術は、決して誰にでも出来ることではないぞ。
このアミナ・エクスウェルという女……相当な修練を重ねているな。
だがしかし……誰がメナスの魔力をこんなふうにした?
そして、その理由はなんだ?
「アミナさん、あなたには感謝のキモチでいっぱいです。ほんとうにありがとうございます」
アミナは「礼なんていいってぇ〜」と、ニヤニヤしながら、でもどこかホッとした表情をしていた。
「でも、あなたもレイン様と似たようなことをおっしゃるのですね」
「ん〜? 似たようなこと??」
「はい。レイン様も身分など、そんなの知るかとおっしゃっていて、私は少し困っていたのですが……先ほどのあなたも、そういのはウンザリだと」
アミナのニヤニヤしていた表情が、一瞬で真面目な顔つきに変わった。
「あぁ。そのことね。……ごめんね、あんたが悪いってわけじゃないんだけどぉ……」
メナスは「はい?」と首を傾げ、アミナの言葉を聞いている。
「アタシ……エルフォートがキライなのよ」
二人とも冷気……
書いていて、確かに!って自分でも思いました。笑
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