魔導の血
「ちょっとっ!! 国王様と同じ名前を持つ男と、その国王様の代理をしている大臣と同じ、〈大魔導士〉の名前を持つ女がどうしてこんなところにいるの? あんたたち、一体何者なのよっ!?」
「先ほど、メナス・エルフォートと名乗ったばかりですが」
「そうだな。何者もなにも、レイン・アールスヘイムと名乗ったばかりだぞ?」
俺たちの言葉で、どんどんアミナの顔が赤くなっていくのがわかった。
「ちょっとっ! アタシのこと、バカにしてんのっ!? からかうのも、いい加減にしなさいよねっ!!」
ん? ちょっと待て。
アミナは今、メナスのことを〈大魔導士〉と言わなかったか?
「アミナ。今、エルフォートがなんだと言ったのだ?」
俺に限ってあり得ないことだが、聞き間違えたのかもしれないと思い、真面目な表情で再度確認した。
「ねぇ、レイン。あんた耳悪いのかしらって言いたいところだったけど……その顔はどうやら真剣のようね」
いや、俺はいつだって真剣なのだが。
アミナは人差し指を立てて言った。
「エルフォートは〈大魔導士〉の血族よ」
やはり聞き間違えではない。
しかし、俺よりもメナスのほうが驚いている様子だ。
「だ、そうだが、メナス。お前はどう思う?」
「そ、そんなはずは……。我がエルフォート家は、生まれつき魔法が使えない血族だと父から聞いておりますし、父が魔法を行使している姿も見たことがありません。私も魔法はまったく使えませんし……」
「はあぁぁっ!? もしかして、大臣って……あんたのお父さんなの!? しかも魔法使えないとかウソでしょっっ!?」
メナスが申し訳なさそうに小さく頷く。
どうやら俺やメナスよりも、アミナのほうがさらに驚いているようだ。
「アミナ、よく眼を凝らしてみろ。メナスからはまったく魔力を感じられない。彼女は本当に魔法が使えないのだ」
「いやいや、そんなのあり得ないわっ!! 魔力がゼロの人間なんてこの世に存在しないものっ! 魔法を使わない人だって微量ながらも魔力は絶対にある。レインはそんなことも知らないのっ!?」
「あぁ。村から一歩も出ることなく、ほとんど一人で過ごしてきたからな。残念ながら、そういった基礎知識は持ち合わせていない」
またアミナの口があんぐりとしている。
しかしこれは思いもよらぬ展開になったな。
魔法が使えないというメナスに対し抱いていた疑問は、やはり間違っていなかったというわけだ。
魔力も感じず、魔法は使えないと彼女から聞いていた以上、とくに深追いはしなかったが。
「し、しかし、それならどうして私には、魔力そのものが皆無なのでしょうか?」
そう。メナスの疑問はもっともだ。
クリードが仕掛けていた〈封印解除〉のような、俺の知らないなにかしらの魔法で彼女の魔力になにか細工をしているのだろうか?
だが、仮にそうだとしてもだ。
なぜそんなことをする必要がある?
「わかったわっ。まずはアタシとメナスの血族の話をしたほうが、メナスも少なからず納得できるかもしれないわね」
アミナの血族? 彼女もまた、特殊な血族なのか?
メナスは真剣な表情になり、アミナの言葉に耳を傾ける。
「この話は、歴史書を読んでいるのなら興味深い話になることは間違いないと思うの。聞いてくれるかしら?」
俺とメナスは顔を見合わせたのちに、アミナのほうに向き直り頷いた。
俺たちの合図を受け、彼女は人差し指を立てて話し始めた。
「東の大勇者カインと、西の大魔王ザクロがいた神話の時代があったこと。これは世界中の誰もが知ってることだと思うの」
歴史書がどれもこれも同じような内容だからな。
それを知らない者などいないだろう。
「この二人が、なんのために戦っていたのかアタシは知らないんだけど、歴史書に記されている二人の姿が消えた最後の衝突が起こる直前まで、勇者と魔王にはそれぞれ信頼できる仲間がいたの」
ほう。この話はクリードから聞いていないな。
歴史書にももちろん記されていない。これはなかなかに興味深い。
「まず、勇者カインのサポートをする魔導士、ミカ・エルフォート。彼女は、カインを護りながら戦う魔導士だったみたい。防御役ってところかしら」
アミナが語るも、やはりメナスはまだ信じられないといった様子だ。
「そして、魔王ザクロのサポートをする魔導士、イグニス・エクスウェル。彼は、ザクロが放つ魔法の威力を増幅させるような魔法を得意としてた。エルフォートが防御なら、エクスウェルは攻撃補助役になるのかしらね」
ほう。アミナもメナスと同じ〈大魔導士〉の血族ということか。
村を出たばかりなのに、こんな不思議な巡り合わせもあるものなのだな。
あるいはこれも〈秩序〉が操作している可能性もあるか。
「どうして最後の戦いの時に、ミカとイグニスが二人と一緒じゃなかったのか……そこは伝承にないんだけど、きっとなにか理由があったんだろうなってアタシは思うの。じゃないと、最後まで協力して戦うのが当たり前でしょ!? 仲間なんだからさっ!」
おそらく〈秩序〉の領域には、この世の理から外れた者しか踏み込めないのだろう。
だとすると、メナスやアミナの血族はこの世の理から外れていないということになる。
しかし、血族によって語り継がれる歴史が違っているのか?
大魔導士が歴史書に記されていないのは、やはり〈秩序〉にとって魔法そのものが邪魔な存在で、消したかったのかもしれんな。
「だからメナスっ。あんたはむしろ魔法を得意とするエルフォートの末裔なのよ!! メナスはもちろんのこと、あんたのお父さん……大臣だって絶対に魔法が使えるわっ!!」
ビシッと人差し指をメナスの鼻先に向け、アミナはそう言った。
だが、メナスは完全に固まってしまっている。
それもそうだろう。
国が父親の手によって変えられてしまったかもしれないこと、自身は〈大魔導士〉の血族で魔法が使え、あまつさえ先祖は勇者のサポートしていた……など、都に入ってからこの僅かな時間で、信じられないような事実ばかり突き付けられているのだからな。
「メナスが魔法を使えないのはなにか理由があるはずよっ! お城に行って大臣から直接聞いてみましょうよっ!!」
「まぁ、それが一番手っ取り早いだろうが、そんな簡単な話ではないと思うがな。どうだ? メナス」
「そ、そうですね。父に会って確かめるべき……かと……」
メナスの表情はとても暗い。
まだ気持ちの整理がつかないのだろう。
次にアミナは、俺の鼻先に人差し指を突き出してきた。
「そんで、レインっ。あんたは国王様と同じアールスヘイムって名前みたいだけどぉ〜……。ど、ど、どういうことっ??」
なんだ、指を突き出してきたものだから、てっきりアールスヘイムについてなにか語り出すのかと思って期待したのだが、どうやらなにも知らないようだな。
「あぁ。どうやら俺はその国王、クリードの息子らしい。まぁ、知ったのはつい昨日のことだがな」
またアミナの口があんぐりしている。
どうやら性格だけではなく、顔もいちいち騒がしいらしいな。
表情が豊かというのは間違いで、騒がしいというのがしっくりくる。
俺は「それと」と、続けるように、人差し指をアミナの鼻先にビシッと突き出して言った。
「それと、アミナ。ついでにもう一つ教えてやる。メナスも聞いておくが良い。大勇者カインの名は〈カイン・アールスヘイム〉で、大魔王の名は〈ザクロ・ワイロピア〉だ。お前たちの知っている伝承や歴史に足しておくんだな」
メナスは目が点になり、アミナの話を聞いた時のようにまた固まってしまった。
そうか。クリードからこれも聞かされていなかったようだな。それでは驚くのも至極当然だ。
その一方でアミナは目を閉じ、顎を撫でながらなにかを考えているような素振りを見せた。
その沈黙の時間、約五秒。
「えええええぇぇぇ〜〜〜っっっ!? ゆ、ゆっ、勇者の血なのおおおぉぉ〜〜っっ!?」
突然、大声を発するアミナに驚くメナス。
「ちょっと待ってっ! ちょっと待ってっっ!! へえっっ!? ぜんっぜん頭が追いつかないんだけどおおぉぉぉ〜〜〜っっ!!」
ほんとうに騒がしい女だ。
はじめは物語を考えることに集中していたのですが
アミナの登場により、書くのがとても楽しくなりました!!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!
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